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1 「新学期から 学校に行くよ」のウラにあるもの
不登校児童生徒に対応をしていると、「新学期から 学校に行くよ」「テストは受けに行くよ」「行事には参加するよ」等々、子どもが学校に行くことを約束するような場面があると思います。もちろん本当に学校復帰したり、テストや行事に参加したりすることもありますが、当日になってその約束が果たされないことは多いと思います。先生や周りの大人からすれば「なぜ守れない約束をするのだろう?」と思うはずです。その気持ちのウラには何があるのでしょうか?
ズバリ言ってしまうと、子どもが「忖度をしている」からです。子どもの心理面から考えると、とても簡単なことなのですが、子どもは周りの大人に保護されなければ生きていけないという動物的な本能があり、自分の気持ちに反していても、周りの大人に合わせてしまうということがあります。そうして「学校に行くよ」と言っても実際には「学校に行けない」という、心と行動のズレが発生するわけです。
心と行動のズレは、子どもが話す「不登校の理由」にも現れます。「どうして学校に行きたくないの?」と尋ねられたときに、そのときに周りの大人が納得する答えを話すので、先生、親、友達と場面によって違うことを言っているということがよくあります。
私が代表を務めるフリースクールネモでも、子どもの言うことがそれぞれ場面によって違うということはありますが、『子どもの行動から子どもの気持ちを考えていく』ことをスタッフ同士で共有しています。「学校に行くよ」と言って学校に来なかった場合は、子どもは何らかの事情で「学校に行きたくない」のだということを、まずは受け止めなければいけないと思います。
2 学校に行きたくないということを受け止めてもいいの?
平成28年12月に教育機会確保法が成立しました。同法では休養の必要性や多様な学習活動の重要性が謳われています。超党派フリースクール等議員連盟幹事長馳衆議院議員は「これは現状を追認する法律」と話しています。一定数いる不登校の子どもの存在を認め、子どもが教育を受ける権利に基づき、学校に行っている・行ってないに関係なく、また国籍にも関わらず、すべての子どもたちの教育の機会を確保していくためにできた法律です。
また、平成29年3月には、小学校及び中学校の学習指導要領が改訂され、初めて、不登校児童生徒への配慮について記載がなされました。“社会的自立を目指す観点から、個々の児童の実態に応じた情報の提供その他必要な支援を行う”(一部抜粋)とあります。
このように、法律、学習指導要領でも、不登校児童生徒への対応は「学校に復帰することが目的」ということが全てではないということが示されています。そういったことからも、学校外の多様な学習活動を子どもや保護者が望めば、応援していく必要性があるのです。
3 今すぐできる、「学校復帰を絶対としない支援」
文部科学省が毎年行っている、「平成29年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の不登校児童生徒への指導結果状況によると、指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒は全体の25.3%となっています。登校復帰にはとても高いハードルがあります。また、残りの74.7%のうち継続した登校には至らないものの好ましい変化が見られるようになった児童生徒は21.3%でした。このようなデータから考えられることは、そもそも登校復帰を望んでいない子どもたちが一定数いるということではないでしょうか?
また、不登校の子どもの状態によっては、学校復帰を進めることが逆効果になり状態が悪くなってしまう子ども達もいることも確かなことです。そのような子どもたちを支えるためには、学校復帰を絶対としない<社会的自立に向けた支援>を考えていく必要性があると考えます。
学校復帰を望まない子どもたちの中には、積極的に拒否しているわけではなく、「どちらでもない、わからない」という状態の子どももいるかもしれません。しかし、現に、フリースクール等、学校以外の場所で学んでいる子ども達はすでに多数存在しています。そのような子ども達のための、学校復帰を絶対としない支援体制の整備が急務となっています。
もちろん、学校復帰を望む不登校児童生徒に対しての取り組みは、今後も学校としてしっかりやっていかないといけないと思います。これを否定しているわけではありません。
しかし、学校の先生という立場からも、学校復帰を絶対としない支援をすることはできるのです。
そこで、先生方ができる支援の3つの具体的な方法を提案します。
(1)近くのフリースクール、親の会等に見学に行く
実際に自分で見て、フリースクールとはどんなところなのか、どのような支援をしているのかを見ることが第一歩目だと思います。フリースクールネモには近隣の学校の先生が見学に来たり、研修先として来たりしています。フリースクールと学校は異なる立場ではありますが、子どもを支援するという同じ目的をもっている者同士として、お互いに顔が見える関係性を築いていくことが大事だと感じます。
(2)学校復帰前提でなくとも、フリースクール等に通った日数を出席扱いにカウントする
不登校児童生徒が、フリースクール等の学校外の施設において相談・指導を受けるとき、校長の判断によって指導要録上出席扱いとすることができます。平成15年の文部科学省の通知(不登校への対応の在り方について)では、出席扱いの要件として学校復帰が前提とされていました。しかし時代も変わってきたこともあり、学校復帰が絶対ではないフリースクールネモに通う子どもたちに、在籍校の校長先生が子どもの活動を応援する意味で、出席扱いにしている状況があります。出席扱いにすることで、高校進学等のその後の進路に繋がっていく子どもは少なくありません。「子どもの最善の利益」を鑑み、学校外での子どもの活動を応援してあげてください。
(3)IT等での自宅学習について出席扱いにする
平成17年に、不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合、校長の判断で指導要録上の出席扱いとすることができるとする通知が出ています(不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出欠の取扱い等について(通知))。しかし、これを活用している児童生徒は、平成28年度も全国で150名程度にとどまっていました。
この状況を踏まえて、平成30年10月に文部科学省初等中等教育局児童生徒課から「不登校児童生徒が自宅においてIT 等を活用した学習活動を行った場合の積極的な対応について」という通知が出ています。この通知では、「児童生徒の自宅における学習活動への意欲を引き出し、その結果を学校として適切に評価することをもって、児童生徒の社会的自立に向けた支援を一層推進することが重要である」と改めて示したうえで、具体的な活用方法や事例が挙げられています。
フリースクール等がない地域での支援のあり方を考えていく一つの良い方法だと思います。
子どもを中心に、学校・フリースクール等という立場を超えて寄り添っていくことが大事なのではないでしょうか?