勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(18)
不適切な行動で得ているモノ
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2018/11/15 掲載
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1 不適切な行動で得をする

 前回まで、少し抽象的な話が続きましたので、ここでは、具体的に話を進めていきたいと思います。小学校4年生の男子、ツヨシくんにまたここで登場していただきます。彼は所謂「キレる」子でした。つまり、感情のコントロールが苦手でした。彼が3年生のときに所属していたクラスは、所謂、学級崩壊の状態になりました。彼が暴れることによって生じる混乱が主たる理由とのことでした。もうおわかりだと思いますが、ツヨシくんは、以前本連載に登場した、ゴミ箱を粉々に踏みつけて破壊した子です。
 彼は一日に、何度も感情的になって暴れます。その暴れっぷりたるやなかなかのものです。彼が暴れ始めたので、担任が教室に駆け付けると、今、まさに、椅子を友達に向かって投げようとしているところでした。清掃の時間になると、ほぼ毎日清掃班の男子メンバーとチャンバラをし、箒などの清掃用具が壊れることもしばしばでした。

図1

 給食も他の子どもたちにとって安心の時間ではありませんでした。食欲旺盛な彼は、給食の時間になるといち早く食べ終わり、「おかわり」をします。また、デザートが余ると必ずジャンケンをするために名乗りをあげました。そのジャンケンがまた、けっこうな修羅場で、好きなデザートのジャンケンに参加して、負けでもすると周囲のモノを投げつけて暴れることもありました。そのクラスにとっては給食も、特にデザートがあり、欠席者のいるときは、緊張感のある時間となっていました。
 さて、ここで考えていただきたいことがあります。これまで、人間の行動には目的がある、したがって、子どもの問題行動には目的があるということでした。ツヨシくんのキレる行動にも目的があると考えられます。
 ツヨシくんの行動の目的は何なのでしょうか。担任は彼との時間を過ごすうちに、クラスの中で、「問題悪化のサイクル」が循環していることに気付きました。例えば、彼は3年生のときから、しばしば、というかほとんど宿題をしてきませんでした。それを休憩時間に片付けてから遊びに行くように指示をされると、遊び時間を削られることを極度に嫌う彼は、泣いたり、わめいたりして大暴れしたそうです。あまりにもそれが激しいので、担任も段々と宿題を「大目に見る」ようになりました。それは決して許したのではなくて、放課後までやらないのでそこまで引き延ばしたわけです。しかし、彼は「さよなら」の挨拶とともに一目散に逃げ帰ったそうです。
 また、給食のデザートジャンケンの折には、最後の二人、つまり決勝までいくと、そこで、相手の子が「俺、やっぱりいいよ」と譲ってしまっていました。恐らく、彼が負けたときの混乱が嫌だったのだと思います。
 また、清掃時間の立ちまわりについていえば、休憩時間に友達と触れ合うことが少ない彼にとっては、清掃時間に暴れることによって、一定の男子とケンカを通じてかかわりをもつことができていました。
 つまり、彼は、キレることによって、宿題の免除、デザートの獲得、そして、友達のかかわりといういろんな得をしていたのです。つまり、通常の学級生活を送っていたら手に入らないものを、「キレる」ことによって、手に入れることができたということです。彼にとって「キレる」ことは実に効率よく、「欲しいモノを手に入れる」ために有効な方法でした。
 しかし、本当に彼の目標はこれだけでしょうか。

2 キレることによって得ていたモノ

 みなさんはおもちゃ売り場やスーパーで、駄々をこねている子を見たことはないでしょうか。欲しいモノを「買って、買って」とせがみます。時には、泣きながら必死に訴えます。そんなときに親御さんは、その場をどのように収めるでしょうか。買い与えるという方法もありますが、少しもののわかった方ならば、それがわが子のためにならないと知っているので、そういうことはしません。そこで、なだめたり、叱ったりしてその場を収めようとします。それでも、その子は別の機会に同じような行動をすることでしょう。それは、報酬を得ているからです。
 欲しいモノは買ってもらっていないのに、「何が報酬なのか?」と思う方もいるかもしれませんね。その子は、欲しいモノは手に入れませんでしたが、別なものを手に入れました。それは、

 親の感情的注目

です。

図2

 最初は、本当に、お目当てのモノを買ってほしくて泣いたり騒いだりしたのかもしれません。しかし、そのときに「ぼくがこういう風にしたときに、お母さんは、こんなに一生懸命になってくれるんだ」と学んでしまった可能性があります。それ以降は、モノが欲しくて駄々をこねているのか、親の注目が欲しくて駄々をこねているのか、本人もよくわからなくなっているかもしれません。場合によっては、モノはどうでもよくて、親の注目が欲しくてそうした行動に出ていることもあるでしょう。
 ツヨシくんの場合も、ツヨシくんがキレるという行動をどのように獲得したかはわかりません。ただ、最初は本当に宿題が嫌で泣き叫んだのかもしれません。デザートを食べることができなくて怒ったのかもしれません。また、友達の行動が気に入らなくて箒を振り回したのかもしれません。しかし、繰り返しキレるということは、それを強化している要因があるのではないかと考えられます。
 宿題をしないと、先生が声をかけてくれる、注意したり叱ったりしてくれる、そして呆れてくれる。呆れることも感情的な注目です。箒を振り回して暴れれば、みんながはやし立てたり、怒ったりしながら取り囲んで相手にしてくれます。ツヨシくんがゴミ箱を粉々に壊したときは、彼とゴミ箱の破片を、ある子はおびえたように、ある子はにやにやしながら、また、ある子は所在なさそうな表情で見つめていました。幾度となくそうした場面はあったのだろうと思います。いつしか、ツヨシくんにとっては、そんな周囲の感情的な注目が、自分の場所を見つけるために得るモノになっていったのかもしれません。
 ツヨシくんの周囲で起こっていた、問題悪化のサイクルは、彼が「キレる」、それによって、周囲が注目するなどの「報酬が与えられる」ことによって強化されていたのでしょう。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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