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能楽はもともと庶民の大衆芸能だった!
「能楽」は、日本を代表する伝統文化でありながら、「難しそう…」「敷居が高そう…」といった印象をお持ちの先生方も多いのではないでしょうか?
まずは、能楽の歴史をざっと見てみましょう。
今からおよそ650年ほど前、観阿弥・世阿弥親子によって大成された能楽は、当時「猿楽(さるがく)」と呼ばれ、民衆の圧倒的な支持を受けた大衆芸能でした。その噂は、時の将軍・足利義満の耳に達し、京都今熊野での勧進能を御忍びで御覧になった将軍は、その面白さに魅了され、これを保護し世に広めました。
応仁の乱後、幕府の衰退、寺社の弱体化は能に大きな打撃を与え、能楽師の多くは都から地方へ下り、有力大名を頼りますが、中でも豊臣秀吉は熱狂的な能の愛好者となり、保護しました。その後、徳川家の御世となると、秀吉にも負けぬ程の能好きであった家康の命により、猿楽は「武家の式楽(公式芸能)」と定められ、統制され保護を受けました。
一方、武家の芸能とされたせいで猿楽を楽しめなくなってしまった庶民の間から、猿楽に代わる娯楽として、元禄の頃に「文楽(人形浄瑠璃)」が、化政の頃に「歌舞伎」が生まれました。それにより、武家の式楽「猿楽(能楽)」に対し、庶民の娯楽「文楽」「歌舞伎」という位置づけが確立しました。このイメージは、現代にまで続いていると思われます。
明治維新後、幕府の保護を失った猿楽は、一時期、存続の危機に陥ります。しかし、欧米を視察した岩倉具視らは、諸外国の文化保護政策に影響を受け、帰国後、「能楽」「文楽」「歌舞伎」を日本における三大芸能と定め、再び保護されることになりました(この時に「猿楽」は「能楽」と呼ばれるようになります)。
その後、震災や戦争などをも乗り越え、平成13年、世界機関のユネスコより、能楽が「世界無形文化遺産」第1号に認定されました。
いよいよ教科書にも登場
能楽が世界無形文化遺産に認定された翌平成14年に全面実施された、中学校音楽の学習指導要領には、「和楽器については、3学年間を通じて1種類以上の楽器を用いること。」と記されました。続く平成15年には、高等学校の学習指導要領音楽でも同様に、音楽の授業に和楽器が取り入れられることが示されました。しかし実際のところ、和楽器の演奏に取り組んでいる学校は、ごく一部に限られていたようです。
しかし、平成20年に告示された新学習指導要領においても、引き続き我が国の音楽の指導を充実させることがうたわれております。実際、平成24年度から使用される中学校の音楽の教科書(教育出版)には、能「羽衣」の詞章(ししょう。能の台本の本文。謡〈うたい〉)と四拍子(しびょうし。笛・小鼓・大鼓・太鼓)の手組(てぐみ。お囃子の掛け声や音を組み合わせた短い小節)が掲載されることとなりました。それと同時に、去る7月には、私の所属する観世九皐会の本拠地・矢来能楽堂にて、能「羽衣」をはじめとする能の教材用の映像が撮影されました(私も参加させて頂きました)。
まずは先生に体感してほしい!能の魅力
「能楽」が世界無形文化遺産に認定されてから10年程経ち、ようやく教育の現場に具体的に古典芸能が取り入れられる準備が整えられてきたことは、大変うれしいことです。これを機会に、ぜひ、子どもたちに能の面白さや日本の古典芸能の奥深さを感じてほしいと思っておりますが、その前に、まずは先生方に能の魅力を感じて頂きたいのです。
そのための活動の一つとして、この度、文化庁平成23年度伝統音楽普及促進支援事業「先生方のための能楽入門 IN 東京 〜能楽を知り、謡と小鼓のお稽古をしませんか?〜」を開催することとなりました。
教育基本法でも、「伝統と文化を尊重する」ということが新設され、日本の伝統文化の一つである「能楽」も、国語や音楽の教科書に取り上げられますので、子どもたちが実際に触れる機会が増えることと思います。そこで、指導する先生方に「能楽」についての理解を深めていただきたく、文化庁からの委託を受け、先生方を対象とした研修会を企画しました。
有名な「羽衣」を題材に、「謡(うたい)」と「小鼓(こつづみ)」の実技を中心にした研修会です。参加費は無料ですので、能楽について知りたい先生、謡や小鼓をお稽古してみたい先生、興味はあるけどまず何から始めればよいかと考えていた先生、たくさん方々にぜひご参加頂き、「伝統音楽を授業で効果的に取り入れるにはどうしたらよいのか」を一緒に考える機会としたいと考えております。
少しでも多くの先生方に参加して頂けるよう、土曜日の夕方からの時間としております。全9回という長丁場ですが、伝統文化に触れる機会として、ぜひ能の魅力を味わって頂きたいと思っております。