教育オピニオン
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学級じまいに向けて、子ども達に伝えたいこと
名古屋市公立小学校佐橋 慶彦
2025/2/1 掲載

「次に持った人が困らないように」という言説


 ラスト一か月に何をするか。学級じまいに向けて何ができるか。こんな話をするときに、必ず話題にあがるのが「担任の色を抜く」こと「次に持った担任の先生が困らないようにすること」です。自分も、そのような質問や指摘をされたことが何度もあります。
 しかし、ここで気になるのは、この議論がすべて教師目線であることです。確かに翌年以降のことも考えなければいけないのですが、大切なのは「次の担任の先生が受け持ちやすくなること」ではなく「目の前の子ども達が翌年以降も楽しく充実した日々を過ごすこと」、そして、これからも続いていくウェルビーイングを獲得していくということなのではないでしょうか。

学級経営の最終目標は良いクラスをつくることではない


 この子ども達一人一人のウェルビーイングを考えていく、という話は、筆者が軸足を置いている「学級経営」という分野にも当てはまります。そこでは確かに、温かな学級にすることや、みんなが安心して過ごせるような学級にすることを目指していくのですが、最終的な目標は「良い学級をつくっていくこと」自体ではありません。なぜなら「学級」は一年後に必ず消失する枠組みだからです。ですから学級経営に力を注ぐことは、良い学級をつくるためではなく、それを通して他者に希望を見出せるようになること、他者の中にいる社会的な自分に自信がもてるようになること、誰かの役に立つ喜びを知ること…のように、その子のこれからの幸福を願って行われなければならないと思うのです。
 そうして、子ども達が翌年以降も充実した日々を過ごせるようにと思いながら日々を過ごしていくと、自ずと新たな環境に不適応を起こす割合は減っていくように思えます。
 また、こうした翌年以降のことをはっきりと子ども達に伝えることもあります。この2月あたりの時期に、あるいはもっと前でも構わないのですが、子ども達に「乗客になっていませんか?」という話をします。

集団をよりよくする力が身についているか


 学級を一つの船にたとえると、一生懸命船をこいでいる子ども達がいます。また、船の中での雰囲気を良くしようとしている子もいるでしょう。船をきれいにしておこうとごみを拾っている子も、その船をこいでいる人たちに感謝の気持ちや励ましの言葉を伝えている子もいます。こうして、学級という船が進んでいくことに対してなんらかの貢献をしている人は、良い航海に貢献する力、つまり「自分で集団をよりよくしていく力」が身についていきます。
 自分で身の周りの人たちを幸せにできる人は、この先どんな集団に属しても、その集団をより良い方向に進めていくことができます。どんな相手に巡り合えるかという運任せではなく、自分の手でよりよい集団生活を送れるようにすることができる、というわけです。だから、少しでも周りを、あるいは自分が所属している集団をよりよくする力をこの数か月で身につけてほしいと伝えています。
 逆にみんなが進めている船に「ただ乗り」している人もいます。確かに今はたのしい毎日が過ごせているかもしれません。良いクラス、最高のクラスなんて言ってくれているのであれば、それはとても喜ばしいことです。しかし、だからといってみんなに甘えてしまって、自分では何もせずただただ良い思いをしてしまっていたら。その子にはどんな力が身についてしまっているでしょうか。運よく来年以降も良い集団に「ただ乗り」することができたら問題はありません。しかし、もしそうでなかったとしたら。その子は、自分の幸せを誰かに任せることになってしまうのです。「去年のクラスは良かった」「今年は最悪だ」なんていう言葉には、自分の幸せを人任せにしてしまっている姿勢が表れてしまっています。この人はハッピーですか、きっと違いますね。クラスの状態が良く、愛着や凝集性が高まっている年ほど、そんなことを子ども達に話すようにしています。
 すれ違った昨年の教え子達が「今ね、外遊びにみんなを誘ってるんだ」「アイデアを出したら採用された!」と声を掛けてくれることがあります。子ども達が新しい環境でも前向きに頑張っているという報告は、「去年の方が良かった」という言葉よりも何倍も嬉しく感じます。

佐橋 慶彦さはし よしひこ

1989年、愛知県名古屋市生まれ。名古屋市立公立小学校に勤務し、現在、教職13年目。学級経営や子どもの目線に立ったアプローチの研究と実践に取り組んでいる。
『第57回実践!わたしの教育記録』特別賞、第19回学事出版教育文化賞受賞。
日本学級経営学会会員。教育実践研究サークル「群青」代表。

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