- とっておき算数授業
- 算数・数学
本時のねらい
二つのテープの長さ比べについて、数値を示していないテープ図から数量関係を読み取る活動を通して、倍の関係について理解するとともに、基準量を何にするかによって倍の関係が変わることを理解する。
板書
板書のとっておきポイント
- テープ図はマグネットを付けた紙で提示し、子どもの気付きや発言に応じて並び替えたり、移動させたりできるようにした(横一列に並べ、比較しやすくした)。
- テープ図にはあえて数値を入れず提示することで、関係性に着目しやすくなるようにした。
授業の流れ
本時は、「小数のかけ算とわり算」の単元末に位置付けられている小数倍について扱う。これまでに子どもたちは、「倍」についての学習を数回に渡って行ってきている。整数倍について2時間と小数倍について1時間(前時)の学習をしており、本時は小数倍の2時間目である。改めて“基準量”の大切さに着目させることをねらった。
1基準量と比較量を確認する(5分)
赤は何倍かな?
Aのテープ図を提示する。
「青の」ってことでいいんだよね?
今回は赤と青しかないからいいけど、他にもテープがあったら、「○○の」が大切でしょ。
比べるのは「長さ」?それとも「面積」?
そうだね。そこも大切だね。今回比べるのは「長さ」です。では、Aの場合で考えてみると、赤は青の何倍ですか?□に入る数をノートに書いてみよう。
1倍。
1倍というのは、長さが等しいということだね。
赤=1×青ということだね。
2数値を示していないテープ図から数量関係を読み取る(25分)
では、赤は青の1.5倍を表した図はどれでしょう?これだ!と思う記号をノートに書きましょう。
B〜Fのテープ図を提示する。なお、この時点では図に数値は書き込んでいない。B〜Fの中で、赤は青の1.5倍を表した図だと思うところで挙手させる。
「この中にはない」という選択肢もありにして!
B:0人、C:10人、D:6人、E:0人、F:11人、この中にはない:6人
これは絶対にない!と思うものはどれですか?
CとEはないと思う。
赤は青の1.5倍ということは、赤の方が青よりも長いということでしょ?ということは、CとEみたいに赤の方が短いものは違うと思うよ。
赤の方が青よりも短いから「赤は青の0.?倍」になるんじゃない?
でも、Cを選んだ人が10人もいるよ!どうしてだろう?
そうだね。Cを選んでしまった理由があるのかもしれないね。Cを選んでしまった理由を想像できるかな?
赤と青の長さを反対にして考えてしまったんじゃないかな?
たぶん、「青は赤の1.5倍」って勘違いしてしまったんだよ。
今回は赤は青のいくつ分かを考えないといけないよね。つまり青をもとにして考えるんだよね。
そうそう。「赤は青の1.5倍」の方は、青がもとだけど、Cと考えた人は、赤をもとにして考えてしまったってことだと思う。
残りのB、D、Fはどうですか?
Bは青の2倍よりも大きいから1.5倍ではないね。
それならDも違うね。Dも青のテープがもう1個分入るし、さらに余るから2倍よりも大きいことになるね。
Fも違うよ。1.5倍は1倍と0.5倍に分けられますよね。0.5倍分はここ(青と赤のテープの長さの差の部分)には入らないよ。だから1.5倍よりも小さくなるはず。
やっぱりこの中に「赤は青の1.5倍の図」はないんだよ。
3数値を用いて倍の関係を確かめる(15分)
そうみたいだね。数値を教えるから、この中に本当に「赤は青の1.5倍の図」がないのか計算して確かめてみよう。
ここでテープに数字を入れていく。
Bは18÷6=3だから、赤は青の3倍だね。
Fは18÷15=1.2だから、赤は青の1.2倍。
Dは15÷6=2.5だから、赤は青の2.5倍。
Eは9÷18=0.5だから、赤は青の0.5倍。
Cは、12÷18=0.66…だから、赤は青の0.66…倍かな。
ほら!やっぱり「赤は青の1.5倍の図」はなかった。
さっき〇〇さんが言っていたみたいに、Cの赤と青の長さが反対なら1.5倍になるよ。
18÷12=1.5。本当だ。確かに1.5倍になった!
もし、青が12pで赤が18pだったら「赤は青の1.5倍の図」だったんだね。
授業のとっておきポイント
今回は、テープ図にあえて数値を入れず提示した。数値を与えないことで、関係性に着目せざるを得ない状況を生み出す。子どもたちは、二つのテープの長さの関係をもとに、「赤は青の1.5倍」という関係にあたるものを探そうとする。
実際、子どもたちは基準量と比較量の関係を正しく捉えようとしたり、与えられた図から倍の関係を読み取ろう(「1.5倍よりも小さい」や「2倍よりも大きい」など)としたりしようとしていた。数値があるとすぐに計算しようとしてしまう。数というのは抽象的なため、数の操作だけでは“倍の関係”が見えづらいことがある。そのため、テープ図を用いた具体的な操作(倍の関係をテープで表すこと)で関係性に着目しながら説明する子どもの姿が現れていた。
実は提示した5種類の図の中に正解の図はなく、基準量が反対になれば正解のものを入れておいた。正解があると正解以外のものには目が向きづらい。正解の図がないことで、子どもたちは正解ではない理由を説明していく。「正しい」ことを説明するよりも「正しくない」ことを説明するときの方が、子どもは意欲的になる傾向がある。こういった視点も算数授業では大切になると感じている。