教育オピニオン
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だれでもできる防災教育
―先例を利活用して「生きる力」を育む
兵庫県立大学環境人間学部准教授木村 玲欧
2012/11/1 掲載

1 防災教育は面倒くさい?

 みなさんは「防災教育」と聞くと、その必要性は理屈としてはわかるものの、「面倒くさい」「何をどう教えたらよいかわからない」「地学専攻の先生しか教えられない」などと思われるかもしれません。確かに、教職課程で防災教育を受けたわけではなく、また一般的な知識として地震対策・地震直後の対応は知っているものの、そこからの学習展開が考えにくく、さらには避難訓練を行っているのでそれを防災教育として読み替えればよいのではないか、など、防災教育が多くの学校で実践されないのには理由があるようです。

2 大川小学校の悲劇

 しかし、南海トラフの超巨大地震や温暖化による風水害の多発など、これからの日本で生きていくためには、災害を乗り越えるための「生きる力」が必要不可欠です。それは、2011年3月11日の東日本大震災でも明らかになりました。宮城県石巻市大川小学校の悲劇です。あの日、校庭に避難した児童108名中74名が死亡または行方不明、教職員11名のうち10名が死亡または行方不明、という想像を絶する事態が発生したのです。
 大川小学校では、地震後は机の下に隠れ、地震から14分後の15時頃には校庭に集合して教員が点呼をとりました。しかしこの後、教員の間で「このまま校庭で待機する」か「津波の到来を考えて逃げる」か「逃げるならばどこに避難すればよいか」についてあいまいな状況の中で結論を出すことができませんでした。宮城県が2004年(平成16年)3月に策定した第3次地震被害想定調査に基づく津波浸水域予測図では、大川小学校には津波浸水がなく、避難所として指定されていたことや、大川小学校の防災危機管理マニュアルに学校以外の避難場所の取り決めがなかったことも、結論が出なかった一因と言われています。
 結局、地震から40分以上が経過して、学校の約200メートル西側にある、周囲の堤防より小高くなっていた新北上大橋のたもとを目指して移動し始めることになりました。そして移動直後、津波は堤防を乗り越え、児童の列を前方から飲み込んだのです。列の後方にいた教師1人と児童の一部は、向きを変えて裏山を駆け上がるなどして一命をとりとめたものの、最終的に児童の約7割が死亡・行方不明となったのです。

3 台本による「おはしも」避難訓練の限界

 この悲劇は、「おはしも」(または「おかしも」)だけの避難訓練には限界があることを示しています。「おはしも」とは、避難する際の「押さない」「走らない(駆けない)」「しゃべらない」「戻らない」の頭文字をとった標語で、現在、多くの学校で採用されています。しかし、この標語に従って与えられた台本通りに機械的に避難することを繰り返しているだけでは、児童・生徒、そして教職員についても、想定外の事態、想像を超えた事態に直面したとき、「何を考えればよいのか」「何をすればよいのか」という災害対応行動を考え実行する力をつけることはできないのです。「おはしも」はあくまでも「避難するときのお作法」であって、これだけでは「避難行動」を理解し生きる力を身につけることはできないのです。

4 先行事例を知る「防災教育チャレンジプラン」

 それでは私たちはどうすればよいのでしょうか。その解は災害からの「生きる力」を身につけるための「優秀な先例を知り活用する」ことにあると思います。何も一から始める必要はありません。全国の学校では優秀な取り組みがなされており、それらを知り、自分の学校の事情を踏まえて多少のアレンジをすることで、授業で、部活動で、訓練で、地域とのつながりの中で、防災教育を実践することができるのです。
 みなさんは「防災教育チャレンジプラン」というものをご存じでしょうか。ぜひ一度、リンク先のホームページを見てください。内閣府などのサポートのもとに、防災教育の専門家有志によって2004年から行われている試みです。
 「21世紀の災害に立ち向かうのは、今の子どもたちです。災害に見舞われたとき、自分自身を守りお互いに助け合っていける力を今から育む防災教育が、この国の将来にとって不可欠なのです」という考え方のもとに、防災教育の新しい試み、アイディアによる活動を支援しています。支援は、資金面だけではなく、防災教育に取り組む個人、団体の交流の場をつくり、知恵や情報の共有、取り組みの活性化に対しても行われてきました。学校や地域など162団体をこれまで支援しています。
 これらの団体の活動内容は、「防災教育チャレンジプラン」のホームページから見ることができます。ホームページで紹介されている防災教育の内容は大きく3つのタイプがあります。1つめは、学校での総合の時間を活用した継続的な学習、2つめは、地域と共同した集中的な学習、3つめは、新しい防災教育の試みです。普通学校だけではなく、特別支援学校用につくられた防災教育・訓練プログラムもあり、9年間の蓄積を知ることができます。
 10分でも構いません。「防災教育」の必要性を感じられた方は、ぜひ「防災教育チャレンジプラン」のホームページをご覧いただければと思います。

木村 玲欧きむら れお

1975年東京都生まれ。早稲田大学卒業、京都大学大学院修了。博士(情報学)(京都大学)。名古屋大学大学院環境学研究科助手・助教等を経て、兵庫県立大学環境人間学部・大学院環境人間学研究科准教授。専門は防災心理学、防災教育学、社会調査法。
委員として、内閣府・防災教育チャレンジプラン実行委員会委員、東京大学地震研究所・首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究運営委員会委員など。
今年6月に編纂者として『日本歴史災害事典』(吉川弘文館)を発刊した。
共著に『三河地震60年目の真実』(中日新聞社)、『超巨大地震がやってきた スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信社)など。

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