- はじめに
- T 障がいのある子どもの今後の教育について
- 1章 障がいのある子ども一人ひとりのニーズに応じた教育への移行
- 1 特別支援教育の理念と「共生社会」への実現に向けて
- 2 インクルーシブ教育の動向と特別支援教育
- 3 「ともに学ぶ教育」の実践形態
- 4 高等学校における「ともに学び,ともに育つ」教育の実践
- 2章 障がいのある子どもの就学の在り方とニーズ教育への移行
- 1 就学基準の改正とインクルーシブ教育への移行
- 2 障がい種を超えた特別支援学校の役割とその在り方
- コラム 教師の専門性と視覚障がいの理解
- 3章 共生社会に向けて「ともに学び,ともに育つ」教育環境の調整
- 1 「ともに学び,ともに育つ」教育の視点
- 2 大阪府における「ともに学び,ともに育つ教育」の方針
- 3 大阪府における知的障がい生徒の高等学校受け入れの実践
- 4 高等学校でともに学ぶ自立支援推進校の実践
- 5 高等支援学校と連携した高等学校でともに学ぶ共生推進教室の実践
- 6 今後の展開と課題について
- 4章 障がい児教育の歴史と新たなニーズに向けて
- 1 戦後の障がい児教育と養護学校の義務化
- 2 小・中学校における特別支援教育の実態
- コラム 時代の先駆者に学ぶ 知的障がい者とともに歩んだ足跡の偉大さ
- 「無名の人〜石井筆子の生涯〜」
- コラム 障がいの受容と知的障がいのある娘をもつ親の心情から
- コラム ダウン症の人との出会い
- 「人間の本来の豊かな感性の発見と疲れたサラリーマンを癒す」
- 5章 障がいの重い子どもの教育とニーズの実現
- 1 就学の基準と教育的措置
- 2 重度・重複障がい児と学校教育の在り方について
- 3 医療的ケアが必要な子どもの教育と保護者のニーズ
- コラム 看護師配置と医療的ケアが必要な子どもをもつ保護者からのニーズ
- U 障がいのある子どもの具体的支援内容・方法について
- 1章 幼児への支援事例(幼稚園)
- 1 対象児の概要:年長,5歳男児
- 2 保護者の願い
- 3 発達検査の概要
- 4 支援の実際
- 5 まとめ
- 2章 小学生への支援事例
- 1 対象児の概要:通常の学級に在籍する1年生男児
- 2 保護者の願い
- 3 心理検査の概要
- 4 支援の実際
- 3章 中学生への支援事例
- 1 対象となる生徒の概要:特別支援学級に在籍する1年生男子
- 2 保護者の願い
- 3 心理検査の概要
- 4 支援の実際
- 5 結果と考察
- 4章 高校生への支援事例
- 1 対象となる生徒の概要:高等学校普通科に在籍する2年生女子
- 2 保護者の願い
- 3 心理検査の概要
- 4 支援の実際
- 5 結果と考察
- 5章 大学生への支援事例
- 1 対象となる学生の概要:理科系4年制大学に在籍する2回生男子
- 2 本人の願い
- 3 心理検査の概要
- 4 支援の実際
- 5 結果と考察
- コラム 支援教育におけるユニバーサルデザイン
- ◆Q&A
- V 障がい者の権利と地域移行に向けて
- 1章 「障害者の権利条約」と教育
- 1 「障害者の権利条約」とは
- 2 権利擁護の基礎知識
- 3 特別支援教育の課題
- コラム 鳥は飛ばねばならぬ :坂村 真民
- 2章 インクルーシブ教育と合理的配慮
- 1 インクルージョンという理念
- 2 インクルーシブ教育とは
- 3 合理的配慮について
- コラム 知的障がい本人の国際会議から
- 3章 いまなぜ家族支援なのか
- 1 新しい支援の手だて――「家族支援プロジェクト」
- 2 ファシリテーターとしての先生
- 3 障がいのある人のきょうだいへの支援の必要性
- コラム 先生は辞められるが,母親は辞められない
- 4章 地域生活を支えるもの
- 1 ライフサイクルと必要な支援
- 2 ライフステージに応じた支援
- 3 在学中からの余暇支援の大切さ
- コラム 障がい者の町ベーテル(ドイツ)の歴史に学ぶ
- 5章 新たな時代への期待
- 1 特殊教育から特別支援教育への転換以後
- 2 「個別の教育支援計画」がすべての要
- 3 学校(園)への期待
- コラム 「この子らを世の光に」
- おわりに
はじめに
特別支援教育は平成19年に制度としての一応の完成をみた。可能な限り通常の学級で障がい児を受け入れるためには,まだまだ条件整備が必要だという意見もあるが,特別支援教育がすべての教師の課題となったことは間違いのない事実である。
そのため,本書はすべての教師を読者として,必要最小限の情報にしぼってわかりやすく紹介することに努めた。
特別支援教育に必要な教育内容・方法は,この間現場の先生と研究者の連携により,飛躍的に開発が進んでいる。「個別の教育支援計画」というツールを通して,一人ひとりのニーズに対応するために必要な手だては,備わっていると言っても過言ではない。あとは実行するか,しないかである。何か新しい指導内容・方法や技法を探すことより,関係機関や専門職のサポートにより,今選択できる可能な方法をまず実践することがベターである。
また,障がい者にかかわる制度はここ数年でめまぐるしく改革され,まだその途上にある。教育は教育だけ,福祉は福祉だけでは十分な支援が行えなくなっている。日々,目の前の子どもの教育実践に邁進されている先生であればあるほど,今日の制度の変化の大きさに戸惑っておられることと思う。
障がい者をとりまく内外の状況は,今,大きな節目に立っていると言っても過言ではない。
教育の主体は子どもであり,一人ひとりの子どもを知ることがアルファでありオメガである。しかし,「木を見て森を見ず」とも「森を見て木を見ず」とも言われる。どちらか一方では成り立たなくなった今の時代である。子どもを見つめながら,今ここで私がかかわっている子どもの未来はどのようになっていくのか,どうあってほしいかを考えてみることが必要である。変化の激しい今の時代に,誰にも10年先のことなどわかるはずがない。それでもなお教師は親とともにこの子の未来に目を向けなければならない。
本書のTでは特別支援教育の全体的な姿・動向についてわかりやすく解説した。「特殊教育」と言われた時代から何を引き継ぐのか,新たな課題は何かについて歴史的にわかりやすい解説を試みた。
Uではライフステージに応じ,幼児,小学生,中学生,高校生,大学生と,一人ひとりに焦点をあて事例的に検討し,教育実践の実際を紹介した。
Vでは学校教育卒業後の長い地域生活の視点から学校教育への期待を,福祉や労働を含めた視点から解説を試みた。特に,「権利条約」「合理的配慮」「家族支援」をキーワードとして,インクルーシブ教育への課題を検討した。
「特別支援教育」の訳は,「特別なニーズ教育(Special Needs Education)」とも言われる。すべての子どもは,一人ひとり固有のニーズをもっている。すべての学校で特別支援教育の理念が生かされることによって,発達障がい児のみならず,不登校やいじめ,学習についていけない子どもなど,多くの課題を抱える今日の学校教育に寄与することができると信じている。
平成23年6月 編著者 /中村 忠雄
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- 明治図書