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1 中学校数学に「問い」はあるか?
小学校高学年の担任を何度もしている。卒業生を送り出して数か月すると、異口同音に次のように話しに来る。
「中学校の数学がおもしろくありません。先生が一人でしゃべっています」
中学校の数学授業を参観する機会が何度もある。小学校のとき、あれだけ活発だった子どもたちとは別人の姿がそこにあった。シーンとした教室。下をうつむいたままの子どもたち。中学校数学の姿はこれでいいのか? そんなはずはない。小学校と同じように活発に意見を言い合う数学授業も、目にしたことがあるからである。では、数学の授業がおもしろくない原因は何か?
中学校数学の多くには、「なぜ?」「どうして?」と子どもが感じる「問い」がない。先生が問題を出す。子どもは黙って問題を解く。意見の交流はない。しばらくして先生が答えを解説する。子どもは、それをノートに写す。何も考えなくとも、ノートに写すだけで1時間が終わる。これは講義である。
このような授業には、子どもがおもしろいと感じる仕掛けがない。これでは、中学生に「数学はおもしろくない」と言われても仕方がない。
2 「ズレ」が生まれる仕掛けをつくる
子どもが数学をおもしろいと感じるためには、授業に仕掛けをつくることが必要である。その仕掛けの1つが「ズレ」である。ズレとは、「自分の考えや感覚との違い」である。ズレを授業の中で引き出すことで、子どもは「問い」を感じる。ズレの様相には4つあると私は考えている。
(1)友だちの考えとのズレ
(2)予想とのズレ
(3)感覚とのズレ
(4)既習とのズレ
「友だちの考えとのズレ」では、自分の考えと友だちの考えとが異なる場面に出会わせる。子どもは自分とは異なる考えが存在することを知った瞬間に不安になる。そして、本当の答えを知りたくなり能動的に動きだす。
「予想とのズレ」は、自分が予想していた結果と実際の結果が異なる場合に現れる。予想とは異なる結果に出会うことで、「あれ?おかしいぞ」「どうなっているんだ?」と、子どもの追究意欲に火がつく。
「感覚とのズレ」は、本来、子どもがもっている感覚とは異なるものに出会わせることで、ズレを実感させるものである。感覚的に違和感を覚えた子どもは、その違和感の原因を追究していく。
「既習とのズレ」は、既習事項よりもジャンプした課題に出会ったときに感じるズレである。「どうやって解けばいいの?」「今までの方法が使えるのかな?」と感じる、既習との違いの意識化が、能動的な解決へとつながる。
3 「友だちの考えとのズレ」「予想とのズレ」授業例
(1)面積が一番大きいのはどれ?
正三角形を提示し、周りの長さが24pであることを説明する。以下、同様に周りの辺の長さが24pの「正方形」→「正五角形」→「正六角形」を提示する。
4つの図形の提示後次のように子どもに投げ掛ける。
「周りの長さが24pの形があります。面積が一番大きいのはどれでしょう」
子どもたちの予想は、「正三角形」「正五角形」「正六角形」「全部同じ」に分裂した。「友だちの考えとのズレ」が生まれたのである。
子どもの中には、ノートに正三角形や正方形の図をかいて面積を求め始める姿が見られた。「友だちの考えとのズレ」に出会い不安になった子どもたちが、能動的に動き始めたのである。
子どもの追究が始まった。正三角形・正方形の求積は既習である。正三角形の面積は28p2。正方形は36p2。ここまで面積を求めたとき、何人かの子どもから、「あっ、そうか」「正五角形の面積もわかったぞ」というつぶやきが聞こえてきた。正三角形と正方形の面積の情報を基に、正五角形の面積がみえたというのである。帰納的な考え方を活用した姿である。
そこで、この声をクラス全体に投げ掛けた。
「三角形・正方形の面積を求めたときに、あることに気付いた人がいます。何に気が付いたのでしょうか?」
子どもたちから、次の声が上がってきた。
「三角形より正方形、正方形より五角形、五角形より六角形と面積が順々に増えていくんじゃないかな?」
「三角形から正方形になるとき、面積が28p2から36p2に8p2分増えた。だから、次も8p2分増えるんじゃないかな?」
帰納的に考え、正五角形の面積を予想したのだ。多くの子どもはこの考えに賛同した。そこで、本当に予想通りの面積になるのか確かめた。正五角形の面積の求め方は未習である。しかし、子どもたちは正五角形を分割することで求積できることを発見していった。求積を始めてしばらくすると、「あれ? おかしい」「44p2にならない」という声が上がった。結果は40p2である。自分たちの予想と違う結果が現れた。「予想とのズレ」である。それが子どもたちの驚きにつながり、さらなる追究意欲を喚起した。「友だちの考えとのズレ」「予想とのズレ」が両方現れた1時間である。
(2)「問い」が連続する
「予想とのズレ」に出会い、驚きを感じた子どもから、「そうか、面積はだんだん増えていくけど、増え方はだんだん少なくなっていくんだ」と声が上がってきた。面積の増え方の新たなきまりを帰納的に見つけたのだ。
そこで、今度は正六角形の面積を求めた。結果は42p2。面積の増え方は、子どもたちの予想通りである。今度は、類推的に次のように考え始めた。
「だったら、正七角形や正十二角形ならもっと面積が大きくなる」
「それなら、正百角形とか正一億角形とかが一番面積が広いね」
「そうか! だんだん円に近付くから、円が一番広い」
「えっ? でも円には角がないから違うんじゃない?」
「でも、円の面積はどうやって求めるの?」
周りの長さが24pの正三角形〜正六角形の面積の結果を基に、円の面積を予想する声が上がった。また新たな「問い」が子どもたちに生まれてきたのである。
子どもたちのこの「問い」を基に、その後の「円の面積」単元へと学習をつなげた。「問い」が連続することで、複数の単元がリンクしていくのである。
4 次の授業を子どもがつくる
ズレを基に授業を構成していくことで「問い」を感じた子どもたちは、次の課題を設定し、主体的に学び始めた。その学びは、単元を超えて別の単元にまでつながったのである。ここにあるのは、教師に指示された課題だけを黙々とこなす子どもの姿ではない。教師の想像をはるかに超えた、主体的に学ぶ姿である。
このような姿は、数学の世界でも引き出すことは十分に可能である。小学校で算数を愉しんだ子どもたちのよき姿を、中学校数学でさらに開花させ、数学を愉しむ子どもを育てよう!
※ズレのある授業の詳細は、拙著『“ズレ”を生かす算数授業』(明治図書)参照
数学教育2011年7月号より転載