- 教育オピニオン
- 音楽
1 指示は「具体的」に
合唱指導の場面で、
「何度言ったらわかるんだ?」
「話にならない!」
などと言ってしまったらアウトです。それは、「どのように指示したらよいかわからない…」と言っているのと同じことになってしまいます。
すべての指示は、「具体的」である必要があります。
「今◯◯な声が出ていて、それは◯◯が原因なので、身体のこの部位を◯◯してください。」
「今◯◯が問題になっていて、◯◯の方がよいので、◯◯してください。」
イメージで伝えることも時には有効ですが、ほとんどの場合、身体の部位をどのように動かすかを「具体的」に指示した方が確実に伝わります。
2 「誤った対処療法」と克服するための具体例
(1)フォーム(姿勢)の重要性
日本の多くの教育現場において、「音程」という言葉が、「音高 pitch」と「音色 tone」の概念を区別せずに使われています。
「音高」は声帯の振動数によって決まりますから、喉仏から下のフォーム(姿勢と筋肉の収縮のバランス)によって決まります。
「音色」は声道(声帯〜唇までの空間)の形状によって決まります。
姿勢が悪く、「音高」がフラット気味な(低くなってしまっている)児童、生徒に、
「音色を明るくするように。」
と指示してしまうと、「音高」はフラット気味なまま、平べったい「音色」になってしまいます。
(2)「開いた喉」とは?
例えば、「開いた喉」を得るために、喉仏を下に移動させたり、口の中の奥の方を広く開けさせたりする指導がよく見られます。残念ながら、これらの指導では、曲種に応じた自然な歌声は生まれません。
したがって、音高を保ったり喉を開けたりするために、奥歯の距離を奇妙に操作したり、眉毛を持ち上げたりする指導は、「誤った対症療法」です。残念ながら、その結果は奇妙な表情になって、何と歌っているかわからなくなるだけです。
同様に、びっくりした外国人の顔をして喉を開けようとするのも、臭い匂いを嗅いだ顔で明るい音色を得ようとするのも、「誤った対症療法」です。そのような顔では「びっくりした外国人の歌」や「臭い匂いを嗅いだときの歌」は歌えても、曲種に応じた自然な歌声を生み出すことはできません。一時的なきっかけにはなるかもしれませんが、そのようなことをしなくても、正しいフォームと正しい共鳴の調整を行うことはできます。
(3)克服するための具体例
音高がフラットしてしまうのは、正しいフォームを身に付けていないことが原因です。そして、喉が閉まってしまうのは、誤った姿勢と、誤った呼吸法による、支えの不足と低すぎる腹圧が原因です。
そこで、次の「実践するべき正しいフォーム」と「実践するべき正しい呼吸」を行うことで、音高がフラットすることを避けることができ、喉は自然に開いた状態になり、上記の「誤った対処療法」を克服することができます。
・実践するべき正しいフォーム
1 足を開き過ぎない
くるぶしの間にこぶし一つ分の隙間を開ける。肩幅では広過ぎて、正しい骨盤の位置にならず、また、横腹の筋肉の支えを使うことが難しくなります。
2 下腹を引き、背筋を伸ばす、軽く胸を張り、あごを軽く引く
「身長が一番高くなる姿勢」になります。
3 息を吸うときも吐くときも肩を動かさない、視界を動かさない
肩や視界が動いてしまうと、いわゆる鎖骨呼吸になってしまい、音高が不安定になります。
・実践するべき正しい呼吸
「吸う」
肩を動かさずに肋骨を横に開きます。第8〜10肋骨に拡張を感じます。このときに猫背にならないように気を付けます。正しいフォーム(姿勢)を保つと、吸気時にも下腹(丹田の辺り)はあまり広がりません。脇腹の辺りが一番広がります。
「吐く」
鼻をかんだり、細いストローに息を吹き込んだりするように腹圧を高め、肋骨の拡張を保ちながら息を吐きます。決して吐きすぎないように。
※上記の「実践するべき正しいフォーム」「実践するべき正しい呼吸」は連動しています。これらのテクニックを「アッポッジョ」と呼びます。
■参考書籍
上手に歌うためのQ&A―歌い手と教師のための手引書―リチャード・ミラー(著),岸本 宏子(翻訳),長岡 英(翻訳)音楽之友社,2009
歌唱の仕組み―その体系と学び方―リチャード・ミラー(著),岸本 宏子(翻訳),八尋 久仁代 (翻訳)音楽之友社,2014