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文部科学省の“脱ゆとり宣言” 学習指導要領のこれまでとこれから
教育zine編集部渡邉
2016/5/31 掲載
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  • 学習指導要領・教育課程

 今月10日、「教育の強靭化に向けて」と題した文部科学大臣の文書が公表され、次期学習指導要領のポイントが示されました。この文書によると、

・知識と思考力の双方をバランスよく、確実に育むという基本を踏襲し、
 学習内容の削減は行わない。
・「アクティブ・ラーニング」の視点から、学習過程の質的改善を行う。
・上記の方向性のもと、必要な教科・科目構成等の見直しも行う。

という3点がポイントとして示されています。

 次期学習指導要領の改訂は、戦後8度めの改訂となります。これまでも、学習指導要領の内容は、社会の状況や学校をめぐるさまざまな課題・問題を受けて変化してきています。その変遷を簡単に追ってみましょう。

学習指導要領の変遷

 戦後の学習指導要領と授業時数の移り変わりは以下のようになっています。

学習指導要領の改訂

年度 特色など
@ 1947年
(昭和22年)
・最初の学習指導要領。
・戦前からの修身・地理・歴史を廃止、社会科を新設。
・家庭科を男女共修化。
・自由研究を新設。
A 1951年
(昭和26年)
・自由研究を廃止。教科以外の活動(小学校)、特別教育活動(中学校)と改める。
・中学校の習字を国語科に、国史を社会科に統合。
・体育科を保健体育科と改める。
・職業科を職業・家庭科と改める。
B 1961年
(昭和36年)
・教育課程の基準としての性格の明確化。
・系統性を重視した学習カリキュラム。
・道徳の時間の新設。
・基礎学力の充実、科学技術教育の向上等が示される。
 →公立学校に対して強制力がある学習指導要領が施行。
C 1971年
(昭和46年)
・現代化カリキュラムといわれる、濃密な学習指導要領。
・教育内容の一層の向上をめざす。
・時代の進展に対応した教育内容の導入。
D 1980年
(昭和55年)
・ゆとりカリキュラムといわれる、学習内容が削減された学習指導要領。
・各教科等の目標・内容を中核的事項にしぼり、学習負担の適正化を図る。
E 1992年
(平成 4年)
・社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成をめざす。
・小学校の生活科の新設と道徳教育の充実。
・新学力観(自ら学ぶ意欲や、思考力、判断力、表現力などを学力の基本とする学力観)の登場。
F

2002年
(平成14年)
・基礎・基本を確実に身に付けさせ、自ら学び考える力などの「生きる力」を育成。
・授業時数の大幅な削減と教育内容の厳選。
・「総合的な学習の時間」の新設。
・学校完全週5日制が実施。
F

2003年
(平成15年)
・2002年(平成14年)の学習指導要領を一部改訂。
・「過不足なく教えなければいけない」という文言が消滅。
・学習指導要領の内容を超え、いわゆる「発展的な学習内容」も学習可能となる。
G

2011年
(平成23年)
・「生きる力」の育成をめざし、基礎的・基本的な知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力の育成のバランスを示す。
・授業時数の増加。
・算数・数学や理科等で、前回改訂で削減された学習内容の復活。
・小学校の外国語活動の導入。
G

2018年
(平成30年)
・2011年(平成23年)の学習指導要領を一部改訂。
・教科外活動(領域)であった小学校・中学校の「道徳」を教科化。
※2015年度からの移行措置を経て、小学校は2018年度、中学校は2019年から完全実施。

※おもに小学校・中学校についてまとめています。

※年度は小学校で本格的に実施された年度です。

授業時数の変遷

小学校 中学校
授業時数の変遷(小学校) 授業時数の変遷(中学校)

※時数の単位時間は,小学校が45分,中学校が50分です。(文部科学省:小・中学校の授業時数に関する基礎資料より)

 このようにみると、各時代の社会背景を反映して、詰め込みとゆとりの間を行ったり来たりしてきたことがわかります。
 1971年(昭和46年)改訂の学習指導要領では、60年代の高度経済成長を受けて「現代化カリキュラム」といわれる過密な授業内容が導入されましたが、教科書を消化しきれないまま進級・卒業させるといった状況や、いわゆる「落ちこぼれ」を生むなどの問題が生じました。
 その反省から、授業時数の大幅な削減と教育内容の厳選を図ったのが、1980年(昭和55年)の「ゆとりカリキュラム」です。この改訂以前は、傾向として学習量が増える方向性であったことから、日本の教育の大きな分岐点といえます。
 その後「ゆとり教育」が段階的に強化されてきましたが、いわゆる「PISAショック」を受けて、2011年(平成23年)の学習指導要領では、減り続けてきた授業時数が約30年ぶりに増加、「脱ゆとり」教育へと動き出しました。

今後の改訂にむけて

 時代や社会の状況、求められる力などに応じて、教育の在り方が変わっていくことは必要なことです。
 しかし、子どもたちは、その時に示された方針やカリキュラムが最善とされるなかで学習し、育っていくのですから、総括や反省をきちんと行ったうえで、次の方針やカリキュラムに移行していく姿勢が重要です。方針や目標そのものが問題というよりも、設定したカリキュラムで、方針や目標に合った指導や学力づくりが実現できたのかということも、もっと議論されるべきなのではないでしょうか。
 教育を受ける子どもたちが振り回されることがないよう、慎重な検討や仕組みづくりがなされていくことを、「ゆとり世代」とある種差別的に呼ばれる身としては、切に願います。
 今回示された方針に基づいた指導要領は、小学校は2020年(平成32年度)、中学校は2021年(平成33年度)から全面実施されていきますので、今後どのような形で展開・運用されていくのか、注目していきたいと思います。

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