校則なし!チャイムなし! 桜丘中が挑む学校改善アクション
校則全廃の公立中として知られる, 東京都世田谷区立桜丘中学校の具体的な取り組みを紹介します。
桜丘中が挑む学校改善アクション(7/最終回)
今までの制度にとらわれることなく、論理的に考える
東京都世田谷区立桜丘中学校西郷 孝彦
2020/2/21 掲載

 学校現場で一番足りないのは、「論理的に考える」という習慣です。数学の国際的なリテラシーの調査などで常に上位にある日本の学校の管理職の方や教員が、どうして論理的な思考や運営ができないのかいつも不思議に思っています。これも、ただ単にペーパーテストで測れる学力は実社会にはあまり役立たないという実例の一つなのかもしれません。

遅刻になる条件は異なる

 桜丘中には、遅刻がありません。「えー」という声が聞こえてきそうです。皆さんの学校にも、遅刻をするぐらいなら学校を休んでしまおうと考える生徒はいませんか。本校にも、そのように考えて学校を休んでしまったり、朝定時に起きることが難しく結局学校に来なくなってしまう生徒がいました。
 生徒の登校時間は、それぞれの学校で決められています。本校は、昨年までは8時30分。その時間に教室にいなければ遅刻です。ある学校は、同じ時間までに校門を潜らなければ遅刻です。このように、学校によって校門を通過していること、教室の机に座っていることなど条件が違います。
 それから、その時刻は同じである必要もないようです。ある学校は8時15分、またある学校は8時までにチェックできなければ遅刻だそうです。
 遅刻にならない理由も様々あり、通学に使っているバスが遅れたり、事故があった場合や通院などの事情があれば免除になる学校もあれば、ならない学校もあります。3年生は、受験のための事務手続きがある場合は遅刻にならないという学校もあります。
 つまり、遅刻になる条件は、10校あれば10校とも違うのです。これでは、公平性に問題がありませんか。特に高校受験の内申書に遅刻の記載がある場合、それぞれの学校で遅刻の条件が違ってもいいのでしょうか。

子どもたちが来やすい環境に

 ここからは、さらに論理的に考えてみましょう。ある学校の登校時間は、9時と決めたとします。隣の学校は10時、その隣はなんと12時。給食までに間に合えば、遅刻にはなりません。
 では、夕方の5時までに来なければ遅刻である、という学校があったらどうでしょう。5時といえば、先生方の勤務時間も終わっている時刻です。この時間までに学校へ来ればいいということは、この学校に遅刻の生徒はいないということになります。
 賢明な読者はもうお分かりだと思います。「遅刻」を記録するという制度は、論理的には破綻しているのです。公平性が明らかに担保されていません。
 そこで本校は、遅刻をとることをなくして、そのような生徒が学校に来やすくなるようにできないかと考えることにしました。桜丘中は、遅刻はとりませんが、欠課は記録しています。いわば大学と同じ状況です。そもそも遅刻をなくした理由は、不登校やこだわりが強い生徒のことを配慮したからです。遅刻がないので、起立性調節障害や不登校気味の生徒も気楽に学校に登校してきます。お昼頃にやっと登校できるという子もいます。
 全国で、不登校の生徒が爆発的に増加しています。今までの制度にとらわれることなく、少しでも子どもたちが学校に来やすい環境をつくってほしいと思います。
 

西郷 孝彦さいごう たかひこ

1954年神奈川県横浜市生まれ。上智大学理工学部卒。理科と数学の教員として、1979年、東京都職員になる。都立養護学校から大田・品川・世田谷区にて教員・教頭を歴任。2010年より世田谷区立桜丘中学校長に就任。発達特性に応じたインクルーシブ教育を進める中で、校則や定期テストの廃止など個性を伸ばす教育を推進している。

(構成:赤木)
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