- スーパー養護教諭の仕事術
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今月の相談
小学校6年生のヒロアキ君は、元々不登校傾向のおとなしい男子です。月に2、3回程度の欠席はありましたが、長期欠席はありませんでした。3学期が始まり10日程経ちますが、「朝、布団から出られない」と言ってまだ一度も登校していません。放課後、担任が家庭訪問をすると玄関先でヒロアキ君に会うことはでき、たわいのない会話はできます。冬休み中から、風呂にも入りたがらず、一歩も外出せず、お母さんは常にイライラしていると話しています。お母さんも、担任も、「寒いからねえ…」「またそのうち行くようになる」と言っていますが、私は、このまま見守っていていいのでしょうか。
スーパー養護教諭のアドバイス
1「いつものこと」を疑おう
時々休むのはいつものこと、寒くなったから、誰だって布団が恋しい。つまり、お母さんと担任の意見は、『心配だけど、まあ、暖かくなれば自然と動き出すだろうから見守ろう』ということですよね。でも、あなたは「いつものこと」と『ちょっと違うんじゃない?』と思った。あなただけは「風呂に入りたがらない」「外出しない」「常にイライラ」「10日間連続欠席」という情報は「いつもと違う」と気がついた。若手養護教諭として素晴らしい気づきです。
2アセスメントしてみよう
私なら、「風呂に入りたがらない」「外出しない」と聞いて、「うつ」を疑います。養護教諭の活動は、基礎的知識をもち、アセスメントし、そして実践することです。あなたも心の中で「うつ」を疑ったのかもしれません。つまり、「うつ」の知識があった。次にあなたがすべきことは、ヒロアキ君を養護教諭の視点でアセスメントすることです。子どもの情報には、体温や血圧・脈拍などの「客観的情報」と、子ども本人が感じている痛みや不安・不調などの「主観的情報」があります。この子どもの状態を分析・評価することを「アセスメント」と言います。このアセスメントの結果が、養護教諭の判断材料になります。
3判断して、提案してみよう
ヒロアキ君の情報を分析すると、体温・血圧・脈拍などに問題なし、「朝布団から出れない」「風呂に入らない」「外出しない」「10日間欠席」ということから、子どもの「心の病気」のサインである「なかなか起きられない」「身だしなみにかまわなくなる」「学校に行きたがらない」に当てはまります。つまり「心の病気」かもしれない。しかし、この情報だけでは、内科的疾患も完全には否定できません。あなたは保健医療職として、自分のアセスメントを充足させるために、お母さんと担任にこう提案してみましょう。
「私はヒロアキ君の様子を聞いて、心配です。このまま様子を見てよくなるという期待ももちろんあります。しかし、養護教諭の立場からは、『内科的疾患』や『心の病気』も否定できません。私から学校医に相談してみてもいいでしょうか? スクールカウンセラーに聞いてみてもいいですか? もしくは、ヒロアキ君のかかりつけ医に相談してもらえませんか?」
今月のまとめ
お母さんと担任の「見守ろう」を受容しつつも、保健専門職として、その根拠のない楽観論を打ち砕きましょう。根拠のある次の一手を提案し、それを元に支援を実践しましょう。この繰り返しが「あなたのおかげでよくなった」という信頼となって返ってきます。結果、子どもの未来は本当の意味で楽観的なものになるに違いありません。