著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
社会科を思考教科にする絶好のチャンス到来
滋賀大学教育学部特任教授原田 智仁
2018/7/5 掲載
  • 著者インタビュー
  • 学習指導要領・教育課程
 今回は原田智仁先生に、新刊『中学校 新学習指導要領 社会の授業づくり』について伺いました。

原田 智仁はらだ ともひと

1952年生まれ。滋賀大学教育学部特任教授。博士(教育学)。広島大学大学院を修了後,愛知県の公立高校の教員を経て1990年から2017年まで兵庫教育大学に勤務。その間、文科省の教科調査官を併任し、1999年版高校世界史の改訂に当たる。今回の教育課程改訂にも中教審の委員として参加。2018年4月より現職。
主著に、『授業をもっと面白くする!中学校歴史の雑談ネタ40』(明治図書)など。

―本書は、『中学校 新学習指導要領の授業づくり』シリーズの社会編として、これからの中学校社会科授業づくりの指針とも言える内容をおまとめいただいていますが、まず本書のねらいと読み方について教えてください。

 私は、社会科を思考教科にするためには「探究としての学習」が不可欠だと考えていますが、それが今回の改訂の趣旨にも即していることを、理論と授業の両面で明らかにしました。第1章で新学習指導要領の基本的特質、第2章で「探究としての社会科」の原理、第3章で「見方・考え方」の捉え方を論じ、第4章〜第6章で地理・歴史・公民の授業づくりの方法を事例とともに示しています。

―平成29年版学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」などのキーワードも示されていますが、「社会に参画する担い手としての資質・能力」を育てるという意味で、社会科の役割はとても重要になってくると思います。どのような取り組みが大切でしょうか。

 現実の社会参画で重要なのは、地域社会、日本、人類の直面する課題について関心をもって議論に参加し、自分と異なる意見にも耳を傾け、最後は公正な合意形成を図ることだと思います。それゆえ社会科においても、授業に主体的に参加し、友人や教師と対話的に学びながら、問題解決に取り組む経験がとても大切だと言えるでしょう。

―今回の改訂のキーワードとして挙げられるものの一つに「見方・考え方」があります。本書の第3章でも「見方・考え方を生かした社会科授業づくり」として大きく取り上げられていますが、「見方・考え方」についてどのように捉え、授業に落とし込んでいけばよいでしょうか。

 「見方・考え方」を「視点と方法」とする新学習指導要領の捉え方は、理念的にはともかく実践的にはわかりにくい。その点で、見方を事実認識、考え方を関係認識と捉える従前の「地理的な見方・考え方」はわかりやすいだけでなく、授業改善にも資すると考え、それを歴史や現代社会の見方・考え方に応用する方法を示しました。

―地理・歴史・公民の各分野で、新教材や重点事項など多くの改訂が加えられていますが、先生が注目されるポイントについて教えてください。

 今回の改訂で重要なのは内容や教材ではなく、生徒の主体的・対話的で深い学びを促す授業のために、いかにして教師がカリキュラム・マネジメントをするかにあると思います。文科省は「内容は減らさない」と言っていますが、そんなことは不可能です。内容の精選を学力低下と批判されない授業づくりが最大のポイントです。

―現場の先生方の関心が高いものとして、「評価」があります。今回の改訂を受けて、これからどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。

 評価は難しく神経を使います。どうせ思考・表現や学習態度の客観的な評価などできないのですから、評価手法の多元化を図るしかありません。評価規準もあまり厳密なものではなく、単元毎のざっくりしたものでよいでしょう。定期考査以外に様々なパフォーマンス課題を課したり、ワークシートを活用したりすることで、生徒の学習を多面的に評価したいものです。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 皆さんは、おそらく私と同じく社会科が好きで、この道に進んだのだろうと思います。はっきり言って、社会科の現状は「限界教科」です。ぜひ、皆さんの日々の授業改善によって、社会科の再生を図ってください。資質・能力の明確化や教科固有の学びが求められる今こそ、絶好の(最後の?)チャンスではないでしょうか。

(構成:及川)

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