教育オピニオン
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夏休み終了症候群への処方箋
新潟県公立中学校教諭堀川 真理
2014/8/27 掲載

 もうすぐ夏休みが終わる…そう思って憂鬱になっているのは、生徒だけではないはずです。教師とて至福??の夏休みの終わりには、涙が出そうなくらい哀愁が漂うものです。しかも、夏休み前に思うような学級経営ができていなかったら、なおさらです。またあの生徒たちに会う…。そう思うと食欲すらなくなります。

1 嫌なムードを引きずらない

 夏休み明けは、生徒にとっても教師にとってもリスタートできるチャンスです。しかし、夏休み前に関係をうまく作れなかった教師にとって、夏休みの終わりは、胃が痛くなるような憂鬱感に襲われるころです。
 憂鬱な気持ちは痛いほどよくわかります。しかし、扉を開けるしかないのです。それも、勢いよくできるだけ明るく。

@思いっきりの笑顔で

 自然にしていると暗い表情になりがちですので、まず、鏡の前で笑顔の練習をします。そんな気分でなくても無理やり笑ってみます。表情につられてドーパミンが放出されて、なんとなく心が前向きになります。「形」から「中身」を作るのです。

A登校してくれてありがとう

 次に「中身」です。どんな生徒も、夏休み明けのけだるい気分と戦って登校しています。もちろん、「早くみんなに会いたい!」と思っている生徒が理想ですが、現実はそうでないことも多いです。だからこそ「登校してくれてありがとう」という気持ちを作ります。とてもそんな気持ちになれなくても、「作ろう」と思って念じていると、そんな気持ちになってくるものです。そうしたらしめたもの。表情と中身が一致してきてオーラが出てきます。「待ってたよ」「会いたかったよ」「登校してくれてありがとう」というオーラです。このオーラは必ず相手に伝わります。「会いたくなかった」というオーラも同様に。
 歓迎してくれているオーラは、どんな生徒にとってもうれしいものです。

B服装も大事

 お気に入りの、少し改まった服装をします。「服装は内面を映す」と、よく私たちは生徒たちに言っていますよね。それを体現するのです。「リスタート」「歓迎」の気持ちを表します。

C教室に花を

 教室にみずみずしい植物を置きます。切花でも鉢植えでもよいと思います。植物は風水的にも運気を呼び込みます(笑)。「リスタート」「歓迎」の気持ちで。

2 当たり前・普通に注目する

 そんなリスタートを切ったあと。生徒は、もともと少なからず前向きな気持ちになっている時に担任に歓迎を受け、1〜2日は適切な行動をとります。適切な行動というより、当たり前の行動です。遅刻しない。提出物をいつもよりきちんと出す。授業中の私語が少ない。ランチの当番がきちんと動く…などなど、当たり前の普通の行動です。
 その時がまたとないチャンスです。絶好の言葉がけのタイミングです。なぜなら、夏休み前はそれができなくて、注意・指導の言葉が増えていたはずです。または、注意・指導ができなくて悩んでいたことでしょう。それが、「普通」のことを「普通」にしてくれるのです。注意・指導の前にスペースができます。このスペースを大切にしましょう。そして、言葉をかけるのです。

@ありがとう

 生徒が「普通」のことをしたら(当たり前のことをしたら)「係の仕事をしてくれてありがとう」と言います。「提出物を期限までに出してくれてありがとう」と。

Aうれしい

 いつも遅刻してくる生徒が時間に間に合ったら、「あなたが時間を守ってくれてうれしいよ」。掃除を真面目にやっていたら「教室がきれいになってうれしいよ、ありがとう」。

B楽しい

 夏休みの感想を生活ノートに書いてきたら「あなたの楽しそうな夏休みの感想を読んで、私も楽しい気持ちになりました」。「みんなと楽しいことをいっぱいしよう」。

 キーワードは「ありがとう」「うれしい」「楽しい」。この言葉は「気持ちの言葉」です。それに対して「よくできました」「合格」「偉い」は「評価」の言葉です。評価の言葉はこちらが上で評価する対象は下です。権力闘争につながりやすい言葉です。そんな言葉ではなく「気持ちの言葉」を使い、生徒と過ごすうれしさ・楽しさを伝え、共同生活者としての同じ地平を共有するのです。
 そんな言葉をもらった生徒たちはうれしくないはずがありません。自分たちを共同生活者として認めてくれる人の言葉を、受け入れないはずがありません。しばらく時間が経って、注意・指導の言葉が必要となってきても、自分たちと同じ地平の先生の言葉は通りやすくなるはずです。

3 それでも笑えない時は

 いろいろなことを考え、準備し、実践しても憂鬱感がとれず気持ちが上がってこない時は、迷わず受診しましょう。
 私自身、かつて難しい生徒とうまく関係が築けず、学級経営がぼろぼろのまま夏休みを迎え、憂鬱のまま夏を終えそうだったことがありました。
 夫が異変に気づきました。「おまえ、夏休みになったのに1回も笑ってない」。その言葉にはっとしました。「だって、夏休みになっても、すぐ9月がやってくる…」そう答えた私に、夫は精神科受診を勧めてくれました。
 初めは「精神科…?」と抵抗感が強かったのですが、「何してくれるかわからないけど、何にもならなくてももともとだよ」という夫の言葉に後押しされ、えいっと受診。「うつ病でしょうか?」との問いにお医者さんは「いいえ、うつ病ではありません。少し自律神経が乱れているようです。軽い安定剤を出しましょう」と言ってくれました。
 安定剤のおかげというより、「精神科の門まで叩いたんだ!あとは何も怖いものはない!!」という開き直りが私の肝をドンと据えてくれました。そしてお守りの安定剤も入手しました。いざという時はこれがある。実際はあまり必要ありませんでした。
 夏休み以降の学級経営がうまく行き、難しい生徒とも信頼関係ができ、生涯忘れえぬクラスとなったことは言うまでもありません。
 「おかしい」「だめだ」と思った時は、迷わず専門家の力を借りましょう。 

堀川 真理ほりかわ まり

新潟県公立中学校教諭
学校心理士・ガイダンスカウンセラー
全日本カウンセリング協議会認定2級カウンセラー
サイコドラマ新潟主宰
先生のためのとっておきセミナー「愛と勇気のチカラ」副会長
著作:『対話でつむぐ 愛と勇気の生徒指導』(明治図書)

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