- とっておきの授業スキル
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長瀬:最終回は家庭科、藤田美和子先生です。藤田先生、どうぞよろしくお願いします。
家庭科は、自我が芽生え、大人への第一歩を踏み出す5・6年生が学ぶ教科です。子ども達は家庭科の授業をとても楽しみにしています。それは、他教科にはない体験的な学習や達成感のある作品作りがたくさん組み込まれているからです。
そんな子ども達のやる気をもっと引き出すには、魅力ある家庭科室の環境づくりが大切です。何のために家庭科の学習をするのかという明確な目標、学習の進め方、安全と衛生に配慮した設備や道具の配列など、家庭科室を学ぶ環境に整えることが教師の大事な役割です。子ども達がわくわくして家庭科室に来るようになる家庭科室の環境づくりのスキルを紹介します。
スキル1家庭科の合言葉=家庭科の目標
ご飯を炊くという実習のためには、なぜ米に吸水させるのかという知識、水や米の量を量る技能、家族の誰のためにご飯を炊くのかという心情がそれぞれ必要です。しかし、知識・技能・心情という固い言葉では子ども達の心には響いていかないでしょう。
家庭科で学ぶことはすべて、自分一人でも生き生きと生活するためにあることを繰り返し教える必要があります。そこで、学ぶべき知識を『生活する知恵』、習得すべき技能を『生活する力』、家族が喜ぶためにすることを『生活する心』と合言葉をつくって、家庭科室の一番目立つところに掲示しました。
家庭科の授業で新しい題材に入ったとき、何が『生活する知恵』で、何をすることが『生活する力』になるのか、どうすればもっと『生活する心』をもつことができるのか、子ども達自身が見通しをもって学習を進めるようにしたいものです。
スキル2家庭科室のルール作り=衛生・安全指導
家庭科の授業は実習時間が多く、危険を伴う包丁やはさみ等の道具、ガスや電気を使用する場面があります。ちょっとした不注意でも、事故や怪我が起きやすい状況にあるので、何より教師は危機管理意識を常にもっておくことが必要です。
家庭科室を使用する場合のルールは、なぜそうしなければならないのかを子ども達に理解させ、徹底させ、そのルールを家庭科室に常掲しておきます。実習や授業の時間のたびに同じ注意を繰り返し指導するのは時間の無駄です。学校や児童の実態に合わせて、家庭科室でのルール作りを行うようにします。
ルール作りの例として、次のような事柄があります。「道具・設備は教師の指示に従って使用する」、「家庭科室内は走らない」、「調理実習の身支度」、「健康状態や怪我の報告」などです。ミシンやアイロンを使うときはもっと細かいルールが必要です。細かいルールがあるときは、それをカードにして、ラミネートをかけ、各班ごとに配ってもよいでしょう。
家庭科室での衛生・安全指導は、何よりも優先すべき事項です。
スキル3板書が命=家庭科の授業は時間との勝負
子ども達が一番楽しみにしているのは、調理実習です。身支度を済ませ、やる気満々で家庭科室にやってきます。家庭科室の一番の環境は板書です。
板書は子ども達が家庭室に入るまでに完成させておきます。板書を見れば、すぐに行動が起こせるように考えて構成します。作業の手順は、文字よりも実際の画像あるいは写真が有効です。
教師一人に対して、子ども達は30数名。しかも、2時間で調理をし、試食し、片付けを済ませなければなりません。時間との勝負になります。子ども達がそれを見れば間違いなく調理できる、または作業ができるよう、板書を分かりやすく工夫する必要があります。
そして、家庭科の授業で大事なのは、成功体験です。子ども達の生活経験は年々少なくなっています。それぞれの家庭で家事のやり方、調理の手順もまちまちです。学校の家庭科という授業の場で、同じ手順で、同じ材料や道具できちんとした料理を作る、または布の製作をするというのは、これから先の長い人生の土台となります。将来、生きて働く力を身に付けることこそが、家庭科の授業が目指していることです。
- 家庭科室経営にも、学級経営と同じように、作業の順番が分かりやすい視覚支援やユニバーサルデザインを取り入れていきましょう。
- 家庭科では「やってはいけないこと」を優先して指導していきましょう。そうすれば、子ども達は正しい器具の取り扱いの必要性を感じることができます。
- 家庭科専科は学校に一人しかいません。また、学級担任で家庭科を指導する場合も周りに指導に長けている人がいない場合が多々あります。分からないことは分からないままにしないで、自らの課題は自ら動いて解決していきましょう。
長瀬:藤田先生ありがとうございました。若い先生を応援したいということで始まった連載も今回で終了です。ぜひ、多くの人の支援を得ながら、すてきな学級、授業をつくっていきましょう。一年間、ありがとうございました。