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1.ICT機器の「よさ」
ICT機器といってもプロジェクタ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、タブレット機器、パソコンなど多岐に渡ります。子どもたちは、これらの機器が大好きです。大人が感じるほど、子どもたちは操作方法に抵抗感を感じることもありません。しかし、あるから使うのではなく、その「よさ」をしっかり把握して使いたいものです。体育授業で考えられる「よさ」をいくつかあげてみましょう。
【再現性】
動きを中心とする体育科の学習では、教科書、ノート、黒板などを使う他教科と違い、その過程を残すことができにくい教科です。しかし、ICT機器を使えば、動きを保存して繰り返し再現することが可能となります。また、お手本として映像を提示することもできます。動きを客観的にみることができる「よさ」があります。
【保存性】
前時の動きから数年前の動きまで、動きそのものを保存しておけることも大きな「よさ」です。前回の板書を残しておくのもいいでしょう。タブレットを持ち帰らせたり、HP上で公開できたりする環境にあるならば、予備学習として家庭で動きやコツを学習することも可能となります。
【即時性】
昨今の技術の進歩により、画面つきの録画機の普及も進みました。自分の感覚が鮮明なうちに、今行ったことをすぐに振り返ることができる即時性も大きな「よさ」といえます。
【柔軟性】
動きを止めたり、拡大したり、スロー再生したりできます。2つの動きを並べて提示することもできます。ねらいを提示したり、場を図示したりすることもできます。必要に応じて、柔軟に加工できるということも「よさ」といえます。
2.「よさ」をいかすために
しかし、授業にICT機器を取り入れる際には、これらの「よさ」を把握しているだけでは不十分です。その運用の仕方で、その「よさ」が生かされるかどうかがまったく違ってきます。次の2点を心がけましょう。
- 子どもたちにICT機器を使う目的を明確にもたせる。
- 授業の勢い(流れ)を止めない。
先日参観したタブレット端末を用いた高跳びの授業でのことです。
それぞれの記録にチャレンジしていく場面で、タブレット端末が登場します。グループごとに互いの動きを撮影し合います。その後、動画をみて、仲間でアドバイスし合います。今では、よくみる授業風景の1コマです。一見すると、最新の道具を囲んで、話し合いも活発に行われ、時代に適応した授業のように感じます。しかし、実際の授業をよく観察してみると、以下のようなことが起こっていました。
- 誰が撮影するのか、どこから撮影するのか。動きとは直接関係のないところでの話し合いに多くの時間が割かれる。
- 成功した動画では歓声があがり、失敗した動画では溜息がもれる。成功・不成功に一喜一憂するためだけの動画になってしまっている。
- 1回跳ぶたび集まってみんなで見ることを繰り返すため、試技する回数が少なくなる。
このように、「もったいないなぁ」と感じる場面が多々ありました。タブレット機器を扱うたびに、授業への参加率が下がっていくのがわかります。学びに向かう勢いがなくなっていくのがわかります。勢いが淀みはじめると、みるみるうちに参加率は下がっていきます。先の「よさ」が生きていません。
今月の授業ICTを活用して美しい前転を習得しよう!
では、子どもたちに使う目的を明確にもたせ、授業の勢い(流れ)を止めない授業とは、どのような授業でしょうか。3年生の「前転」の授業を例に考えてみましょう。
前転のコツを理解して、美しい前転を目指す授業です。ICT機器の活用場面を中心に紹介していきます。
課題提示場面
もっともよいお手本映像を見せるのではなく、いくつかの映像を見せます。比較することで、美しさのポイントを共有していきます。画面に書き込むことでわかりやすく示すこともできます。
また、「次の学年に参考になるお手本ムービーをつくろう!」と投げかけ、目的意識を明確にもたせ、学習への興味関心を高めます。
タブレット端末の活用
各班に1台タブレット端末を配布します。手本となる動画を入れておき、繰り返し見ることができます。スローで再生することもできます(iPadアプリ「VideoPix」使用)。
また、動きを互いに撮影する際には、闇雲に撮影を繰り返すのではなく、「動きヘルプ!」の宣言とともに撮影をします。例えば「ヘルプ! 足のたたみ方!」と宣言すると、仲間は足のたたみ方がわかるように撮影します。
振り返りへの活用
本時の振り返りをタブレットにあるメモアプリなどに書き込んでいくことで、学びの足跡を残すことができます。また、仲間の振り返りを見ることで、互いの課題を共有することもできます。文字の書き込みも、手書きでできるアプリもたくさんあります。また、学習のスタート時に、前時の最後の動きを振り返ることからスタートすることで、課題を再確認して学習に向かうことが可能になります。
ICT機器の「よさ」をいかせるかどうかも、教師力次第です。ICT機器を扱える力と同時に、「子どもたちは今なにを必要としているのか?」「どこでつまづきが起こりそうか」など、これまでの連載で述べてきたように、子どもの願いや思考の流れをつかむ力が必要です。私たちが願うICT機器を使う際の目的(教師の願い)と子どもたちが使う目的を一致させることで、ICT機器の効果は何倍にもなることでしょう。
絶対成功のポイント
- ICTの「よさ」をつかめ!
- 教師も子どもたちもICTを使う目的を明確にもつべし!
- 授業の勢いを止めないICTの使い方をせよ!