教育オピニオン
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子どもも、クラスも、教師も成長する運動会を創る3つのポイント
浜松学院大学教授川島 隆
2023/10/1 掲載

 小学校では、いよいよ秋の運動会シーズンを迎えるころとなりましたね。全国的には、春の運動会も多くなってきたのですが、このところの様子をみると、再び秋の運動会へと動いているようにも思います。いかがでしょうか。
 また、運動会自体も、1日開催から半日開催へ、保護者参観も自由から人数限定へ、かかわる種目から、個人種目へと変化してきた数年です。これは、コロナ禍の影響が大きいですね。コロナが5類となった本年度、また違った変化が起きていることでしょう。
 こうした変化が起こっている運動会ですが、昔も今も、子どもにとって、学校にとって、そして教師にとっても、大事な大事な学校行事の1つに変わりないと思うのです。大事というのは、大きな成長や学びが期待されるものだということです。教育的な意義があるということです。
 では、運動会という学校行事の意義を子どもの具体の姿に反映させ、子どももクラスも、そして教師も成長するものにするにはどうすればよいか、3つのポイントから考えてみようと思います。

ポイント1 何のための運動会か子どもが実感すること、教師がそれをとらえること


 例えば。
 「小学校のときの運動会で、どんな思い出がある?」と、我が家の高校生の息子に尋ねてみました。「大玉転がし、玉入れ、応援かな」という答えが返ってきました。その理由として、彼が語ってくれたこと。それは、「大玉転がし」は、「みんなでやった感があったし、普段はできないことでしょ」。「玉入れ」は、「自分の得意(運動能力)を発揮する場だった」。「応援」は、「低学年のころ、同じ色のみんなで声をいっぱい出した」。というものです。
 なるほど、学校行事(健康安全・体育的行事)の特徴に見事に合致するわけです。「学校行事の特徴」とは、次の3つです。

  • 規模の大きな集団活動(集団性) 
  • 学校生活に秩序と変化を与える活動(非日常性)
  • 日常の学習成果を総合的に発揮する実践活動(総合性、実践性)

 このことを、彼の思い出にあてはめていくと、

  1. 学級、学年の枠を超えてみんなで運動(大玉転がし)や応援をする楽しさ
  2. 普段はできない運動、運動会ならではの運動をすることの楽しさ
  3. 日頃取り組んできた運動の成果を発揮できる楽しさ

といった「楽しさ」を実感したことが、今も、心に残っているのです。
 結果として、こうした「楽しさ」を実感でき、運動会という行事の意義にふれたのですが、運動会を企画する段階で、子どもにとっての意義や「楽しさ」をとらえておかなくてはなりません。つまり、何のための運動会なのか、子どもの内にどんな「楽しさ」を生み、学級のどんなところを成長させるかを、学校単位だけでなく、学年・学級・個人レベルで具体的にイメージしておくことだと思います。
 そしてまた、それが行事の後でどのように達成されたのか、されなかったのか、子どもの声や記述から実感を読み取っていくことも大切なポイントであると考えます。「評価」という言葉で表現してしまうと、あまりにありきたりになってしまうかもしれませんが、その子どもの、その学級に生まれた実感は唯一無二であり、尊いものとして教師が感じ取っておくことは、教師の子ども観を深める、教師の成長につながる一歩だと思うのです。

ポイント2 目指すところを共有し、「見える化」すること


 運動会に向けて、個々の目標を立てさせる指導をすることがありますね。ワークシートに書かせることも手立ての1つです。運動会では、徒競走のような個人種目もあるのですから、大事な指導です。一方で、団体種目もあります。先ほど登場した「大玉転がし」や「玉入れ」もその例ですが、表現種目もその1つですね。
 そうした団体種目では、何をどこまで、あるいは、どのようにするのか、といった目指すところを共有していくことが大事です。
 「しっかり」や「きちんと」といった曖昧な言葉でなく、できるだけ具体的な言葉で。それが取組の評価指標にもなるわけですから。何がどこまでできたかが、子どもに理解できるようにしておくことが日々の取組のモチベーションにつながります。
 例えば。

図1

 ある学校の運動会前の学年掲示板です。
 運動会に向けて身に付けさせたい力は、目標として明文化されていると思います。しかし、一方で、運動会の準備等の忙しさにかまけて、生活にゆるみや乱れが出てくることもあります。そこで、運動会だけじゃなくって、学校生活だって紅白対抗だと、競争心をあおりながら、学校生活全体の見直しをさせ、実践させていく取組です。こうして「見える化」することで、子どもの関心・意欲を高めていこうというものです。毎日、どの項目で勝ったか負けたか、子どもたちの注目が集まります。もちろん、運動会の内容に関することも、こうした「見える化」を図ることで、子どもの取組の活性化や成長実感につながると思います。また、この取組は、個人としてだけでなく、クラス全体の意識を変え、行動を変えていきますから、クラスの成長が期待できます。

ポイント3 どこまで子どもに任せるか


 運動会では、学年や学年団で、「表現種目」に取り組むことが多いと思います。「ソーラン節」をはじめとする民謡やその時々の流行りの曲に合わせて踊ったり、組体操に類した動きを演じたりするのをよく見るのです。しかし、作品として出来上がったものを、子どもに与え、表現させていくということには私自身抵抗があって、むしろ、子どもが自分で考えるとか、自分のイメージを大事にするとか、自分たちで創り上げていくことを大切にしたいと考えています。
 例えば、こんな実践をしたことがあります。
 私が6度目の6年生の担任をしていたころ、「自ら創る」という目標を掲げ、子どもの主体性を前面に押し出して様々な活動を進めていました。
 そこで、運動会で行う組体操(今でいうところの表現種目)も子どもたちの手で創ろうと提案しました。十数人の児童が中心となって(組体操プロジェクト)、全体のストーリーや振り付けなどを考えていったのです。確か「僕らは龍になる」というその地域ならではの物語を表現したように記憶しています。
 当時の教え子に聞いたところ、「5年生の頃、先生方が考えられたものを覚えるだけでも大変だったのに、それを自分たちで考えようというのだから、大きな挑戦だったと思う。それでも、プロジェクトのメンバーが時間をかけて考えたものを、学年全員で共有し、演じきったというのはとても貴重な経験になった。」と回想してくれました。
 どこまで子どもに委ねるか、その塩梅は、すごく難しいところだと思います。子どもの集団の実態もあるし、発達段階もある。もちろん、何を身に付けさせたいのかもある。
 でも、先のコメントにあるように、今でも記憶に残る貴重な経験として、まさに集団として育つ、総合的に力を発揮する実践活動となったのではないかと思います。
 「この種目の、ここを、子どもに委ねよう、任せよう」、そういう活動を創ってみませんか。

むすびに


 特別活動の基本原理は、「なすことによって学ぶ」と言われています。子どもが主体となって活動し、活動を通して学ぶ運動会。
 まだまだ多くの制約や制限があることも確かです。でも、その中で、どのように子どもを、クラスを成長させていくか、指導・支援する教師にかかっています。同時に、子どもを、クラスを成長させていくことは、教師自身の成長にもつながっていきます。
 ぜひ運動会を皆が成長する大きな節目にしていきましょう。

川島 隆かわしま たかし

浜松学院大学現代コミュニケーション学部子どもコミュニケーション学科教授。
静岡県磐田市生まれ。
静岡大学教育学部卒業。兵庫教育大学学校教育研究科修了。
静岡県内公立小学校教員、浜松学院大学短期大学部講師を経て、現職。
大学では、教科教育法(体育)、特別活動の指導法、生徒指導、教科教育法(算数)、教育社会学、子どもの保健等を担当してきている。
現在の研究key Wordは、「幼小接続」「成長実感」「教師の力量形成」「振り返り」「見方・考え方」。
【近年の執筆論文】
「運動遊びと体育科に関する幼小接続の在り方の検討」(『幼児体育学研究』第14巻)
「子どもの側からとらえた授業の『振り返り』の意義と効果」(『浜松学院大学短期大学部研究論集』第19号)
「コロナ禍前後における保健室利用状況に関する事例的検討」(『聖隷社会福祉研究』第14号)

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