教育オピニオン
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持続可能なハイブリット授業の在り方と具体的方法
京都府公立小学校坂本 良晶
2022/2/18 掲載

 コロナの影響により都市部を中心に欠席者が多数出ている学校が増えてきています。それを受け、1人1台のタブレットを活用し、教室と欠席児童宅とを繋いだハイブリッド授業が展開される例が多く見られるようになりました。

 その現状を確かめようとTwitterのアンケート機能を活用して調査したところ、一斉授業を自宅で視聴する一方通行の形式のハイブリッド授業が全体の6割以上を占めていることがわかりました(下グラフ参考:ハイブリッド授業での授業形態に関するアンケート調査)。
 
 子どもの発達段階やICT機器操作スキル、教員の負担感等から止むを得ない面ももちろんあります。しかし、ICT(Internet Communication Technology)のCであるコミュニケーションはICTの文脈における核となるもので、本来ならば双方向でのコミュニケーションをしながら協働的に学ぶ場を設定することが望ましいと言えます。
 子どもたちがより豊かに学ぶことのできるハイブリッド授業の持続可能な在り方と具体的方法について考えたいと思います。

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ステップ1 チーム学習への転換


 ハイブリット授業をより持続可能なものにするための最適解が『チーム学習への転換』です。
 ハイブリッド授業を実施する上で最も困難に感じることの1つが、教室にいる子どもたちへ指導をしながら、各家庭から参加している児童一人ひとりの対応をすることです。
 結論から言うと、これは無理です。そのための解決策が『チーム学習』です。すなわち、どの授業・単元でもチーム単位で協働的に学ぶデザインをし、助け合い、学び合って学習を進める形態です。この形態を取ることにより、困っている友達がいたらチームで助け合う、より良いものにするためにチームで学び合う、そういった在り方を指導者が子どもたちに語り、価値づけることでチームとして機能が高まっていきます。こうなると、指導者が一人ひとりの対応に追われどっちつかずになるといった状況から脱却でき、学級全体を俯瞰して支援や価値づけができるようになってきます。
 チームづくりは、指導者が意図的に自宅学習者をバランスよくチームに配置し、リーダー性のある児童や人間関係等も考慮した上で、最大限学び合えるチーム編成を考えることも重要です。

 個人的には今回のハイブリッド授業を通じて学級経営上のプラスをもたらしたと感じています。不利な立場にいる友達を助け合い学び合おうとする雰囲気は、より良い人間関係の醸成へと繋がり、そのことを何度も価値づけることができました。

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※学習チーム構成のイメージ

ステップ2 デジタルベース型学習への転換


 ハイブリッド授業と最も相性が悪い形態は、黒板をベースとした一斉授業です。自宅から参加している子どもからすれば、タブレットを通しての黒板は見にくく、指導者や子どもの音声でのやりとりも聞き取りづらいので、かなりのストレスがかかることが予想されます。

 そのため、ハイブリッド授業においては、TeamsやGoogle Classroom等のデジタルでの教育用プラットフォームをベースに授業を展開することが望ましい形と考えます。クラス全体やチーム内でのコミュニケーションが音声、文字、写真、リンクを送る、ビデオ通話等、さまざまな方法でやりとりできるようになります。

 またコロナ禍において実施が難しくなった話し合い活動も実施がしやすくなります。それぞれが表現した文章等をTeams上にシェアすることで、手元の自分のタブレットを見てソーシャルディスタンスをキープしながら、友達の成果物を見て話すといったことができるからです。

 さらに教科・領域ごとにチャネルを立ち上げ、さらにそのチャネル内で単元ごとにスレッドを立てることで学習の軌跡が残るようになります。また指導者からの指示は音声で全体に伝えた上で、スレッドの初めにテキストでも残すことが大切です。音声や板書は消えますが、文字はTeams上に残ります。日替わりでさまざまな子どもが休む今日の状態において、単元全体の学習の流れが文字として残るメリットは大きいと考えます。

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※クラス内にチームのチャネルを作成

ステップ3 子ども主体の授業・単元デザインへの転換


 先述の通り、一斉授業における頻回な指導者と子どもとのやりとりは、自宅学習をする子どもを置き去りにしてしまいがちです。そこで、思い切って指導者の全体指示の時間をできる限り短く、子どもの活動時間をできる限り長くするような授業や単元デザインに転換していくことが必要だと考えます。

 具体的には、授業の初めの数分でその授業の中心となる発問をしたり、手順やゴールを示したり、視点を共有したりした後、ほとんどの時間をチームでの学習の時間としました。最後に授業全体の振り返りをするという形です。もちろん指導者と子どもたちとで何度もやりとりをして学びを深めていくような授業が望ましいという意見もあることは承知していますが、有事とも言うべき今日の状況を鑑みると、ここは選択と集中が必要な場面ではないでしょうか。

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授業・単元デザイン例


 ここからはハイブリッド授業に対応できる具体的な1時間の授業や単元全体を通したデザイン例について考えたいと思います。

◎授業デザイン例 算数『角柱と円柱』

 円柱の展開図をかき、組み立てることがこの授業のゴールです。これをTeamsの『円柱と角柱』のスレッドに投稿し、音声でも伝えます。
 この課題をクリアするために押さえるべきことは『円柱の側面は底面の円周と一致すること』であり、それを焦点化するためにチームで展開図をかくためのポイントについて話し合いました。
 Teamsの各チームのチャネルをベースにそれぞれの考えをテキストや音声等で出し合い、チームごとにフリップボートにまとめて全体でTeamsのスレッドで共有します。そして各チームで活動開始。試行錯誤を経てチーム全員が達成できるよう助け合います。
 自宅学習の子どももタブレット越しに展開図を友達と見合いできているかを確認したり、アドバイスを送ったりする様子も見られました。

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※1時間の授業の流れをTeamsで共有

◎単元デザイン例 国語『この本しょうかいします』

 低学年児童へ向け、おすすめする本を紹介するPOPを作ることがこの単元のゴールです。
 まず前時で・校外学習で、こん虫採集に行くにあたり、各自が適切な容器を用意すること。という文章を低学年に対して説明するにはどう書き換えれば良いか、という教科書の問いをチームで考え共有しました。その上でこの活動の重要事項である、@分かりやすい表現に置き換えるA漢字に振り仮名をふる、等を焦点化しました。
 その後は3時間、各チーム思い思いに図書室で本を借りに行ったり、自宅から持参した絵本を元にしゃべるPOPづくりに取り組みました。ICT機器操作として比較的レベルの高い取り組みになりましたが、友達同士で助け合うことでクリアすることができました。

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※単元全体の流れをTeamsで共有

避けては通れぬ『デジタル泥んこ期』


 私のクラスでは4月から一貫してタブレットを活用した授業を続けてきました。しかし、その道のりは決して順風満帆なものではなく、1学期には時間をかけてはいるがほとんど成果に繋がらないといった状況が何度もあり悩みました。
 しかし、こういった『デジタル泥んこ期』を経ずに、初めから綺麗に使いこなして成果を出そうといった考え自体がそもそも間違いなのです。失敗を繰り返しながら次第に強くなっていったデジタルの足腰で子どもたちが自立していった結果、今のICTをフル活用し双方向性を担保した授業が少しずつ成立していったというのが自己分析です。
 失敗して当然という前提のもと、繰り返しチャレンジしていくことが何より大切なことだと今は感じます。チャレンジしないことには指導者も子どもたちも成長はあり得ません。

 一人でも多くの自宅で学ぶ子どもたちが、双方向性の高い豊かな学びができるようになることを願います。

坂本 良晶さかもと よしあき

民間から教員へ越境し教員11年目。今年度はGIGA実践の発信をメインに。
Twitterフォロワー数3.3万人
関西教育フォーラム、watcha!等のイベント登壇
フジテレビ『ノンストップ』等のメディア出演
著書:『全部やろうはバカやろう』(学陽書房)、『ミッションドリブン』(主婦と生活社)等、単著4冊を出版

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