- はじめに
- 第1章 ペア・グループ学習を機能させる対話型授業とは
- 1 主体的・対話的で深い学びだから,ペア・グループ学習?
- 2 ペア・グループ学習がうまく機能しないのはなぜ?
- 3 「カラオケ学習」を克服するためには?
- 4 目的があれば,ペア・グループ学習が機能する?
- 5 ペア・グループ学習のよさ
- 6 「競争」から「共創」へ
- 7 新しい対話型授業
- 第2章 対話型授業の具体的技法
- スリーステップ法―主として相手を意識させる対話型授業
- エキスパート・ペア・シェア―主として手段を意識させる対話型授業
- ADM法―主として目的を意識させる対話型授業
- 知の総合化ノート―主として評価を意識させる対話型授業
- BSI法―主として評価を意識させる対話型授業
- フィードバック学習法―主として評価を意識させる対話型授業
- 3QS―主として方法を意識させる対話型授業
- 第3章 ペア・グループ学習を位置づけた対話型授業モデル
- 1年
- スタンダール君の疑問に答えてあげよう(正の数・負の数)
- 結婚できる年齢がわかるって本当?(文字の式)
- どちらの解き方で解くの?(一次方程式)
- この紙の束は何枚?(比例,反比例)
- FCB(ファンクション・カード・バトル)をしよう(比例,反比例)
- 2年
- 友だちの間違いはなぜ起こるの?(式の計算)
- 必勝法を見つけろ(連立方程式)
- 的当てゲームをしよう(連立方程式)
- 面積が変わる図形?(一次関数)
- 携帯電話ショップの店員になってみよう(一次関数)
- この人の五角形の内角の和の求め方は?(基本的な平面図形の性質)
- パウル君のすごさを表現するには?(確率)
- 挑戦状を受けますか?(確率)
- 3年
- 9マス計算を速く解くためには?(式の展開と因数分解)
- 多項式の乗法カードゲームをしよう(式の展開と因数分解)
- 聖徳太子の伝説に挑戦しよう(式の展開と因数分解)
- 素数ゲームをしよう(式の展開と因数分解)
- 二次方程式の解の公式を見つけよう(二次方程式)
- 全部で何試合?(二次方程式)
- 先生の夢を叶えてあげよう(関数y=ax2)
- あぶない! 運転中に携帯電話はダメ!(関数y=ax2)
- 先生,テニスのサーブの打点は?(図形の相似)
- おわりに
はじめに
今,全国の中学校で「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が進められています。その実現のためには,生徒一人ひとりが,問題解決に向けて主体的に取り組むだけでなく,対話によって自分の考えを広げたり深めたりすることが求められます。そこで,現場では,ペア学習やグループ学習を取り入れた授業が増えてきました。
しかし同時に,ペア学習やグループ学習がうまく機能していかないという教師の声も多く聞かれるようになってきました。授業の最初に問題を提示し,「さあ,グループで考えてみましょう」と指示するだけでは,グループ学習はうまくいくはずがありません。数学の得意な生徒が,自分の考えを一方的に他の生徒に伝えるだけのグループ学習になっていたり,グループ学習後の発表でも代表が一方的に伝えるだけになっていたり,とても対話的な学びとは言えません。
また,そのような流れもあってか,近年ではペア学習やグループ学習をうまく機能させるような工夫に関する書籍も目にするようになってきました。しかし,グループ学習そのものに焦点を当て,ペア・グループ学習の技法について書かれている書籍はあまり多くはありませんでした。
学習のねらいや学習場面,生徒の実態によって,最適なペア・グループ学習の技法を選択することも,ペア学習やグループ学習を有効に機能させるための重要なポイントの一つです。前書『高校入試のつまずきを克服する! 中学校数学科 アクティブ・ラーニング型授業』では,アクティブ・ラーニングの技法を学習のねらいや学習場面,生徒の実態によって選択できるように整理し,学習課題と技法の組み合わせでグループ学習を活性化させ,生徒の資質・能力や高校入試にも対応する力を育てる方法を提案しました。
本書では,その提案からさらに一歩進め,ペア学習やグループ学習の中の「対話」にこだわってみました。
例えば,生徒に伝える「相手」を意識させるだけでも,「この表現で相手にうまく伝わるのだろうか?」という自己内対話が生まれます。その他にも,どのような「手段」で発表するかについて考え直すことや,一度発表した内容を自分たちで「評価」し,次の発表に向けて見直すことによっても,生徒の学びは深まっていきます。
このように「相手意識」「手段意識」「目的意識」「評価意識」「方法意識」の5つの意識を取り入れることで,生徒の学習が変わっていくのです。どの意見や考えを学級全体の前で発表しようかといった「競争」から,それぞれの考えを関連づけ合ったり,間違いまでも発表に生かしたりするような「共創」に変化していったのです。双方向のコミュニケーションを図ることによって,生徒は自分がわからなかったことがわかったり,知らなかったことを知ることができたり,気づかなかったことに気づけたりするのです。そこには,一方的に他の人に伝えるだけのグループ学習は存在せず,自然と対話的な学びが生まれていました。
そこで,対話型授業を「対話を中心活動とする授業」から広げ,その可能性を追究することにしました。そこから,5つの意識を取り入れた7つの新しい対話型授業が生まれました。
本書では,5つの意識のうち,教師がどれを生徒たちに意識させたいかによって,対話型授業が選択できるようになっています。そして,その授業の具体的な実践例も紹介しています。また,7つの対話型授業の実践が「仏作って魂入れず」にならないように,その考え方やうまく機能させるためのポイントについても詳しく説明をしています。そのため,明日からでもすぐに先生方に活用していただけるものになっているはずです。
本書が,先生方の授業実践に少しでもお役に立てれば幸いです。
令和元年5月 /三橋 和博
-
- 明治図書