算数では、三角形の合同条件に深くは触れません。しかし実際には、三角形の作図の際、合同条件は無意識ながらも暗に用いています。
そこで、その合同条件を明確に発見する授業を試みました。なぜなら、合同条件を子どもが見いだす際に「反例をあげる」という重要な思考方法を経験させることができるからです。合同な三角形を作図するために必要な情報を見いだすのが主な活動です。作図できる場合の条件を整理していくために、できない場合の条件を整理していくという展開にしました。
反例をあげる話し合い活動@
Tこれと形も大きさも同じ三角形をかけるかな?
かかれた三角形が子どもに見えないように、黒の画用紙などで隠します(頂点や辺を表すアルファベットの記号については別の三角形で指導します)。
C長さとか角度がわかればかけるよ。
Tなるほど、じゃあ長さとか角度の情報をいくつ知りたいですか?
この場面で、情報は全部で辺3つ、角3つの計6つであることを確認します。
C2つ知りたい。
T2つでかけそう? では試してみよう。どこの情報を知りたいですか?
C辺aの長さと∠Bの大きさが知りたい。
辺aの長さと ∠Bの大きさを伝えます。
Tとりあえず、まず今わかった情報をかいてみましょうか。
Cこれじゃあ無理だよ。頂点Aがいろいろな場所になっちゃう。
C確かに。辺bの長さがいろいろな場合があるからね。
T1つの形に決まらないから、どれにしていいかわからないね。
Cじゃあ、もう1つ情報がほしい。
Tなるほど! 3つの情報ならかけるということ? どこが知りたいですか?
C辺cの長さがわかれば1つの形に決まるよ。
Cそう! 頂点Aが決まるから。
Cそうすると、辺bの長さも決まるね。
3つめの情報として辺cの長さを教えます。
Cこれで頂点Aが決まるから、あとは頂点Aと頂点Cを結べば辺bができるね。
ここで、隠していた三角形と重ね、合同かどうかを確かめます。
T確かに、同じ大きさで同じ形だね!
まずは、2つの情報で作図できるかを考えさせることで、できない反例をあげるというアイデアを引き出しました。それが、結果として、3つの情報が必要であるということの発見につながりました。
反例をあげる話し合い活動A
C3つめの情報が辺bの長さでもかけるよ!
Tそうですか。じゃあ、辺bの長さでもかけるか確かめてみようか。
3つめの情報として、辺bの長さを教えます。
Tさっきの形に決定できるか確かめてみましょう。
C頂点Cから18cmの辺をのばして辺cにくっつくところを探せばいいんだから…
C頂点Aはここだ!
先の三角形と重ね合わせ、合同かどうかを確かめさせます。
Cやっぱりさっきと同じ三角形だ。
T18cmの辺bがつながる頂点Aは、本当にそこだけですか?
しばらくじっと眺めさせます。
Cもう1か所あるよ! コンパスを使うとわかる。頂点Cを中心にして半径18pの円をかいてみるの。
C本当だ! もう1つ三角形ができた。1つの形に決まらない。
T3つの情報でも1つの形に決まる場合と決まらない場合があるんだね。3つの情報がどんな場合のとき、1つの形に決まるんだろう?
C挟まれた形だよ。
Cサンドウィッチ型!
Tえっ、どういうことですか?
Cさっきのみたいに、2つの辺の長さと間の角の大きさがわかれば、残りの辺は結ぶだけだから必ず1つの形に決まるということ。
Tなるほど、すばらしい発見だね! じゃあ、明日は、三角形を1つに決定する3つの情報の条件が他にもあるのかを探しましょう。
何かを正しいと決定づけたいときに、「本当にいつでも正しいのか、正しくない場合があるのではないか」と考えることは、算数・数学において大変重要な思考方法です。だからこの授業では、反例をあげる、つまり、できない場合を考える、という思考方法を意図的に経験させました。
普通、算数の授業では、どちらかと言えば正しいことばかりを追い求めるので、間違っている場合を考えることはあまりしません。だからこそ、このような思考ができる学習内容があれば、少しでも経験させるようにしておきたいものです。
「子どもの思考の道具を増やす」
これは、知識を与えることと同等に大切な指導です。
大野 桂
1976年東京都生まれ。東京学芸大学卒業。私立高等学校、東京都公立中学校、東京学芸大学附属世田谷小学校を経て、2010年より筑波大学附属小学校教諭。
日本数学教育学会編集部幹事、教育出版教科書『小学算数』編集委員、全国算数授業研究会常任理事、使える授業ベーシック研究会常任理事、『算数授業研究』編集委員。
筑波大学附属小学校算数部ブログ
(構成:矢口)