子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(19)
保護者の信頼を獲得できる「サンドイッチ方式」の個人面談
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2020/12/10 掲載

事例保護者の心に届くのは?3パターンの個人面談

■その1 指摘するばかりの教師

先生「実はですねぇ、少しお伝えしづらいのですが、たくさんの課題があります
保護者「はい」
先生「まず提出物ですね。今学期中、Aくんは期日内に提出したことがないんですよね」
保護者「はい。すみません」
先生「まずは提出物だけはしっかりと持たせてください。学年だより、学級通信をお読みいただいて、ご確認ください。はい、そして2つめですね。友達関係のことなのですが、毎回休み時間になると…」
保護者「はぁ。そうですか」
先生「時間がありませんので最後に1つだけお話しさせてください。授業中、席に着くようにはなったのですが…」
保護者「はぁ。すみません」


■その2 ほめる・受け止めるばかりの教師

先生「Aくん、がんばってますよ〜。1学期と比べて漢字の学習、計算の学習に取り組むようになりました」
保護者「そうですか。ありがとうございます。ただ、先生、提出物はどうですか? あの子、紙をくしゃくしゃにして入れてきたり、持って帰ってきてくれなかったりするので、なかなか確認できなくて」
先生「えぇ、そうですね、私も声をかけているんですけどね。本人も気を付けるように努力してますので。でも、まだ2年生ですからね。なかなか身の回りのものをきちっとするのは難しいところはありますよ」
保護者「そうですかぁ」


■その3 ほめて・受け止めて・指摘して・最後にまたほめる教師

先生「うれしいですよね。ちゃんと授業中、座って学習していますから」
保護者「えぇ。まだまだ課題ばかりですけど」
先生「いえいえ、授業中に座って学習に取り組めるようになったのは、本当にすごいことです。この間も自分から漢字ドリルを出して書取りしていましたよ。1学期と比べたらすごい成長ですよね」
保護者「えぇまぁ、すみません。ありがとうございます」
先生「このままいい状態が続くよう、引き続き声をかけていきますのでご安心ください。それでですね、Aくんとっても頑張っているんですけど、1点だけお伝えしたいことがありましてですね」
保護者「はい」
先生「学習はすごくよくなったんですけど、提出物がですね、なかなか期日までに出せていないときがありまして」
保護者「本当にすみません」
先生「いえいえ。本当に彼なりに頑張っているのでそこは認めていきたいのですが、私もプリント類については一緒に紙を折りたたんだり、注意して声かけしたりしていきますので、ぜひそこでもご一緒に協力できたらなと思っています」
保護者「ありがとうございます。本当にご迷惑をおかけしてすみません」
先生「いいえ、どういたしまして。でも、本当にAくんにはいい変化が起きており、うれしいですよね。小さな成功をどんどん積み上げていってますから、お家でもほめてあげてくださいね」

解説

事例1「指摘するばかりの教師」の問題点

 先生の指摘が多いですよね。
 これでは保護者は落ち込んでしまうか、お子さんに対して怒りが増してしまうか、先生に対する信頼感が下がってしまうでしょう。
 「たいへんなときに助けてくれるかどうか」が信頼されるかどうかの基準です。
 一方的に指摘ばかりしてくる先生には、心は開けません。

事例2「ほめるばかりの教師」の問題点

 反対に事例2の先生は指摘していません。
 一見保護者にとっては心地よいように見えるかもしれません。
 しかし、保護者も実は事実をきちんと指摘してほしいと願っています。これは私が日本で教師をしていた時代に、保護者の皆さんと食事をしていたときに出た本音なので確かです。
 また、先生としても、本当は指摘したいことがあるのに、我慢している状態です。我慢している状態では心から相手の言うことに耳を傾けることはできません。
 何よりも、提出物の問題は何も解決されないままです。

事例3「ほめる+指摘+ほめる」のサンドイッチ方式で伝える

 事例1、2と事例3の違いです。
 指摘するだけでもなく、ほめるだけでもなく、相手の心にスッと届く方法が事例3にあります。
 どうしても、指摘したいことがあったら、

よいこと+指摘したいこと+よいこと

というように、よいこととよいことの間にはさむサンドイッチ状態にして伝えます。
 そうすると、いったんほめられて心が開いている状態なのでスッと届きます。しかも、最後にまたほめられるので、先生に対する信頼が高まり余計に心に残ります。

挿絵1

「応援しているよ」というメッセージ

 実は事例3の会話の端々に保護者が安心できる「応援しているよ」メッセージがちりばめられています。

「うれしいですよねえ」
「ご安心ください」
「引き続き声をかけていきます」
「一緒に」
「協力」

などの言葉がそれです。
 「一人ではありませんよ。学校では私がしっかり見ていますからね。安心してくださいね」という思いが伝わっていくはずです。

口調(言い方)も大切

 事例1と3を比べれば明らかですね。
 3は人間味が感じられます。
 1は厳しく冷たい感じがしますね。1は正しいことを言っているのですが、保護者の心に届きません。なぜかというと、相手を安心させる言葉かけをしていないからです。
 まずはほめたり、受け止めたりして安心してもらうことが先決です。そのあと、サンドイッチで指摘したいことを届けるのです。

ここがポイント!

  • 「よいこと+指摘したいこと+よいこと」のサンドイッチで保護者の心にスッと届く!今月の「言葉のワザ」
  • 応援しているというメッセージを前後にちりばめて心を開いてもらう!
  • 相手の心に届くよう口調や言い方は温かく!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、2019年7月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学校顧問(教育コンサルタント、学長補佐)に就任。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として3冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』『熱中授業をつくる!打率10割の型とシカケ―そのまま追試できる「大造じいさんとガン」』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

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