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先月2日、文部科学省は、経済産業省と共同で開催した「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」における議論を「理工系人材育成に関する産学官行動計画」としてまとめ、発表しました。
今回のまとめでは、大学と企業間での人材育成のみではなく、初等中等教育における産学連携についても「理工系人材の裾野拡大、初等中等教育の充実」として、大きく扱われています。
理科への意識が低い現状
教育現場において理科離れはいまだ深刻な問題で、平成27年度に実施された学力テストにおける理科の調査(PDF)では、中学生のうち「教科の勉強が好き」が61.9%、「教科の勉強がわかる」が66.9%と、中学生の理科への意識が依然として低いことがわかりました。中でも、「教科の勉強は役に立つ」という回答は73.4%と他教科と比べても著しく低く、小学校における調査でも同様に国語や算数と比べて15%以上低い結果となりました。この数字から、生徒たちが「理科と実生活に関連性を感じていない」というだけでなく、「理工系の職業への関心が薄い」ということが示唆されます。
今回のまとめでも、現在の理科教育の課題について次のように述べられています。
@学校の授業や設備などでは必ずしも魅力を感じさせるのに十分でない。
A理科の得意な小学校教員や実験の際の人員、教員の最新知識が不足して
いる。
Bより多くの子供や女性に理工系の職業や進路への興味・関心を持っても
らうためキャリアパスを見える化する必要がある。
では、これらの課題を克服するためにこれから産学連携事業がどのように教育に関わっていくのか、その指針を見てみましょう。
「産学連携」の理科教育
今回のまとめでは,中長期的な目標だけでなく、2・3年以内の短期的な目標も示されました。具体的には、大学や教育委員会等が連携して科目を指導する教員を対象とした研修講座を実施することや、理科実験教室や出前授業や教材開発等の推進、生徒一人一人が実験装置を操作できるよう理科教育施設・設備等の環境整備を図ることなどが示されました。
また、これまでは大学や地域の科学館、博物館等が理科授業や出前授業などを行い、地域の理科教育に貢献してきましたが、各者各様に取り組みを行っていたため、ノウハウの蓄積や取り組み内容の共有ができていないという課題がありました。今回のまとめでは、大学や企業等が個別に取り組んでいる理科実験教室や出前授業等の活動ノウハウを蓄積し、その取り組みを各団体に共有して連携を強めていくことなど、産学連携の仕組みづくりに関することまで言及されました。自然科学を扱う理科授業や出前授業は、地域によっても内容が異なり、またそれを行う企業や大学の特性によっても内容は大きく変わってきます。それらをどのように取りまとめ、効果的に共有していくのか。政府の今後の仕組みづくりに注目です。
進路指導に関する方針についても示されています。理工系分野の職業への興味関心を持たせ、将来展望をイメージさせるべく、2・3年の短期的なアクションプランとして、産業界の学校教育への参画推奨や、従業員がこれらの取り組みに親子で参加することを推奨することが提示されました。また、女性の理工系人材育成に注力することが掲げられており、「ロールモデルを示すことを通じて、分かりやすく将来展望をイメージさせることが重要」とし、産学が連携して、女性の研究者や技術者、教員等の身近なロールモデルとなる人物と生徒が交流する機会を積極的に設けていくことが示されました。
今回のまとめでは、「身近なモデル」を意識させる取り組みが重要視されています。一方で、理工系の人材を育成するにあたり、とくに理工系の職業に興味関心を向ける場合には、「身近なモデル」が活き活きと仕事をしていることが重要になってくるのではないでしょうか。「リケジョ」という言葉が流行したように、理工系の職業への興味関心は一般的には高まっているように感じられますが、論文の改ざんや研究の不正のニュースが相次ぐなど、研究職に対するマイナスイメージが高まっていることも事実です。理工系の人材を育成するにあたっては、実際に働いている方々と生徒との接点を増やすだけではなく、理工系労働者の労働環境等の見直しなど、全体的な改善を行っていく必要があるのではないでしょうか。
今後の展望
先日、中央教育審議会は、次期指導要領改訂審議のまとめ(案)を提示しましたが、その中には「社会との連携・協働を通じた学習指導要領等の実施」という項目が含まれていました。「社会に開かれた教育課程」の理念を実行するにあたっては、地域の企業や大学、施設と教育機関が今まで以上に積極的かつ綿密に連携していく必要があります。また、理科への興味を引き出すために、専門的な知識を有した研究者や技術者の体験的な授業は有効ではありますが、単発でそういった取り組みが行われても、一時の楽しい経験となってしまい、「理科嫌い」を克服する根本的な解決方法にはならない危険性があります。継続的に産学連携の取り組みを行っていくにはどのような仕組みが必要か、まだまだ検討していく必要がありそうです。
理科は、実験観察などを通して体験的に学習できる教科ですが、今まで実験設備やそれを指導する教員のスキルが不十分という課題がありました。今回のまとめでは、実験設備の充実や産学連携を通した教員のスキルアップという方向性が示されましたが、「どのような実験装置をどの程度整備するのか」「継続的に教員のスキルアップを行うためにはどのような取り組みが必要であるか」など、課題の解決に向けた具体的な取り組みは不透明なままです。
課題が山積する理科教育ですが、今回の「理工系人材育成に関する産学官行動計画」が今後の産学連携の取り組みにどのように反映され、学校および地域での理科教育が、理科を学習する多くの生徒たちにとって、「楽しい」「理解できる」「役に立つ」と思えるようなものに変容していけるのかどうか、期待しつつ注目していきたいと思います。
- 理工系人材育成に関する産学官行動計画(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/08/02/1375040_01.pdf
- 平成27年度 全国学力・学習状況調査の結果について(概要)(国立教育政策研究所)
https://www.nier.go.jp/15chousakekkahoukoku/summary.pdf
- 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ(案)(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/29/1376580_2_1_1.pdf