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シンキングツールを使って考えることをサポートする
関西大学総合情報学部教授黒上 晴夫
2014/8/1 掲載

1 考えることをサポートする

 シンキングツール(思考ツール)への関心が高まっている。これは、子どもがアイデアを出して考えをまとめるのをサポートするツールである。囲みと矢印によって考えの流れを表したり、紙面にいくつかの領域をつくることで、考えを書き分けたりする。
 子どもが考えるときには、4つのフェーズがある。まず、どのように頭をはたらかせることが求められているかのイメージをもたなければならない。次に、そのイメージに沿って情報を書きだしていく。次にそれらの情報の中から、必要なものを選んで組み立てて、自分の考えを作り出す。そして最後にそれを言葉や文で表現する。シンキングツールは、主にこの前者2つのフェーズををサポートする。

2 シンキングツールの使い所

 1つめのイメージは、思考に関わる動詞である。比較する、関連づけるなどがそれにあたる。比較するというのは、共通点と相違点を見つけること。関連づけるというのは、複数の対象の間にある順序、因果、共通点などさまざまなつながりを見つけること。このような動詞は普段何気なく使っているが、意識して手順としてとらえなおすことで、どのように頭をはたらかせればよいのかイメージしやすくなる。比較するときには、@形や色や大きさなどの視点を次々に変えながら、Aどこが同じか、違う場合はどう違っているかをリストアップしていく。
 このとき、対象が目の前にあるならそこで気づいたことを書き出せばよい。しかし、歴史的事項など、目の前に対象がない場合がある。その時は、頭の中に在る知識をもとにしたり、教科書や資料集などの情報をもとにする。グループで学習しているときには、自分は知らなくても他のメンバーが知っていることもある。そういうときは、みんなの知識を寄せ合って情報を出し合う。ここで書き出すのは、まだ考えにはなっていない考えるためのネタ、情報である。
 このとき、ツールは情報をどこに書けば良いか示している。ベン図なら、共通点を円が交わったところに書く。交わっていない領域には、相違点を書く。Yチャートなら、3つの領域に指定された視点に対応する情報を書く。分けて書くことで、それらを組み立てやすくなるからである。

図

3 考えを組み立てる

 アイデアを書き出しただけでは、考えたことにならない。シンキングツールはワークシートとはちがって、空欄を埋めて情報を完成させるためのものではない。ツールに書かれた情報を参考に、考えを組み立てなければならない。ツールをもとに主張をまとめて発表したり、意見を文章化したりする機会をつくると同時に、どのようにすればそれができるかを示すことも検討したい。
 その方法の一つが、組み立て方のモデルを示すことである。例えば、ベン図に書きだした共通点と相違点については、「○○と△△の共通点は…です。違う所は…です。○○は…で、△△は…です」というような話型を示すことで、書かれた情報を使って文章を作りやすくなる。大事だと思うことを選んで、そのことについて書くというようなモデルも考えられる。「○○と△△を比較して大事だと思ったのは…が同じ/違っていることです」というような話型である。
 もう一つの方法が、何ができていれば良いかという規準を示すことである。例えば、Yチャートを使って3つの観点から感想を書きだしていたとする。その時、まとめ方の規準として「複数の感想をつなげて書く」というような示し方がある。また、「なぜそのような感想をもったかに触れながら書く」というような示し方もある。この2つでは、同じYチャートをもとにしても、求めていることが違っている。
 このように組み立て方は一様ではなく、学習の文脈や対象、教師の教材観などによってさまざまに変わり得る。もちろんツールによってもちがう。ツールを使うだけでは、アイデアが紙の上にばらまかれているだけである。そのアイデアを部品として操作して、移動、選択、組み合わせ、抽象化などさまざまな加工を加えて組み立てていく。それがやりやすいように、ばらまき方を示すのがツールである。そして、組み立て方を示すのが、教師である。

※シンキングツールについては以下のURLを参照のこと。

http://ks-lab.net/haruo/thinking_tool

黒上 晴夫くろかみ はるお

関西大学総合情報学部教授。
大阪大学技官および助手、金沢大学助教授を経て現職。
専門領域:教育工学
関連リンク:http://ks-lab.net/haruo
研究領域:カリキュラム、教育評価、ICT活用
著作:
『思考ツールの授業』、2013、小学館
『シンキングツール〜考えることを教えたい〜』、2012、NPO法人学習創造フォーラム

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