- 教育オピニオン
- 理科
子どもの「問い」を引き出すためには、まず子どもに「問い」をもたせなければならない。では、子どもが「問い」をもつのは、どのようなときだろうか。そして、もった「問い」を引き出し、学級共通の問題として学習に生かすためには、どうしたらよいのだろうか。
まず、5年での2つの事例を紹介したい。
事例1 振り子
この学習の導入では、「振り子の仕組みを利用していそうな場面」について、子どもに問いかけた。すると、メトロノーム、催眠術、振り子時計、ターザンロープ、ブランコなどが出てきた。
そして、どんな仕組みを利用していると思うか聞いてみたところ、下のような意見が出た。
- メトロノーム:
テンポが同じ、一定の時間で往復する、おもりの位置でテンポが変わる(多くの子どもは「速さ」という言葉を使っていた)。 - 催眠術:
テンポが同じ、一定の時間で往復する。 - 振り子時計:
一定の時間で往復する。 - ターザンロープやブランコ:
高いところまで上がって降りてくる。
次に、各班にスタンド・糸・おもり・ストップウォッチを配り、振り子を動かしてみることにした。そして、振り子の動きについて気が付いたことを挙げさせた。
- どんどん動いていくうちに振れ幅が小さくなるようだ。
- 一往復にかかる時間は変わるようだ。
- 角度と往復にかかる時間には関係があるようだ。
- おもりの重さを変えても一往復にかかる時間は変わらないようだ。
- おもりの数より糸の長さと一往復にかかる時間が関係するようだ。
- おもりが下に来たときのスピードが速いようだ。
- おもりの重さを変えても10秒で何往復するかは変わらないようだ。
これらの気が付いたことを基にして、振り子の単元の問題を設定した。
事例2 電磁石
学習の導入では、強力な電磁石に子どもがぶら下がる様子を観察させた。その後、電磁石の仕組みを確認してみると、乾電池、導線を巻いたもの(コイル)、鉄芯でできていることがわかった。
そこで、それぞれの役割を説明させてみた。すると、乾電池と導線は4年時までの学習で使用しているために説明できるのだが、鉄芯は説明できない。そこから、鉄芯の役割は何か?という問いを子どもはもったようであったが、上手く言葉にできていなかった。
そのため、それぞれの役割を確認した際の板書を使いながら、子どもと教師で「電磁石の鉄芯の役割は何だろうか」という問いをつくった。
これらの事例から提言したいことは、2つある。
1つ目は、まずは子どもが事象に触れることが必要だということである。レイチェル・カーソンが書いた『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン著、上遠恵子訳、新潮社)には、
美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけだした知識は、しっかりと身につきます
という一節がある。
子どもの「問い」を引き出す理科授業でも同様に、単元の最初に子どもと事象とが出会う場面で何らかの感情をもたせたい。そのためには、驚きが生まれる教材、子どもがすでにもっている知識と事象に「ずれ」が生じる教材、自由試行で発見が生まれる教材などを用意しておきたい。
2つ目は、子どもがもつ、その学習についてのいくつかの知識を教師は生かすべきだということである。
振り子の学習では、多くの子どもが振り子の仕組みを利用した道具や場面について知っていた。電磁石の学習では、4年時までの電気単元の学習で獲得した知識の他に、電気について興味をもっている子はコイルという用語や、電磁石には鉄芯が使われていることなどを知っていた。
しかし、それらの知識は断片的であったり、誤りを含んでいたりすることもあった。子どもが「問い」をもち、子どもの「問い」を引き出すためには、子どもがすでにもつ知識を顕在化させ、事象と照らし合わせながら「ずれ」を認識できるようにすることが必要であろう。
「ずれ」は事象と知識、知識と知識など様々なものを対比させることで生まれてくる。そして、「ずれ」を表出させ、学級の全員に「ずれ」を共通認識させたい。教師は子どもから生まれた「ずれ」を黒板やホワイトボードなどを使って可視化し、「ずれ」を子どもと一緒に「結ぶ」ことによって「問い」を引き出し、単元の問題をつくることが重要であると思う。
以上の2つを、子どもの「問い」を引き出す理科授業をつくるために私が留意していることとして提言したい。