板書王のとっておき算数授業
これまで数々の授業・板書記録を残し続けてきた板書王が教える、子どもたちが授業に食いつく、とっておきの板書・授業ポイントが満載!
板書王のとっておき算数授業(8)
正しい数量関係の図「赤は青の1.5倍」を探せ!
4年「小数のかけ算とわり算・倍の計算(小数倍)」(12/12時間)
新潟県新潟市立浜浦小学校二瓶 亮
2021/1/15 掲載

本時のねらい

 二つのテープの長さ比べについて、数値を示していないテープ図から数量関係を読み取る活動を通して、倍の関係について理解するとともに、基準量を何にするかによって倍の関係が変わることを理解する。

板書

図1

板書のとっておきポイント

  • テープ図はマグネットを付けた紙で提示し、子どもの気付きや発言に応じて並び替えたり、移動させたりできるようにした(横一列に並べ、比較しやすくした)。
  • テープ図にはあえて数値を入れず提示することで、関係性に着目しやすくなるようにした。

授業の流れ

 本時は、「小数のかけ算とわり算」の単元末に位置付けられている小数倍について扱う。これまでに子どもたちは、「倍」についての学習を数回に渡って行ってきている。整数倍について2時間と小数倍について1時間(前時)の学習をしており、本時は小数倍の2時間目である。改めて“基準量”の大切さに着目させることをねらった。

1基準量と比較量を確認する(5分)

赤は何倍かな?

図2

 Aのテープ図を提示する。

「青の」ってことでいいんだよね?

今回は赤と青しかないからいいけど、他にもテープがあったら、「○○の」が大切でしょ。

比べるのは「長さ」?それとも「面積」?

そうだね。そこも大切だね。今回比べるのは「長さ」です。では、Aの場合で考えてみると、赤は青の何倍ですか?□に入る数をノートに書いてみよう。

1倍。

1倍というのは、長さが等しいということだね。

赤=1×青ということだね。

2数値を示していないテープ図から数量関係を読み取る(25分)

では、赤は青の1.5倍を表した図はどれでしょう?これだ!と思う記号をノートに書きましょう。

図3

 B〜Fのテープ図を提示する。なお、この時点では図に数値は書き込んでいない。B〜Fの中で、赤は青の1.5倍を表した図だと思うところで挙手させる。

「この中にはない」という選択肢もありにして!

B:0人、C:10人、D:6人、E:0人、F:11人、この中にはない:6人

これは絶対にない!と思うものはどれですか?

CとEはないと思う。

赤は青の1.5倍ということは、赤の方が青よりも長いということでしょ?ということは、CとEみたいに赤の方が短いものは違うと思うよ。

赤の方が青よりも短いから「赤は青の0.?倍」になるんじゃない?

でも、Cを選んだ人が10人もいるよ!どうしてだろう?

そうだね。Cを選んでしまった理由があるのかもしれないね。Cを選んでしまった理由を想像できるかな?

赤と青の長さを反対にして考えてしまったんじゃないかな?

たぶん、「青は赤の1.5倍」って勘違いしてしまったんだよ。

今回は赤は青のいくつ分かを考えないといけないよね。つまり青をもとにして考えるんだよね。

そうそう。「赤は青の1.5倍」の方は、青がもとだけど、Cと考えた人は、赤をもとにして考えてしまったってことだと思う。

図4

残りのB、D、Fはどうですか?

図5

Bは青の2倍よりも大きいから1.5倍ではないね。

それならDも違うね。Dも青のテープがもう1個分入るし、さらに余るから2倍よりも大きいことになるね。

Fも違うよ。1.5倍は1倍と0.5倍に分けられますよね。0.5倍分はここ(青と赤のテープの長さの差の部分)には入らないよ。だから1.5倍よりも小さくなるはず。

やっぱりこの中に「赤は青の1.5倍の図」はないんだよ。

3数値を用いて倍の関係を確かめる(15分)

そうみたいだね。数値を教えるから、この中に本当に「赤は青の1.5倍の図」がないのか計算して確かめてみよう。

 ここでテープに数字を入れていく。

Bは18÷6=3だから、赤は青の3倍だね。

Fは18÷15=1.2だから、赤は青の1.2倍。

Dは15÷6=2.5だから、赤は青の2.5倍。

Eは9÷18=0.5だから、赤は青の0.5倍。

Cは、12÷18=0.66…だから、赤は青の0.66…倍かな。

ほら!やっぱり「赤は青の1.5倍の図」はなかった。

さっき〇〇さんが言っていたみたいに、Cの赤と青の長さが反対なら1.5倍になるよ。

18÷12=1.5。本当だ。確かに1.5倍になった!

もし、青が12pで赤が18pだったら「赤は青の1.5倍の図」だったんだね。

図6

授業のとっておきポイント

 今回は、テープ図にあえて数値を入れず提示した。数値を与えないことで、関係性に着目せざるを得ない状況を生み出す。子どもたちは、二つのテープの長さの関係をもとに、「赤は青の1.5倍」という関係にあたるものを探そうとする。
 実際、子どもたちは基準量と比較量の関係を正しく捉えようとしたり、与えられた図から倍の関係を読み取ろう(「1.5倍よりも小さい」や「2倍よりも大きい」など)としたりしようとしていた。数値があるとすぐに計算しようとしてしまう。数というのは抽象的なため、数の操作だけでは“倍の関係”が見えづらいことがある。そのため、テープ図を用いた具体的な操作(倍の関係をテープで表すこと)で関係性に着目しながら説明する子どもの姿が現れていた。
 実は提示した5種類の図の中に正解の図はなく、基準量が反対になれば正解のものを入れておいた。正解があると正解以外のものには目が向きづらい。正解の図がないことで、子どもたちは正解ではない理由を説明していく。「正しい」ことを説明するよりも「正しくない」ことを説明するときの方が、子どもは意欲的になる傾向がある。こういった視点も算数授業では大切になると感じている。

二瓶 亮にへい りょう

1989年新潟県生まれ。新潟市立浜浦小学校教諭。教員9年目。
子どもの思考に寄り添うことを大切にした算数授業を目指して日々研鑽中。
「フォレスタネット」(授業準備のための指導案・実践例共有サイト)に、板書写真を中心に、実践を多数投稿。「フォレスタグランプリ」の2018年11月大会にて「板書王」、2019年2月大会にて「ベストナイン(算数)」、2019年7月大会にて「月間MVP」を受賞。
共著に「フォレスタネットSelection Vol.3・Vol.4・Vol.5」((株)スプリックス)がある。

(構成:中野)
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