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先月28日、在留外国人への日本語教育の充実を国や自治体に促す「日本語教育の推進に関する法律(日本語教育推進法)」が施行されました。在留外国人が受ける日本語教育の機会と質を最大限に高め、共生社会の実現を目指すことを目的として成立したこの法律。具体的な施策については今後協議されますが、この法を実体ある形にしていくにあたり、学校現場ではどのようなことが求められていくのでしょうか。
「日本語教育」の現状
この法律において、日本語教育の対象となるのは「日本語に通じない外国人及び日本の国籍を有する者」と定義されています。具体的には、外国人の児童生徒や留学生,労働者などが対象です。法務省が「平成30年末の在留外国人数は、273万1093人で、前年末に比べ16万9245人(6.6%)増加となり過去最高」と発表しているように、在留外国人は近年非常に多いと言えます。さらに文部科学省による「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28年度)」では日本語指導が必要な児童生徒が年々増加していることが分かっています。
このように日本語教育の機会が必要な児童が増加する一方で、日本語講師は平成28年時点で3万7962人(文化庁「平成28年度 国内の日本語教育の概要」)。講師の多くは非常勤やボランティアです。日本語教育へのニーズの高まりに反し、その教育体制には未だ多くの課題があります。
日本語教育の体制を整えるには?
日本語教育の現状に対し文部科学省では、「外国人受入れ・共生のための教育推進検討チーム」による課題の検討が半年にわたって行われました。そこで提言されたのが、外国人児童への教育の充実に向けた7つのアクションです。中でも学校における指導体制の充実としては、以下の4点が挙げられています。
(1)学校における教員・支援員等の充実
(2)教員の資質能力向上
(3)進学・キャリア支援の充実
(4)障害のある外国人の子供への支援
ここでは特に(1)と(2)について取り上げます。
(1)は単に教員を増やすということにとどまらず、ICTを活用した新たな指導・支援体制を整備するということも含まれます。具体的には、多言語対応の翻訳システムや遠隔教育の充実、また外国人児童が利用しやすい教材の活用などがこれにあたります。これに対し(2)は、教員への日本語教育に関する研修の機会を全国的に増やすという取り組みです。簡潔にまとめれば、(1)は数と体制の充実を、(2)は質の充実を図る方策であると言えます。
学校に求められること
今回成立した日本語教育推進法の理念を実体化していくには、文部科学省の打ち出す中長期的な方策を進めていくことが重要となってきます。そして学校現場においても、日本語教育を必要とする児童に対しての働きかけを行っていくことが大切です。とはいえ、忙しい学校現場においてどのような働きかけをしていくことが大切なのでしょうか。
まず挙げられるのは、優先順位を考慮した日本語教育の大切さです。日本語教育推進法では、対象者が日常生活を送るうえで必要な日本語を取得できるよう努めることが明記されています。これは学校生活を送る児童にも特に言えることです。学校においては、対象児童に対してまずは学校で過ごすのに必要な日本語を優先的に教えていくことが重要となってきます。また対象者の母語の尊重という観点も大切です。これも日本語教育推進法で「外国人児童生徒の母語の重要性に配慮すること」と定められています。児童に日本語を強要するのでなく、言語に対する豊かな視点を提供する手助けをする、という構えでいることも必要だと言えます。
これらは児童の日本語教育への気力にも関わるところです。日本語がわからないため学校生活もままならず母語も蔑ろにされてしまう、ということを避けるためには現場のサポートが必要不可欠でしょう。
いずれの働きかけも学校現場にとどまらずその後の自立までも視野に入れ、対象者の可能性を広げるためのものとなっています。これからの時代に求められる日本語教育の形が、この取り組みの中にあると言えるでしょう。
今後も増えていくと予想される日本語教育対象者。日本語教育推進法が共生社会の実現に向けて良く機能していくことを願っています。
- 「日本語教育推進法が成立 学校に専門教員などを配置」(教育新聞 2019年6月21日)
https://www.kyobun.co.jp/news/20190621_01/
- 「日本語教育推進法が成立 国・企業など学習支援責務に」(日本経済新聞 2019年6月21日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46391530R20C19A6CR8000/