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1 卒業式直前、思い出を振り返りクラスをまとめる
卒業間近の3学期、小学校生活を振り返り、成長を認め合うためのプロジェクトを発動。名付けてプロジェクトG。卒業を表すgraduationの頭文字をとって、プロジェクトGです。卒業式間近にクラスや学年全体で、成長や思い出、感謝の心を再確認する行事を設定し、卒業への気持ちの高まりにつなげます。思い出を劇にして、最後の参観日に発表したこともありました。
さらに、思い出を劇にするだけではなく、クラスならではの出来事や流行語、キャラクターを「蓮池(学校名)アカデミー賞」として、劇の入れ替わりの幕間に発表しました。その内容は、予めクラスにアンケートをとり決定しておきます。このときにアンケートした内容は、@クラスや学年で流行した言葉(わかれば流行らせた人も)、A思い出に残るハプニング、B「ボケ」のうまい人、C「つっこみ」のうまい人、D天才的にそうじする人、Eほのぼのさせてくれる人、F歴女、G歴男などです。BCは関西ならでは、ですね。
そして、担任についてもアンケートをとり、アカデミー賞を子どもたちが考えました。私は、元気、情熱がトレードマークなようで、「アントニオ猪木賞」でした。このときは、学年で発表会を行いましたので、優しい若い男の先生には、「韓流スター・ヨン様賞」、数年持ち上がりで担任をしてもらったベテランの女性の先生には、愛をいっぱいもらったので「愛は地球を救うで賞」など、アンケートをもとに考えました。
このようなプロジェクトを行うと、学年や学級の一体感が高まり、卒業への高まりにつながります。卒業式の卒業表現でも思い出を振り返りますが、もっとフランクに、自分たちのアイデアを満載にして振り返ることで、輝いた思い出を増やし、卒業への高まりにつなげるのです。
2 卒業式練習がうまくいく指導の極意
(1)卒業式を唯一無二のものに!!
いつもこの思いで、受け持った6年生の卒業式を考えます。特に、卒業表現は、どこの学校の6年生にも当てはまるような言葉であってはいけません。卒業式がうまくいく指導云々の前に、まずは卒業表現の内容が、子どもにとって唯一無二の言葉であることが大前提だと思います。
私は、学校は生き方を育てる場所であるというポリシーで、教育を営んでいます。だから子どもたちには、大きな行事である運動会・音楽会をはじめとして、日々、心を成長させることを大切に積み上げています。そこには、まぎれもないドラマがあります。幾度となく全員で集まり大切なことを確認した学年集会、みんなで運動場に描いた等身大の大仏、努力を重ねた音楽会、何より、熱い思いと時には感動の涙で取り組んだ運動会など。
だから、「きみたちだからこそできる卒業表現にしよう」と子どもたちに話し、成長のあしあと(振り返り)を書かせます。各クラスの学活の時間に書かせますが、それぞれの担任で話す内容がまちまちでは、卒業への高まりに支障を及ぼすので、学年集会で話したり、B4用紙2枚にわたるお便りを添えたりして、振り返りを書かせるようにしました。
振り返りは、4つのテーマで、具体的な項目を提示し振り返りを書かせます。テーマは「@大切な思い出」「A大切な出会いと学び」「B12年間の感謝」「C明日をつくる自分を誓う」などで、1テーマにつき8〜10ほどの具体的な項目を示し、その子その子の表現を引き出します。1テーマにつきB4用紙1枚なので計4枚。学年で130人ほどいますので、4×130枚をすべて読み、子どもの言葉100パーセントで卒業表現をつくります。
(2)指導は1日目が肝心
正式な卒業式の練習の前に、学年集会をとり、卒業式練習への心構えを共有しておきます。さらに、卒業表現のプレ練習も行います。テーマごとに分かれ、担任が分担してつき、体育館で一斉に行うのです。一斉に行うことで、声が響き合う中、思いっきり声を出させることができます。その後、グループごとに舞台に順番に上がらせ、もう一度声を出させる。あくまでプレ練習ですが、静寂の中で急に大きな声を出すように注意するより、一斉に練習する中で声を出すように指導する方が、指導が伝わりやすいためです。
そして、いすを並べ、卒業式会場となった体育館での練習1日目。教室から静かに移動し、背筋を伸ばして座ることを指導すると共に、休憩時間やたとえ教師が体育館にいなくても静まりかえって待つことを指導します。ここは、6年間の学びの成果を出す場所。自分たちの表現の場所。待ち姿も学びを生かし、成長を表しているということをはじめに指導します。そして、「気をつけ・礼・着席」の練習に入っていきます。
こうしておくと、後日、練習に参加する5年生に、たくさんの指導をしなくても、卒業式での在校生代表としての役割が伝わります。卒業式とはどういうものか、多くを語らなくても6年生の背中を見て感じ、5年生も育っていくのです。余談ですが、私は、運動会では5・6年合同で組体操をするので、5年生の成長も願い指導を考えます。卒業式も、次に最高学年になる5年生にもしっかり成長を促せるように、練習をつくっていきます。
(3)表現の方法と聞き手の姿勢の両方を指導
表現するときに意識することを3つに絞り、子どもに伝えておきます。「@声の張り」「A表情を強く、力強く立つ」「B間(ま)」です。呼名の後の返事については、大きな声を指導する教師がほとんどでしょう。しかし、間がなく返事をするのでは、表現が足らないように思います。卒業表現についても同じです。張りのある声で(どならない)間を持ち、力強い表情と立ち姿などの文章内容以外の表現部分から、思いは伝わるのではないでしょうか。だから、声の指導だけではなく、立ち姿、表情、間についてもしっかり指導をしたいものです。
また、表現をしていないとき、待っているときの姿勢が、卒業式に一体感をもたせるか否かに大きく関わります。表現していない者も含めて、全員で一つの表現をつくっているのです。だから、卒業表現では、待っている子は、発言している子と同じ気持ちでいることが大事です。唯一無二の卒業表現は、全部が自分たちの思いであり、それを順番に1人ずつ語っているだけで、自分の言葉だという感覚でいてほしい。だから、頷いたり目を輝かせたりして、意識をもって待っているように指導していきます。
以上のような指導は、卒業式の練習時間だけで徹底させることは難しいです。そこで、学級での指導が必要になります。
(4)学級での指導を具体化
では、学級ではどのような指導を行えばよいのでしょうか。学級では、全体指導では行き届かないことに指導の重点を置きます。まずは、個人指導。具体的に細かな指導をします。返事や卒業表現のセリフの練習は、先述した3つの視点で見取ります。呼名のあとの返事と卒業表現は、小学校での最後の声です。思いを込めた表現にこだわらせたいものです。
立つ姿勢は、運動会の組体操のときに、「気をつけ」をしっかり指導していますので、その学びを発揮するように声をかけます。そのほか、全体練習では見切れない細かな動きも指導をします。曲がり方、回れ右など、動きの練習はもちろんですが、証書をもらった後、自席に座る前に、しっかり止まって背筋を伸ばして気をつけをすることなど、細部を指導します。休み時間や終わりの会などの時間を使い、個人指導を充実させていきます。学活で、子ども同士がアドバイスする会をもつことも有効です。
(5)教師も子どもも集中して卒業式に取り組むために事前指導すべきこと
・袖の長い服を避けること。礼をして顔にかからないような髪型にすること。特に卒業式当日の朝はトイレが近くなるので水分をひかえるようにすること。
→無駄な動きをなくし、集中力を高めるためです。また、そのような理由についても子どもに伝え納得を促しておきます。
・もし名前を間違われたら返事はしないこと。卒業表現は、前の人のセリフも覚えておくこと。
→ハプニングが起こることも想定できます。担任が名前を間違うことがあってはなりませんが、何があるかわかりません。欠席でなくても、式の途中で体調が悪く中座する子もいるかもしれません。そこで、練習のときから、呼名が違えば返事はしないこと、卒業表現の際に欠席なども含めて当人がいなければ、その次にセリフを言う子が覚えておいて表現することを徹底し、ハプニングに対応できるようにしておくことも大事です。
以上のような細かすぎると思われることも、事前に指導しておけば、卒業式練習が滞ることもなく、無駄な注意をすることも回避でき、教師も子どもも集中して卒業式練習に取り組むことができるでしょう。もちろん、集中力の高い練習は、本番を支えます。
「練習は本番のように。本番は練習のように」です。
この言葉は、一緒に6年生を担任した先輩の先生が子どもたちに語っていた言葉で、受け継いで使っています。
若い世代が増えてきた昨今、6年生を若いうちに担任する先生もいることでしょう。卒業式の練習は、マニュアルには残らない、練習の緊張感や思いがあり、そこを伝承することが大切だと思います。今、5・6年生の担任ではなくても、邪魔にならないところから練習を見せてもらい、卒業式への思いを感じることも有効だと思います。うまくいく指導という方法面ばかりにとらわれないで、思いのつまった指導を大切に感じる教師であってほしい。強く願っています。