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1 社会科教育喫緊の課題「社会参画」
教育基本法第2条や学校教育法第21条に「参画」が登場して以来、社会科研究のテーマに「参画」が多く登場するようになった。とりわけ、18歳への選挙権年齢の引き下げにより、高校を中心に、「社会参画」は社会科教育の喫緊の課題となっている。
各地の研究会の授業実践を見ていると、大きく3つに分けることができる。
1 人の営みから社会参画のイメージをつかむ授業
2 場面設定をした上での意思決定を伴う提言型授業
3 特別活動や総合的な学習とリンクして実際に行動を伴う授業
2は、実際に「提言」という社会参画の模擬体験をすることで、社会参画への意識を高めるものである。「地元の商店街をどう活性化するか」「よりよい公園になるように提案しよう」など具体的なテーマで考えることができる。さらに、3では、実際に行動することで実践的能力を高めることができる。
これらは確かに効果的な実践ではあるが、イベント的な色合いが強く、2では多くて学期に1回、3は年間に1、2回が限度であろう。
より重要なのは、日々の社会科の授業の中で行う1の実践であろう。
1は社会参画の資質を高めるための基礎づくりである。歴史上の偉人による社会参画の事蹟や、日々の営みで社会参画をする人々の生き方に触れる中で、社会参画への意欲を高めるものである。
昨年度の全国小学校社会科研究協議会京都大会では、「社会参画できる資質・能力の基礎」づくりのために、自己実現と社会貢献の両立へ希望・可能性を抱くことをテーマにした。
社会に生きる人々が、自分を活かしながら社会に貢献していることを理解することで、よりよい社会づくりに参画しようという資質や能力の基礎が育つであろうという考えは理解できる。
これを、通常のカリキュラムの中に日々組み入れていくことがポイントとなる。
2 社会参画の意欲を高める授業の例
通常の授業で社会参画の資質を高める授業を例示しよう。
中学校の歴史「近世の日本」では、新しい学問・思想の動きを学習する。『学習指導要領 解説』では、
「新しい学問・思想の動き」については、この時期におこってきた蘭学や国学などの中に新しい時代を切り開く動きが見られたことに気付かせる
と書かれている。
このねらいを達成しながら、社会参画の資質を高める授業について考えてみたい。
私は、伊能忠敬に注目した。
彼は17歳までは不遇の生活を送っているが、そのためか、伊能家の跡取りとなってからは積極的に地域貢献をしている。そして、少年時代の夢を叶えるために隠居して、第2の人生として地図づくりという道を選ぶ。「隠居の慰みとは申しながら、後世の参考となるべき地図を作りたい」という彼の言葉に、自分の趣味・生きがいを社会貢献につなげようとする意識が表れている。
蘭学の影響による測量技術の向上などに助けられながら、『解體新書』などと並んで新近代の幕開けに貢献した。忠敬の地図により、日本は西洋諸国(特にイギリス)から一目置かれる国になる。その地図は、以後100年間使われ、富国強兵の基盤となった。間宮林蔵らとともに蝦夷地を測量したことは、北海道がロシアでなく日本に属することにつながり、今から思えば大きな幸いであった。
以上を踏まえた指導過程である。
ここでは、年表などの資料は省略するが、伊能図が富国強兵の支えになったこと、他の新しい学問・思想とともに、時代を切り開いていったことを十分に押さえたい。
いかがであろう。これまでの授業と、大きく変わるところはない。伊能忠敬の人としての営みに、少しだけ深く迫っただけである。
歴史にしても、地理や公民にしても、社会科は詰まるところ、人の営みについての学習である。人は、自分を活かしながら社会に貢献することで、よりよい社会をつくってきた。
子どもたちには、そうした人の営みに数多く触れることで、社会参画のための意欲を高めてもらいたい。