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1 11月の荒れはなぜ起きるのか?
学級集団の組織力は、【縦=教師と子どもの関係】×【横=子どもの人間関係】×【高さ=問題解決力】でイメージされる。この立体の体積の大きさが学級の組織力となる。
2学期が始まると、教師は問題解決力(高さ)を子どもに求める場面が多くなる。例えば、運動会や学習発表会などの行事。しかし、そこで求められるのは、子どもたちの協働的な活動ではなく、教師の提示したものをいかに全員が同じ動きでそろえるかである。例えば、運動会における表現運動の振り付け、学習発表会での音読や合奏などである。子どもたちは、これらに合わせられないと、教師からの注意を受けたり、他の子どもから非難を受けたりする。こうやって、「みんなと同じことができないとダメだ」という同調圧力がかかるのだ。この同調圧力は、全体の動きについていける子どもにはさほど感じないストレスを、できない子どもには多大に与えることになる。
また、これらの行事が終わると、教師は遅れた学習進度を気にして、詰込み授業を行う。時間的余裕のない授業では、短時間で全員が習得できることが求められる。協働的学習よりも、教師からの一方的な知識教授やドリル型の反復練習が授業の中で行われる。すると当然、ここでも同調圧力がかかる。できない子は、全体の進度を邪魔する存在となる。
これまで述べてきたように、同調圧力によるストレスが溜まっていくのが9〜10月である。
こうなると、そのストレスに耐えられない子どもが次々と出てくる。それは、授業中のざわつきや立ち歩き、人間関係のトラブル、係や当番活動の停滞といった行動に表れる。学級経営がうまくいっていないと判断した教師は、学級の仲間意識を今まで以上に強めたり、全体の規範意識を高めたりしようとする。ところが、ここでも同調圧力が働くのである。すでに、誰が全体についていけてないかは明白である。すると、全体についていけない子どもに非難の目が注がれる。「あの子さえいなければいいのに」という感情が芽生え、集団についてこられない子どもを排除しようとする。この排除の最たるものが「いじめ」である。(ただし、いじめが起こる構図はこれに限ったことではない。)
こうして、集団の安定した人間関係を示す底面の面積はどんどん狭くなる。そこへ、教師はさらなる教育活動の積み上げをねらう。当然、立体の安定感はなくなり、いつかは傾いたり倒れたりする。子どもの関係が悪くなり、居場所がなくなった子どもはどんどん問題行動を起こすようになる。この対処にやっきなる教師は全体が見られなくなる。その問題行動に対処できない教師に対する周囲の子どもの不満が溜まる。教師と子どもの人間関係も、子ども同士の人間関係も崩れていく。こうなると、統率した集団とは程遠い様相を呈することになる。
これが「11月の荒れ」と呼ばれる構図である。
2 「11月の荒れ」を防ぐ5つのアイデア
(1)出しゃばらない関わり方をする
教師は、あれもこれも自分が指示を出して学級の問題を解決するといった管理的なリーダーシップを控え、子どもに任せる委任的な関わりを増やす。ただし、放任になってはいけない。子どもの様子を観察し、必要なときにだけ、問題を解決する情報や示唆やアドバイスや指示を出す。そうしたら、子どもから少し離れた位置で、子どもの様子を観ておく。そして、また、必要なときだけ出ていく。こういった出しゃばらない関わり方を心がけ、子どもたちが自らの力で問題解決できる場面を増やしていく。
(2)ゼロスタートカードで勇気づける
全体を眺め、集団についていけてない子どもにだけ声をかける。集団についていけてない子どもとは、みんなができていることができていない子どもである。そういった子は、自分だけがみんなに取り残されたように感じて苦しいものである。まずは、教師がその子のあり様をそのまま受け入れてやり、現時点をゼロとして再スタートすればよいことを話してやる。そして、「ゼロスタートカード」にこれからやっていきたいことをメモさせ、少しでも進歩が見られたら、そのカードに褒め言葉を書いて渡してやる。こういったカードを使って、勇気づけをしてやる。
(3)リーダーを励まし活躍させる
教師が何に対しても指示を出すと、その分だけ子どもが感じる圧力が強くなる。そこで、グループや班の中にリーダーをつくり、教師が指示したいことはリーダーから伝えてもらうようにする。同じことを伝えるにしても、子ども同士の方が柔かい。そして、指示したことができたらリーダーを呼んで褒める。こうすることで、リーダーの子に自己有用感が芽生え、それが主体性へとつながっていく。そうすれば、次回からは、リーダーがどんどん働いてくれるようになる。しかし、ときには、全体に指示が通らず、リーダーが落ち込むこともあるかもしれない。そういったときは、リーダーに寄り添って励ましの言葉をかけてやる。なお、リーダー役は短期間でローテーションし、いろいろな子どもがその立場を味わえるようにする。こうすることで、リーダーの重要性や大変さに気づき、次回からはみんながリーダーに協力するようになる。
(4)短冊でルールの再確認をする
ルールを守ることは、安定した集団づくりの基盤である。集団の実態を把握し、守られていないルールは再度全員で確認する。しかし、全部を確認し徹底することは、過剰な規範意識が働くことになる。そこで、どうしても守らせたいものを3つか4つ選んで、それを短冊に書いて掲示しておく。そして、そのルールが守られるようになれば剥がすようにする。こうすることで、子どもたちは、自分たちの学級がよくなっている気持ちを味わうことができ、集団への安心感を持つようになる。
(5)失敗や間違いを許す
失敗や間違いを非難する風潮ができると、失敗や間違いをした者を排除する動きが出てくる。逆に、失敗や間違いをみんなで許し合うことができれば、集団は居心地のよいものとなり、再度挑戦する意欲がわいてくる。そんな雰囲気を学級につくるために、教師は失敗や間違いを全体の前で注意したり叱責したりしないほうがよい。どうしてもその必要があれば、場所を変えて個別に行うようにする。
また、子どもの間違いを生かすことも考える。間違いを取り上げ、なぜそのように考えたかが明らかになれば、より深い理解に導くことができる。それができた暁には、間違った子どもに、「君の間違いがみんなの勉強になったよ。ありがとう」と声をかける。こうやって、失敗から学ぶことを体験させていくのだ。
以上のようなことを行って、失敗や間違いに柔和な態度をとる雰囲気をつくるのである。間違っても、何か罰を与えて失敗や間違いを正そうとしてはいけない。
以上の手立てについては、拙著『荒れはじめに必ず効く!学級立て直しガイド』(明治図書)に詳しく掲載している。また、荒れ始めのチェックリストもあり、実態に応じた手立てがすぐ分かるようになっている。是非、参考にしていただきたい。