教育オピニオン
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今知っておきたい 「性の多様性」への理解を深める授業
Like myself代表前田 良
2020/3/1 掲載

1 まずは「知る」こと
 現在もなお、「男はこうだ」「女はこうだ」と性別で決めつけ、分けてしまっていることがたくさんあります。
 それは学校現場だけでなく、家庭、日常すべてにおいて言えることです。
 性別で決めつけるのではなく、1人1人の個性を大切にし、「自分らしく生きる」ことを子どもたちに伝えることが大切です。
 性の多様性を知るために、就学前、小学校、中学校と年齢に応じた学び、気づき、行動が必要になってきます。
 もちろん授業だけでなく、日常の生活の中でも心がけることが大切です。
 世の中には人の数だけ性があり、生き方があるということを伝え続けることが、性に悩んでいる人たちを救うことだけではなく、すべての人を救うことになると思います。
 理解することは難しいですが、まず「知る」ことが大事だと信じ、伝え続けています。学校で児童生徒に授業する際は、先生方がこの「性の多様性」をきちんと学び、知ることが大切です。

2 1年生から系統立てた学習
 性に違和感がある子の中には、幼い頃からその違和感を抱えている子もいます。僕自身もそうでした。だからこそ、就学前から活動の中で学習をしていく必要があると感じました。幼い頃から、性のあり方を自由に選ぶことができ、またそれが認められる人間関係が必要です。
 もし、性に悩んでいる子がクラスの中にいれば、その子にとっては身近な学習になりますから、丁寧に最大の配慮をすることが大切です。また、自分のクラスには性に悩んでいる子が「いない」と思っていたり、いるかどうかが分からなかったりする場合も、「いる」と思って学習を進める必要があります。

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 低学年では、具体的な物や遊び、色から、性別で決められたり、分けられたりしていることが間違っているんだと気づかせる授業を行います。
 中学年では、仕事、身体の変化、気持ちなどから考えていきます。中学年は、身体に変化が現れる時期でもあるので、細かな配慮が必要となります。
 高学年では、自分事としてとらえ、自分にできることを考えてもらうために、「性の多様性」を4つの要素から考えていきます。その積み重ねが深く広い学びとなり、「自分だけよければよい」という考えにならないように心がけています。
 カミングアウトできない、相談できない環境は学校の中だけの問題ではありません。誰かに相談できるような環境づくりも大切です。
 「知って、気づいて、行動する」。このことを伝え続けています。
 もちろん課題もあります。先生方1人1人の意識もそうですが、学校にも「どの時間で授業をするか」という問題があります。総合、道徳、保健、理科、社会など、いろいろな教科で取り入れることは可能だと思います。カリキュラムの作成も先生方と一緒に考えていくことで、気づきや先生との信頼関係もうまれます。子どもたちや先生、保護者とのつながりを大切にしています。

3 「性の多様性」への理解を深める授業例
 授業で大切にしていることは、性に悩んでいる人が身近にいることを子どもたちに知ってもらうこと。そしてその人の生の声を聞くことです。

 ここで、授業の一例を紹介します。
 自己紹介後、子どもたちにいくつか質問します。その中の1つが、「僕は男性? 女性? 分からない? さて、どれでしょう」と手をあげてもらいます。するとみんな男性にあげます。
 どうして男性だと思うか聞いてみると、子どもたちは、「服装が男の人の服」「髪型が短いから」「声が低いから」「ひげがあるから」など、「男の人はこうだ」という見た目のことを口にします。
 そこで、「正解は…男性です」と言います。すると、みんな「当たり前やん。見てわかるやん」と言います。
 そこから、「実は生まれたときは、女性の身体で生まれてきたんだよ。胸や子宮、卵巣があって…。みんなと同じ年齢の時は女性として生活していたんだよ」と伝えると、みんなの顔つきが急に変わります。そして、みんなの目つき、授業への姿勢、どういうことか知りたいという興味がわいてきているのが伝わってきます。
 こうして、「男はこう」「女はこう」と決めつけていたことに気づくきっかけをつくります。授業時間がどれくらい確保できるかにもよりますが、1時間目は生の声を聞き、2時間目以降は、上の表に示したような、各学年のめあてにあった授業をします。
 世の中には性に悩んでいる人がいることを知り、その人たちが何に困っていて、不自由さを感じているかに気づき、そして行動にうつせるように系統だてて授業をします。
 保護者の方も一緒に学べるように参観日ですることも大切だと思います。「子どもたちがこんな学習をしているんだ」と知る機会にもなります。
 性に悩んでいる人のことを切り口に考えることで、性に悩んでいる人だけが救われるのではなく、すべての人が救われると思います。分からないことは聞けばいいんです。だから、授業の中や終わったあとに子どもたちは素直に聞きたいことを聞いてきます。そして、誰にも相談できず悩んでいた子が相談してくれます。
 中学生も同じです。何も聞かされず話を聞いて、最後に感想を言ってくれた生徒は、その時に思い感じたことを、詰まりながらでも1つ1つの言葉を大切に話してくれます。
 そして、大切な言葉。「楽しかった」と言ってくれました。

 先生方も授業をする際は、「性に悩んでいる子がいる」と思って授業をすることが大切だと思います。悩んでいる子を探すのではありません。今まで何気なく言っていた言葉を見直したり、男女を分ける必要のないものに気づいて改善していくことで、救われる子どもたちがいます。
 個性を大切にし、違いを認めあい、「いろんな人がいるんだよ」ということを伝えること。
 人権も楽しく学ぶことが大切です。

前田 良まえだ りょう

Like myself 代表。妻と子ども2人の4人家族。
●「女性」として生まれる
1982年に兵庫県宍粟市に生まれる。中学まで宍粟市で暮らし、高校は県外の女子高へ。その後、東京、大阪で暮らす。31歳の時、家族とともに宍粟市に戻り家族4人で暮らす。
●性に違和感
小さい頃から性に違和感をもっていた。20歳の時、「性同一性障がい」心と体の性の不一致と診断をうける。その後名前を変え、パートナーと出逢い、性別を「男性」に戻して結婚する。AID(非配偶者間人工授精)により子どもを授かる。
●父親として認められない
ところが、「子どもと血縁関係がないのは明らかだ」とされ、父親として認められなかった。長男は2年間も無戸籍の状態にされる。法務省に署名や陳述書を出すなど、親子関係が認められるよう活動を続ける。
●最高裁で逆転勝訴する
その後、東京家裁に「戸籍訂正許可申立」を行い、裁判を始める。東京家裁、高裁は「血縁を大事に」し却下、棄却という決定。しかし、最高裁にて大逆転の勝訴を勝ちとる!「ボクを父親として認める」という画期的な決定を手にする。ボクたちの家族のカタチを認め、「ボクは2人の子どもの父親」になった。
●「伝える」「知ってもらう」ため講演活動を展開中
「間違った知識ではなく、本当のことを伝え知ってもらう」ため、全国のいろいろな場で、行政職員、教職員や保護者(地域)、子どもたちを対象に、講演活動を展開している。全国を家族と共に走り回っている。
●著書
『パパは女子高生だった 女の子だったパパが最高裁で逆転勝訴してつかんだ家族のカタチ』明石書店、2019

*AID(非配偶者間人工授精)…無精子症など絶対的男性不妊の場合に適用される方法。第三者の精子を用いて行う。
*Like myself…当事者だけでなく、そのパートナーや子どもたちが相談しあったり、交流や遊んだりできるような会。年に1回集まり交流を深めている。

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