教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
Withコロナでも安心してできる!体育の運動・ゲームアイデア
コーディスポーツ大塚 修平
2020/10/1 掲載

Withコロナの体育授業


 筆者による簡易的なアンケート調査(回答期間8/6〜8/14、回答者1都1道1府10県、総回答者数109名)によると、体育の授業における新型コロナウイルスの感染防止策について、ばらつきが見られました。たとえば、「共用の器具(マット、跳び箱、鉄棒など)の使用禁止」は約34.9%、「共用の手具(ボール、バトン、フラフープなど)の使用禁止」は約25.7%にとどまりました。地域によって感染拡大の状況が異なるという背景がある一方で、「三密の禁止」は86.2%、「人と人の接触禁止」は68.6%、「ソーシャルディスタンスの確保の義務化」は67.9%と半数以上が回答しており、いずれかに回答した割合は93.6%に上ります。どの地域で子どもたちを指導しても、この3点は守りたい感染防止策と考えらます。

 しかし、そのような制限がある中でも、学校では、教育の一定水準を保障するため、計画的に学習を進めなければなりません。体育の授業においては感染対策をしつつ、愉しく、安心して運動に取り組み、その結果として体力の向上につなげることが求められています。

 私は、体育の授業の「愉しい」とは、@豊富な運動量をもつ、Aできないことができるようになる、の2点があると考えています。Withコロナの中でも、豊富な運動量をもち、できないことができるようになる体育の授業が求められています。そのためには、ゲームなどのネタに頼る体育の授業よりも、人間としての根源である「動く愉しさ」に着目し、動き(動作)の量と質を高めていく授業を構成することを提案します。

 私は年少(3歳児)から小学6年生(12歳児)までの年代の子どもたちに対して運動指導をしています。身体発達の面で各年代の課題と直に触れることができます。例を挙げてみましょう。

 3、4歳児の中には、ボールを直上に投げても目でボールを追うことができない子がいます。ボールが地面に落ちてからボールに気付き、拾いに行きます。これは目と手の感覚統合ができておらず「ボールを投げる」という動作と「ボールを目で追う」という2つの動作が同時にできていないことを表します。

 低学年の小学生は野球をしている時、ボールを目で追いながら次の塁に進むか戻るかの判断が難しい傾向にあります。野球型のスポーツの経験の有無はもちろんですが、「ボールを見ながら」「走り」「進むか戻るか判断する」という3つの動作が同時にできていなことを表します。

 もちろん、すべての子どもが上記のような課題を抱えている訳ではありませんが、ぜひ、体育の授業で「感覚統合」の視点をもって、授業を実践してみてはいかがでしょう

 感覚を統合させることにおいて、大切な考え方は3つです。

1 身体の発達の順序を理解すること
 人間の身体は@中心から末端、A頭部から下部という発達の順序があります。
 @は腕を例にすると、まず肩関節がスムーズに動くようになります。次に肘の関節、手首の関節、指先の感覚と順を追って発達していきます。短縄を初めて回す子は、肩関節を大きく回して縄を回します。運動経験が増えると肘の関節で回せるようになり、次に手首をスムーズに使って効率的に回すようになります。Aはまず腕が器用に使えるようになり、その後足が器用に使えるようになるという順序ですね。

2 運動技能の上達過程を理解すること
 運動技能は@試行錯誤の段階、A意図的な調整の段階、B自動化の段階というステップを踏んで上達します。@はできたりできなかったりする段階。Aは意識的にコントロールするとできるようになる段階、Bは特別な意識をしなくても(無意識でも)できるようになる段階です。

3 スモールステップを踏んだ指導をすること
 スモールステップとは、目標を細分化し、小さな目標を達成する体験をしながら、最終目標に近付けていくことです。特に体育の授業においては「easy to difficult(簡単なことから難しいことへ)」という視点が大切です。まずはクラスの誰もができることを課題として設定しましょう。人間の脳は、動くことでやる気が出る仕組みになっています。まずは動く量を確保することで、意欲も高めることができます。

 以上3点を踏まえた上で、おすすめする運動メニューは「マリオネット」です。easy to difficultの考え方でジャンプ運動に少しずつ条件を加え、運動技能を向上させ、感覚統合を目指していきます。

Withコロナでも安心してできる運動アイデア


運動アイデア1 腕も脚もグーパー (目安の学年:小学校1年生以上)

画像1

 腕にも脚にも「開く」「閉じる」という同じ命令を送るので、最も簡単なジャンプ運動です。ジャンプ運動はその場で、他者との接触なくできる運動です。さらに運動量も豊富ですので、Withコロナの体育であっても実践できます。

運動アイデア2 腕グーパー脚パーグー (目安の学年:小学校1年生以上)

画像2

 腕と脚に「開く→閉じる」、「閉じる→開く」といった別々の命令を送ります。まずはゆっくりとした速度で1回ずつ確認しながら行うことで習得できます。

運動アイデア3 3拍子でのジャンプ (目安の学年:小学校1年生以上)
 

画像3

 
 腕は「上、横、下」、脚は「グー、グー、パー」と腕も脚も3拍子でのジャンプです。腕と脚のどちらかを自動化の段階まで進めてから、他方を混ぜることでスムーズにできるようになります。2つのことを同時に考えながら身体を動かすことは難しいので、腕は自動化の段階、脚は試行錯誤の段階と、段階を調整することをおすすめします。

運動アイデア4 腕3拍子脚2拍子 (目安の学年:小学校3年生以上)

画像4

 腕は「上、横、下」と3拍子、脚は「グー、パー」と2拍子でのジャンプです。ポイントは、脚は簡単な2拍子にしている点です。身体の発達の順序の考え方によると、脚の発達は後。ですので、脚は簡単な2拍子のジャンプを取り入れています。発展として、腕を2拍子、脚を3拍子に入れ替えてやってみてもよいかもしれません。

運動アイデア5 パンチ (目安の学年:小学校3年生以上)

画像5

 一転して、腕も脚も2拍子での動きです。しかし、今回は右腕と左腕で別々の動きをしています。つまり右腕、左腕、脚と、3カ所に脳から命令を送る必要があります。ここまでで脚のグーパージャンプは自動化の段階に進んでいると思いますので、腕の動かし方を考えて行いましょう。
  
 なお、上記の1から5までのジャンプをそれぞれ4周するだけで104回ジャンプしていることになります。ただ104回ジャンプするよりも、課題を細かく設定し、多種目行うことで「気付いたら豊富な運動量を確保できた」状態をつくり出すことができます。さらに感覚統合が進んで「できないことができるようになっていた」ことになります。まさに体育の授業の「愉しい」につながります。

 とはいっても、やはり「ゲーム性」が子どもたちに愉しさを与えることは間違いありません。鬼ごっこやバスケットボールなどは密集が心配されており、体育の授業で実施制限があることも事実。そこで、最後に、密集を避けたゲームを紹介致します。

Withコロナでも安心してできるゲームアイデア


ゲーム1 マリオネットリレー (目安の学年:小学校1年生以上)

【ルール】
 5人1チームとし、10m程度先にあるコーンを回ってくるリレー形式のゲーム。ただし10m先の地点で先に紹介した5つのマリオネットのうちの1つを10回ジャンプしてくること。10回ジャンプしたら戻ってきて次の子がスタート。1人1つのマリオネットを行い、5人で5種目すべて行う。10回正しくジャンプできなかったら再度10回ジャンプを行う。最終ランナーが戻ってきたチームが勝利。

ゲーム2 文字当てゲーム (目安の学年:小学校3年生以上)

画像6

【ルール】
 グリッド内外で分かれる。中の子は背中に単語を書いたガムテープを貼る。外の子は制限時間内に何が書かれているかを当てたら勝ち。制限時間内に当てられなければ中の子の勝ち。まずは1対1から始め、外の子が中の子の背中に書かれてある単語を当てたら別のグリッドに行って別のグリッドの外の子を助けることができる。2対2で行ったり、チーム対チームで行ったりするなど、条件を変えることで、十分な運動量を確保することができる。

 
 2020年から「体育の日」が「スポーツの日」に変わりました。スポーツの語源はラテン語の「deportare」(デポルターレ、運ぶ、運搬する)と言われています。精神的な移動、日々の生活から離れると転じ、日々の生活から離れた遊びや愉しみ、休養を指すようになったと言われています。学校体育の目標も、愉しく動くこと。Withコロナの時代であっても子どもたちの愉しさを追求することで、自然と体力が向上していることが理想です。ぜひ感覚統合の視点を持ち、「動く愉しさ」という人間の根源に目を向けた体育を実践していただくことを切に願います。
 

大塚 修平おおつか しゅうへい

コーディスポーツ
主任指導員、マーケティングディレクター
指導歴:10年
競技歴:水泳10年、野球6年、ストリートダンス4年
資格:中高保健体育教員免許、小学校教員免許、障害者スポーツ指導員
夢は感動を育む学校を創ること。順天堂大学で体育・健康・スポーツについて学び、卒業後は小・中学校に3年間勤務。子どもの頃はスポーツが好きではなかったが、友達に野球チームへの入団を勧められたことがきっかけで仲間と協力する素晴らしさや、できないことができるようになった時の嬉しさを実感する。指導者となった今、この“感動”をより多くの子どもたちにも体験してほしい。そしてよりよい人生を歩んでほしい。コーディスポーツ代表・寺尾大地の一人ひとりに合わせた指導という理念に賛同し、入社。日々子どもたちと共に成長中。

コメントの受付は終了しました。