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「危機管理」「リスクマネージメント」「クライシスマネージメント」などの言葉と考え方が求められる時代がやってきてしまいました。毎日、テレビニュースや新聞紙面などにこの言葉が登場しているのが現実です。
米国の企業経営の中から生まれ出て、戦後日本に定着してきたこの考え方。今、一流企業の100%に危機管理が定着していると言って過言ではありません。教育機関・学校も同様です。危機管理を実践していない学校など有り得ません。しかし、企業も学校も、経営者も社員も、校長も教職員も不祥事や事件・事故を引き起こしているのも現実です。一流企業も学校も危機管理を実践しているはずなのに、どうしてなのでしょうか。
「危機管理に力を入れている一流企業が何で失敗してしまうのか?」「何が問題なんだろうか?」。これらの疑問には、危機管理を管理業務だと思うことが原因であると回答できます。一流企業には危機管理室・部などの組織があり、担当社員もかなりの数になります。一般社員が「危機管理は彼らの仕事だよ。俺の仕事じゃないよ」と思い、仕事を進めているのではないでしょうか。経営者は「当社には危機管理セクションも在るし、ルールもしっかり定めたし、マニュアルも作成し全社員に配布した。当社に危機管理は定着した。大丈夫」と思っていないでしょうか。危機管理を管理と考え、実践しているから安心との思いが、錯覚を生んでいないでしょうか。
危機管理とは「危機管理は管理ではない。管理ではなく、普段の仕事そのものだ」と考え、「ここまでやれば絶対安心という考えは驕りであり、また危機はどこにでも在り、いつ起こってもおかしくない」と思うことが重要なのです。「危機管理は普段の仕事の全てに必要なものである」と考えることが大切なのです。
今、筆者は危機管理を<心理的要素=心>が必須だというスタンスに立って危機管理の普及・定着に従事しております。企業も学校という教育機関も同じなのです。その組織に従事する全ての人々がもたねばならない危機管理の「心」を、危機管理講座や研修で、次のように申し上げております。
「気づく心」「話し、聞く心」そして「守る心」が大切なんですと。
異変や異常に気づく心。気づいたら、上司や同僚に注意しよう、話そうという心。耳がいたい言葉であっても聞こう、そして改善・対応しようとする心。この心を常にもち、さらに危機管理は「自分と自分の家族の生活を守る為にある」と考える心が必要なのです。この自分と自分の家族を守る心を全うすることができれば、結果は自分の属している組織=学校と、そこで学ぶ子どもたちを守ることができるのではないでしょうか。もう1つの重要な視点は、学校という組織のスタンスに立ってはならないということです。「学校の為に」という考え方をもってはなりません。学校は誰の為にあるのかを考えてください。そこで学ぶ子どもたちの為にあるはずです。
ならば、スタンスは子どもたち=社会・市民の視点に立たねばならないことが見えてくるはずです。
「3.11」、あるいは世界中の人々が「FUKUSHIMA ふくしま」と呼び、復興に心や浄財を寄せていただいている現状から、何か学ぶモノがあるはずです。悲しい現実に直面しているのですが、きっと危機管理上の大きな教訓が得られるはずだし、また学んで欲しいと思っています。
7月4日、松本復興相の失言・降板事件が起こりました。岩手県庁で達増知事と会談し、被災地の復興について「知恵を出したところは助けるけど、知恵を出さないやつは助けない。そのくらいの気持ちをもって」と述べ、また「九州の人間だから被災地の何市がどこの県とかわからん」と冗談めかして発言。その後、宮城県庁では、村井知事が松本大臣の入室後に部屋に入ってきたことについて「お客さんが来る時は、自分が入ってから呼べ」と怒りの声をぶつけました。さらに同県が重点的な漁港整備を要望していることにも「県で、コンセンサスを得ろよ。そうしないと我々何も知らんぞ」と吐き捨てたことがテレビのニュースや新聞紙上を賑わしました。結果、就任早々に降板せざるを得ない事態に追い込まれてしまいました。
思えば、菅首相も震災後初めて福島県内の避難所を訪れた4月21日、田村市の体育館を視察し、帰り際に避難住民から厳しい言葉を浴びさせられてしまいました。「もう帰るの?おれらどうするの?」と。想定外の市民の反発を受けて「被災者の立場に立ってすべてのことを考えねばならないと私にも痛感させられた」と、首相は随行する記者団に心境を語ったことが報道されました。
この二つの出来事、失言から得られる「教訓」とは、いかなるものなんでしょうか。何を学ぶべきなんでしょうか。菅首相の「被災者の立場に立ってすべてのことを考えねばならないと私にも痛感させられた」と言う言葉が奇しくも表しています。菅首相も、この発言以前からこのスタンスに立っていれば、「メルトダウン」の現実を正直に国民に告げることができたはずです。放射能被爆の量も数も減らすことができたはずです。もう1つ、偉い人間に成るべく(あるいは成ろうと)と育ってきた人間が偉い地位に就くと、下を見下すのか、本音を言うのか、失言が出やすいことを肝に念じてください。
先日、ようやく菅首相が降板し、野田新首相が誕生。新たな活動が始まりつつあります。期待したいし、また厳しい目で見て行きたいと思います。