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1 だれの作品か分からなければ
私は、拙著『書く力を高める小学校「100マス作文」入門』で、句会はコミュニケーション能力を育てる上でとても優れていると述べました。句会には次の三原則があります。
自分の作品を最後まで明かさない。
自分の作品を選ばない。
自分の作品にはコメントしない。
句会が小学校で成立するのかどうか? 半信半疑で行ってみますと、子どもたちの反応は素晴らしいものでした。「ハラハラドキドキした」「選ばれず悔しかった」「選んでもらって嬉しかった」「ドッジボール大会より句会の方が面白い」等々驚きの反応が見られたのです。私は俳句や句会の大きな可能性を確信しました。
だれの作品かが分からなければ、だれかがその作品を批判してもだれも傷つきません。かえってその批判は作者本人も気付かなかった考え方として素直に受け入れることができます。ですから、句会はアサーティブ(非攻撃的自己主張)なコミュニケーションツールなのです。
私は、昔の日本人がこのようなコミュニケーションの方法を編み出したことに驚きを隠せません。少し大げさかも知れませんが、相手を傷つけないコミュニケーションの方法としては世界で最も優れたツールかも知れないと私は思っています。俳句は庶民の文芸として江戸時代に隆盛したそうですが、私は俳句づくりよりもこの句会こそが庶民に支持されたのではないかと思うほど楽しいものです。
ちなみに、私は句会の三原則を応用した○○を批評しあう会、例えば「習字、書字、算数で描いた図形、絵画、ノート」等を比べ合う話し合いが教室でもっと興ればよいと考えています。
2 45分で完結するために
小学校での句会は45分で完結するようにします。そのためには、名前は伏せた作品を1枚プリントして準備しておきます。授業に入れば指導者が2回ほど全作品を読み上げます。児童はその読み上げを聞きながら気に入った作品を3~4句選びます。どういう点が気に入ったかも簡単にメモします。そして、選ばれた作品を指導者が「○○さんが選んでくれました。感謝してね。○番、…。」と言ったように読み上げ「正」の字を書いていきます。時々、選んだ理由を発表させたりします。そして、最終的に順位を決定し受賞者インタビューをします。最後に指導者がまとめとして講評をし、票が少なかった児童等を救ってやります。票を読み上げるとき、子どもたちは本当にドキドキハラハラするらしく、選んでくれた子に感謝すると言っています。
上記の方法は私が考えた方法ですが、それぞれの学校や学級の実態に応じて変えてください。
3 論より証拠。子どもたちの感想をどうぞ。
- とちゅうドキドキして言葉もでなかったし、さらに10番が追いついてきたので倍ドキドキしたけどにげきれてよかった。(2回目グランプリを受賞した小5男)
- 前回チャンピオンだったので1票だけだったので「アチャー」と思いました。今度は本気でグランプリをねらいます。(1回目グランプリを受賞した小5男)
- 3位の中に入れなかったのでくやしいです。でも2票も入れてもらえたのでよかったです。「優勝はできないけれど満足だ」(2票も入ったから)(小5女)
- ドキドキしました。前回は2位だったけれど、今回は2票しか入りませんでした。でも先生が入れてくださったのでうれしかった。(小5女)
- 1位と最下位では13票差がありました。でも、ぼくはみんなががんばったと思います。(小5男)
- 1位にはなれなかったけれど、みんなとなかよく楽しくできてうれしかったし、みんながドキドキしていてすごく楽しい俳句大会になったと思います。(小5女)
4 授業で仲間づくりを
こんなエピソードもありました。
句会を始める前AさんとBさんがけんかしていた。
句会が始まると、作者が分からないためにBさんはAさんの作品を選んだのだった。
句会後、二人は仲直りをして笑顔が戻っていた。
言語の力をつけるのが表のねらいとするなら、仲間づくりは裏のねらいと言ってもいいでしょう。授業で仲間づくりをするというのが私のモットーでもあります。コツがもしあるなら授業で仲間づくりをするという意識を持つということだと考えています。その仲間づくりに句会は大変有効です。この句会のルールをもとにしたコミュニケーションツールがもっと日本中に広まることを願っています。