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動画1 東京都葛飾区立南綾瀬小学校4、5、6年生を対象に行った公開授業での「手拍子の花束(4パート編)」
動画2 カンボジアスタディツアーで実施したカンボジア公立小学校の公開授業での「手拍子の花束(3パート編)」
※カンボジアスタディツアーは、九州大学、国立音楽大学、広島大学のメンバーで実施。
「ボディパーカッションしても子どもが楽しそうではありません!」
全国の研修会で、参加された先生方とお話しする機会があります。先生方は土日や祝日に、主に都市圏の研修会に足を運ばれるわけですから、とても熱心な先生方です。そのような先生から次のような質問をされたことがあります。
「私は、教師対象の様々な研修会や研究会に積極的に参加するようにしています。様々な教材を、『同じように試してみる』のですが、うまくいかない場合が多いです。ボディパーカッションの研修会も3回目になります。研修会のときは楽しいのですが、同じように私がすると『子どもが楽しそうではない雰囲気』が伝わってきます。何かアドバイスをいただけたらと思います」という内容でした。
子どもの実情に応じて、着地点を決め教材選択してみよう!
その先生は、実際にお会いした感じはとても真面目で、一生懸命に教材研究や子どもの対応をされている方でした。そのときに思ったのは、先生が「子どもの実情に応じて、教材選択し授業をされたら楽しくなるのでは?」ということでした。
研修会や研究会で学ぶ内容は、優れた教材が多く、「学び」の目標設定が高くなっています。優れた教材は、精査され、要点がまとめられています。また、教える先生の専門知識が深く、指導技術も高い場合が多いです。また、附属小・中学校の研究会では、当日に向けて先生や子どもたちも相当な努力をしているので、日常的な授業で使うのはハードルが高いかもしれません。私が小学校教師のときも、子どもたちの実情に応じて、同じテーマの内容でも授業の着地点をそれぞれに決めて教材を選択していました。
レベル別で見る「手拍子の花束」
それでは、「手拍子の花束」という筆者がつくったボディパーカッション作品を例に、どのような形で教材の難易度を変えるか、具体的にご紹介しましょう。
「手拍子の花束」で使う4種類のリズム
Aのリズム
Bのリズム
Cのリズム
Dのリズム
これらのリズムの組み合わ方で、教材のレベルが変わってきます。
書籍や一般の研修会で公開している「手拍子の花束」のレベルは3パターンですが、実際のワークショップや研修会のときは、幼児から高校、大学生、教師まで対応できるように、レベル1〜15まで準備しています。
ここでは、5つのレベルをご紹介します。
レベル1
AとCのリズムパターンを組み合わせます。低学年や幼児を対象に、短時間(5分〜10分程度)でリズムアンサンブルを指導するときはピッタリのレベルです。お互いのリズムが重なることで不思議な一体感があります。
A
C
レベル2
AとBのリズムパターンを組み合わせます。リズムのコール&レスポンスになり、相手のリズムが自分の休符に入ることで、お互いを補完するようなリズムアンサンブルになります。2パートは裏拍に手拍子を入れるので少し難しくなり、1パートよりリズム感覚が必要になり、音楽的なアンサンブルになります。
A
B
レベル3
A、B、Cの3種類のリズムパターンを組み合わせます。3パートを合わせたリズムアンサンブルは、心地よい響きになります。この曲は「手拍子の花たば」として、「平成24年度文部科学省編集の特別支援教育用教科書(☆☆☆☆本)」に掲載されています。小学校中学年、特別支援学校、支援学級の中学部でも十分対応できると思います。
A
B
C
レベル4
A、C、Dの3種類のリズムパターンを組み合わせます。Bのリズムパターンの代わりにDのリズムパターンが入ることで、リズムアンサンブルが少し複雑になり、全体のアンサンブルが生き生きしてきます。音数が増えるので、お互いが正確にリズムを打つことが必要になってきます。レベル3の後に実施すると、スムーズにできると思います。
A
C
D
レベル5
A〜Dのすべてのリズムパターンが入ります。すべてのリズムが入ることで、リズムアンサンブルに厚みがでます。
A
B
C
D
目の前の子どもに応じた「手拍子の花束」
冒頭の動画は、どちらも同じ「手拍子の花束」という作品を行ったときの様子です。
動画1の東京都葛飾市立南綾瀬小学校では、4年生から6年生まで全員を一斉に授業しました。このときは、4つのリズムパターンを使うレベル5で取り組みました。もしこのとき、4〜6年生ではなく6年生だけでしたら、もう少し難易度を上げたレベル6で取り組んでいたでしょう。また、4年生だけであれば、子どもたちの状況を見ながら、レベル5または4にします。このときはレベル5にして、みんなノリノリで取り組むことができました。
動画2は、カンボジアの教育支援での授業風景です。カンボジアの教育支援は、何度か行っていますが、2015年に初めて行ったときは、レベル1で取り組みました。当初はレベル3で行うつもりでしたが、リズム練習の段階で、Bのリズムが上手に打つことができなかったので、レベル1に切り替えた、という経緯があります。動画2は、その後、再度カンボジアに行った際の動画になります。このときはスタディツアーの大学生がサポートしてくれたため、前回より難易度を上げ、レベル3で取り組みました。
高級品と日用品を上手に使い分けよう!
このように、導入段階でそのときの子どもの様子(人数、学年、男女比、音楽的習熟度、子どものリズム感覚、合理的配慮が必要な状況、指導時間)を判断して、授業の着地点を決めるようにしています。
せっかく教材の「引き出し」をたくさん持っていても、入っている中身が研修会で学んだ「高級品」ばかりでは、目の前のすべての子どもたちに合うとは限りません。あるときは難易度を下げ、日用品や普及品のように使いやすくしないと、子どもたちが消化不良を起こしてしまうかもしれません。高級品ばかりを目指さないで、日用品も上手に使い分ける力が「教師の力量」ではないでしょうか?
※名称「ボディパーカッション」は、子どもたちと一緒に考えた造語です。体全体(ボディ)を打楽器(パーカッション)にして演奏するので、このように名付けました。
※SDGs活動でカンボジアの子ども達や様々な国々の子ども達に、ボディパーカッション教育を通して「質の高い教育を提供する」「人や国の不平等をなくそう」「全ての人に健康と福祉を」をテーマに活動を行っています。読者の皆さんもご興味ありましたらぜひご連絡ください。一緒に活動しませんか!
連絡先Mail: body@tebyoushi.com 山田俊之(ボディパーカッション教育振興会)
導入を成功させるポイント
- 様々なケースを想定しながらスモールステップアップで授業設計をしてみましょう。
- 授業が終わった後に、子どもたちが「もう少しやってみたい!」「楽しかった」「次はどんな授業かな?」と思うことを目標基準にしてみましょう。
- 全国で出会った子どもたちの学校で「10分でできた」ことが、別の学校では「ほとんどできず」、急遽、別の教材に切り替えたことがあります。目の前にいる子どもたちに教材を合わせる力が必要です。
- 導入で着地点を判断して楽しい授業をめざしましょう。