教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
【初任の先生必見!】「MY授業記録」でステップアップしよう
東京学芸大学 教授櫻井 眞治
2022/8/1 掲載

 みなさん、初任者としての一学期が終了して、一息ついていらっしゃるところでしょうか。大学時代がはるか彼方に行ってしまったかのような、子どもたちとの激動の日々だったと思います。そのような中でも、校内研究会、初任者研修会等で授業を参観する場があったことでしょう。みなさんは、そこでどのように授業を観て、何を考え、語りましたか?

1 「MY授業記録」をつくる


 私は、手書きの授業記録を作成しながら、授業を参観しています。授業記録には、「これは、書いておきたい。書かなければ」と思った子どもと教師の言葉、表情、行動、雰囲気等を記していきます。これは、手で刻み、授業を観ること、そしてそれと同時に自分なりの解釈を進めようとすることなのです。「書いておきたい。書かなければ」は、参観者の経験、子ども観や教育観によって異なってくるはずです。また、図やイラストを入れたりする等、表現方法も異なってくるでしょう。だからこそ、個性的な「『MY』授業記録」なのです。
 かつては、子どもと教師の言葉を漏らさず記録しなければと頑張っていた時期もありました。そのように意識されている方も多くいらっしゃるかもしれません。
 しかし、すべてを書き取ることが大事なことではありません。目の前で展開する授業を、しっかりと観て、感じ、心に刻むこと。子どもと教師の内面にも思いを致すことを大切にしたいのです。
 「これは、心に響く発言だ。よい働きかけだ」と思ったところには赤ペンで。また、「どうしてだろう?気になる。どうすればよかったのだろう?」には青ペンで線を引いたり、コメントを書き込んだりしていく。ただ、そうしていると授業がどんどん展開していってしまうので、その場では印を付けるだけにとどめ、授業後に改めて書き込んでいくこともあるのです。

2 授業の何を観るべきか?


 私は、次のようなことを気にしながら、授業を観ています。

  • 「子どもと教師が授業のねらいに迫っていく場面はどこか?」
  • 「その場での子どもと子どもの関わり合いは、どのようなものか?」
  • 「教師の支えはどうか?子どもの前に出ていくのか、あえて『待ち』、見守っていくのか?」

 つまり、子どもと教師がともに力を発揮してねらいに迫ったり、新たなものを生み出したりしていく「授業の山場」における子どもと教師の姿、教師の判断に問題意識があるのです。みなさんの現在の問題意識は、どのようなものでしょうか?
 また、全体の様子とともに、自分の近くにいる子どもと周りの子どもの姿も書きとめるようにしています。この子のつぶやき、ノートへの記述、表情の変化、友達との関わり合い等…。授業の展開の中で、可能な限り「この子」の学ぶ姿をとらえようとしているのです。その結果、一人ひとりの子どもが学ぼうとしており、1時間の授業の中で変化していく姿をとらえることができ、子どもの可能性に感動を覚えることもあります。

3 「MY授業記録」がひらくもの


 このような「MY 授業記録」がひらくものとは、何でしょうか? 1つには、「MY授業記録」を基に協議することによって、他の参観者との観方の違いに出合い、1つの授業を様々な視点から観ることです。筆者が先に述べた赤ペンと青ペンの箇所、ショートコメントの内容もきっと異なっているためです。
 2つには、授業者に素敵な子どもの姿をプレゼントしたり、授業の難しさをめぐってともに考えたりしていくことです。また、「〇〇さんは、あの授業で迷いながら深く考えていたね」というように、後日校内で子どもに会った際にフィードバックしていくこともできます。このように声をかけられた子どもは、きっと自信をもつことでしょう。みなさんの「MY授業記録」が、校内研究、ひいては学校をよりよくしていくことにつながっていくのです。
 3つには、自分自身が子どもの言葉、教師の言葉を丁寧に追うことを通して、聴くこと、語ることに更に自覚的になるとともに、参観した授業のよさや改善案を考えることを通して、授業づくりに生かしていくことができるという点です。筆者のゼミの卒業生である現職教員は、次のように語りました。

「自分の授業映像を観て、授業記録を作成してみました。子どもの発言をよく聞いているつもりでしたが、聞けていなかったことに気づくことができ、この作業が一番勉強になると痛感しています」

 これは、授業者自身による授業の分析と総合の結果です。
 
 このように「MY授業記録」を作成して授業を観ることは、目の前の授業から謙虚に学び、子どもの可能性、授業の可能性、そして教師自身の可能性をとらえようとするものです。この夏から、ぜひ、「MY授業記録」に動き出してほしいと思います。

櫻井 眞治さくらい しんじ

東京学芸大学 先端教育人材育成推進機構 教授
東京学芸大学大学院教育学研究科(修士課程)修了。修士(教育学)。公立小学校教諭,東京学芸大学附属竹早小学校教諭・附属世田谷小学校教諭,東京学芸大学教育実践研究支援センター准教授を経て現職。
【専攻】教育方法学、授業研究
【主著】「子どもの姿から次の授業を構想する授業研究−前時、本時、次時の参観と協議を通して−」(日本教師教育学会年報15号,2006),「『個のよさが生きる授業』についての一考察」(個性化教育研究第6号,2014 ) ,『公民的資質とは何か』(分担執筆,東洋館出版社,2016) ,『教育実習論』(編著、学文社,2022)ほか

コメントの受付は終了しました。