- 著者インタビュー
- 学級経営
学級づくりに関する書籍は、1980年代から増加し、今は優れた学級づくりの方法論が世に出されています。しかし、一方で、それらを支える考え方が充実しているかというと、そうとは言えない状況です。方法・道具の力を引き出すのは考え方です。たくさんの優れた方法があるにもかかわらず、解決しない問題があるのは、その問題が技術的な問題ではないことを示しています。本書は、敢えてそうした技術論とは一線を画し、学級経営の考え方を中心に示しました。本書で示す考え方は、みなさんがもっている技術を有効に働かせてくれるはずです。
「静かな学級崩壊」の理由を一つに決めるのはとても複雑です。仮にその理由を「意欲の低下」とするならば、学級環境はそれと大きく関わっていると思います。近年、人は、心理的安全性が保障されたときに意欲的になると言われるようになりました。「静かな学級崩壊」をしているクラスは、心理的安全性が損なわれている可能性があります。教室内に、ルールや信頼関係を築き、安心して話したり行動したりできる環境をつくることが大事です。
コミュニケーションというと、すぐに「対話」や「言語活動」といったワードが思い浮かびます。間違っていないと思いますが、それらの教育活動の前提に「おしゃべり」をしているのかが問われます。何もないところに人と人との信頼は生まれません。まずは、楽しくおしゃべりができるかどうかが、スタートです。
詳しくは本書をお読みいただきたいと思いますが、効果的な教育活動をしている教師は、教科指導が学級経営になっているということです。競争原理で授業をつくる人と協同原理で授業をつくる人では、根本的な考え方が違うので育つ子どもの姿が異なります。前者は、クラスメートを競争相手と認識し、後者は協同のパートナーとして認識することでしょう。取り組みの前に、自分の願いを確かめることから始めてはいかがでしょうか。
それも教師の考え方と関わっていて、いじめにつながると考えられる小さな人権問題(いじめの芽)を、単なる問題行動とするか貴重な教育の機会とするかという教師の考え方によります。子どもたちの道徳的実践力は、クラスの雰囲気に影響されるといいます。「いじめに強いクラス」を育てるには、いじめを許容しないクラスの雰囲気をつくりながら、小さな人権問題を見逃さず「クラス全員」に考えさせる機会をもつのがよいでしょう。
学級経営の改善は、もっとも現実的な「働き方改革」です。楽しくやりがいがあったら、多少勤務時間が延びようが「ブラックだ」とは思わないはずです。学級がうまくいっていったら、子どもたちとの感情的な問題や生徒指導、保護者対応に費やす時間が減ります。学級経営のようなネットワークの中から生まれる課題は、特効薬がありません。いくら方法論を投入しても解決しないのです。それよりも、基本的な考え方を知り、それをみなさんが置かれた状況の中で活用、応用をした方がずっと効率的だと思いませんか。本書は、みなさんの学級経営の指針となることを願って書きました。一読していただけたらありがたいです。