作文指導を変える―つまずきの本質から迫る実践法
作文指導はなぜ難しいのか?その理由の本質に迫りながら、本当に必要な「指導の仕方」を考えます。
作文指導を変える(9)
作業の流れを明示する
京都橘大学教授池田 修
2023/2/15 掲載

 ここまでの連載のポイントを押さえることで、子どもたちは、かなり書けるようになりました。しかし、書き始めたものの止まってしまう子どももいます。それは、次に何をすれば良いのかがわからない子ども達です。

 次から次へと、その次にやることを子どもに指示するのは、とても効率が悪いです。そこで、作業の流れを何かで系統的に示す必要があります。「作文を書くのは、何かに似ているんだけど、分かる?」と聞いたところ、「家を建てることに似ている」と答えてくれた子どもがいました。確かにその通りなのですが、この喩えでは分からない子どもが出てくるでしょう。もっと身近なもので喩えたいですね。*1

作文は、料理に似ている

 私が、喩えとして示したのが、料理です。実に作文と似ています。最初に似ているなあと思ったのは、「味見と推敲」です。ここを手がかりとして、作文を料理という喩えで説明できないかを考えて完成させたのが、以下の対応表です。これを示すことで、子どもたちは教師にその都度確認することなく書けるようになりました。

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 ところで、この表を見て気が付くことはありませんか? そうなんです。原稿用紙を配って「さあ、しっかり書きなさい」と指示を出すのは、1から7を省略して8から始めていることが分かります。これは、泳げない子どもをプールに連れて行って「さ、自由に25m泳げ」と言っているようなものです。調理実習であるにもかかわらず、材料も道具もなしで作り方も分からないまま「さ、美味しいカレーを作ってね」と言っているようなものなのです。溺れてしまいます。作れません。もちろん作文で溺れはしませんが、実際は溺れているのと同じ状況なのです。これでは子どもが可哀想です。

 以下、表の中の言葉のいくつかを説明をしましょう。

1-8-1/3枚

 1-8-1とは、プロローグ、本文、エピローグの割合です。
 プロローグは、本文を読むために知っておいた方がいい情報です。例えば、「今年体育大会は、10月15日(日曜日)、天気はやや風は強かったものの、快晴であった」のようなものです。この「風が強かった」というのが、本文の伏線になる場合もあります。
 エピローグは、付け足しです。「なお、この後、池田先生は〜だったようだ。お疲れ様である」のようなものです。プロローグとエピローグは、必ず必要なものではありません。必要で使うときには、このぐらいの割合がいいということです。
 
 3枚とは、50分で目指す原稿用紙の枚数です。私の中学生の作文指導のゴールは、テーマを与えたら、50分で原稿用紙3枚を書き上げるというものです。手書きではギリギリですが、現在はデジタルディバイスがありますから、準備の仕方が分かれば、かなりの子どもが可能になるのではないでしょうか。

書きやすいものから始める/小見出しを入れる

 第8回で、書き出しは「インパクト順」に書くと良いと述べました。ただ、書いてみないと一番インパクトのあるものが何なのかが分からないこともあります。その点、今の子ども達はいいなあと思います。私が指導していた頃は原稿用紙ですから、後から順番を入れ替えるのには、(1)消しゴムで消して書き直す、(2)切り貼りをする、(3)小見出しごとに原稿用紙を新しくして並べ替えが簡単になるようにする、の3つの選択肢しかありませんでした。しかし、今はデジタルディバイスがあります。書きやすいものから書いてしまって、後から簡単に順番を入れ替えることができます。これはぜひ活用したいです。
 小見出しを入れることも大事です。この連載でも、小見出しは小まめに入れています。ただただ本文が続く、いわゆるベタ打ちの文章は、読んでいて疲れるものです。原稿用紙1枚につき、1つの小見出しを用意する。こうすることで読者が読みやすくなります。

タイトルを付ける

 タイトルは重要です。体験作文のタイトルは、ちょっと読んだだけでは分からないけど、なんだか読んでみたいものを付けることが重要です。*2「楽しかった運動会」はダメなわけです。
 ただ、これだけを伝えてタイトルを付けられる子どもは5%ぐらいでしょう。実際はどうするかというと、最初に仮タイトルを付けて書き始めます。そして、書き終えたら、本文の中に自分で書いているキーワードを抜き出して、それをタイトルにすると良いのです。向田邦子さんのエッセイでよく使われる方法です。*3

誤字・脱字のチェック/声に出して読み返す/異性になる

 誤字脱字を見つけるには、自分が他人になるようにすることが必要です。一番良い方法は、時間を置いて読み直すことです。1週間も置いておくと、かなり他人になれます。
 しかし、時間がない時は、私は性別の違う他人の声で黙読します。小論文のテストの見直しなどの時には、この手を使います。
 また、デジタル入力の場合、いつもと違うフォントに変換するのも効果的です。さらに、横書きを縦書きに置き換えたり、DEEPLなどの翻訳サイトを使って、英語にしてみたりもします。英語になった自分の文章を読んでみると、客観的に見ることができてなかなか面白いです。

*1 喩える。これは説明の時に重要な技術です。学生たちは、「先生のように喩えが上手くなりたい」と言ってくれます。しかし、喩えが上手くなるにはかなりの知識と訓練が必要になります。
*2 報告文や論文は違います。これらは、文章の結論をタイトルにします。
*3 「父の詫び状」「夜中の薔薇」「眠る盃」などがそうですね。

今回のポイント

  • 作文は料理に似ていると喩えることで、作業の全体像が明らかになる。
  • 前提を確認し、準備をさせないで書かせては生徒は「溺れて」しまう。
  • タイトルの付け方、誤字脱字のチェックの仕方も工夫してみる。

池田 修いけだ おさむ

京都橘大学発達教育学部教授。
公立中学校教員を経て現職。「国語科を実技教科にしたい、学級を楽しくしたい」をキーワードに研究・教育を行う。恐怖を刺激する学習ではなく、子どもの興味を刺激し、その結果を構成する学びに着目している。国語科教育法、学級担任論、特別活動論、教育とICTなどの授業を担当している。

(構成:大江)
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