- T部 今,何をみつめなおすか
- 第1章 学ぶということ
- 1 人が生きるとは,すなわち学ぶことである
- 2 学習と勉強
- 3 なぜ,何のために学ぶかを問わなければならないか?
- 4 学ぶことにより,人はどうなるか?
- 5 "生きる=学ぶ"を助ける教育
- 6 個人的・社会的な生産性と防衛性を高めるための学習
- 第2章 働くということ
- 1 乳幼児期の遊びからすべてが始まる
- 2 働くことによる人間的成長
- 3 働くことと学ぶこと
- 4 働くことの社会的意味を問う
- 5 自分が変わる・社会を変える
- 6 共同参画時代を拓く
- 7 自立と共生を求めて
- 第3章 愛するということ
- 1 最大の欲求は愛
- 2 愛することは本能か,学ぶことか
- 3 愛の破壊性
- 4 愛されること・愛すること
- 5 愛される存在から愛する存在へ
- 第4章 生きるということ
- 1 なぜ人を殺したらいけないのですかー死の実感のない時代
- 2 欲しいものがわからないという欲求不満
- 3 他人に気を遣い過ぎて疲れる子どもたち
- 4 生きるということ
- U部 新しい光を求めて
- 第1章 乳幼児期から児童期へ
- ―かけがえのない今
- §1 乳幼児期は人間の一生の土台となる時期
- 1 乳幼児の問題は大人の問題
- 物静かで泣かない赤ちゃん/ 乳幼児の問題の原因は大人にある
- 2 生涯学習における乳幼児期のもつ意味
- 漸成の土台/ 胎児にも個性はある/ 生理的時間・子供のペース
- §2 乳児期の発達課題−基本的信頼
- 1 基本的信頼とは何か
- 基本的信頼とは母親,世界,自分を信頼し安心すること/ 希望とは「求めたものは必ず得られる」という確固たる信念
- 2 基本的信頼対不信の解決に含まれる乗り超えるという大事業
- 赤ちゃんの能力/ 不信とは身体的・心理的安らぎが得られない不安や恐怖の感覚
- 3 相互性と育ち合い
- 両親を育てる乳児/ 自己感と自己意識/ 親であること
- §3 幼児期の発達課題−自律性・積極性
- 1 自律性・積極性とは何か
- 自律性―幼児前期の発達課題/ 積極性―幼児後期の発達課題
- 2 しつけ−どういう子どもに育てたいのか
- しつけとは型にはめることではない/ わが国のしつけの問題/ 親としてどういう子どもに育てたいのか/ ほめることの落とし穴
- 3 相手にも自分にもプラスになる体験
- 異年齢集団でのたてわり活動/ 障害児との統合保育/ 人に役立つ喜びの体験
- §4 乳幼児期の保育実践−乳幼児の可能性
- 1 自分と責任
- 基本的生活習慣/ 明朗・快活・自主性/ 根気強さ/ 責任感
- 2 他者への奉仕
- 思いやり/ 協力性/ 勤労・奉仕/ 優しさ・勇気/ 公共心/ 感謝の日
- 3 自然愛護
- 自然愛護/ 自然の日
- 第2章 児童期から思春期へ
- ― 一人のひとりのコンピテンス
- §1 最近の子どもたちと発達課題達成の危機
- 1 今,何が問題か?
- 子どもたちの変化とその原因/ どこへ行く?―教育改革
- 2 生涯学習の過程で児童期はどんな意味をもつのか?
- 「生きる力」を問い直す/ 児童期に達成しなければならない課題
- §2 児童期の発達課題−コンピテンス
- 1 コンピテンスとは何か
- コンピテンスが達成された場合と達成されない場合/ 現在の日本の子どもたちとコンピテンス
- 2 機能的喜びと機能的自律性
- 機能的自律性/ 機能的喜び―未来と結びつく人格統合の中核となるのではないか
- 3 友達関係におけるコンピテンス
- 他者の視点を学習すべき児童期/ 対人的発達課題
- 4 具体的操作から形式的操作への発達
- 思考の性質の変化/ 共同能力への発達
- §3 生涯学習の力を育む学校教育
- 1 学習とは何か
- 学校・社会は何をなすべきか/ 学習とは何か/ 「分かった!」ということ
- 2 コンピテンスを育む学習と評価
- 教科と行動をどう位置づけるか/ 評価は何のためにあるのか/ 絶対評価とは何か/ 興味・関心を評価すること
- 3 児童の教育目標―コンピテンスとコラボレーションを育む
- 共生の時代に向けた学校教育/ 個性尊重をもう一度見直す/ 個性尊重と自由のもつ意味=一人ひとりの機能的喜びを大切にする/ 共に生きる力を育てる/ VLF(Voice of Love and Freedom)の教育に学ぶ/ 力を合わせるということ―コラボレーションに向けて
- 第3章 思春期から青年期へ
- ―社会の中で生きる「私」の姿に向かって
- §1 子どもから大人への移行
- 1 変化の方向
- 性的器官の成熟/ 役割期待
- 2 個性化と社会化
- 移行にかかわる学習/ 学習としての通過儀礼
- §2 親からの分離―喪失の体験
- 1 絆の質的変化
- 見える絆/ 移行対象としての絆/ 見えない絆
- 2 分離に伴う心理的苦痛の体験
- 3 自立をめぐっての葛藤体験
- 親との距離/ 秘密/ 罪悪感/ 見えないつながりに支えられての親からの分離
- §3 自分は何者か
- 1 孤独の中で
- 孤独の感覚/ 確かな自己/ 自我意識の消失/ 「死と再生」
- 2 話す,聞いてもらう,聞く―友達関係
- 同質の友達/ 語り合う/ 体験の共有/
- 3 自分探し
- 形式的操作/ アイデンティテイ/ 環境,文化,歴史との関係/ 境界人/ 「ない」ものへの気づきは「あった」ものを知ること/ 他者とともににある自分
- §4 社会的期待と個人的選択の統合
- 1 変容の過程にかかわる学習
- 子どもから大人への変容/ 学習/ 学校教育における学習/ 学習者の主体的選択としての学習/ 変容にかかわる学習の課題/ 評価
- 2 個性における,画一化と違い
- 画一化/ 「みんなと一緒」からの離脱/ 違い/ 違いが他者に認められる
- 3 選択
- 願いと現実/ 多様な価値から選択された役割実験/ 選択の承認
- 第4章 成人期
- ―大人になるということ
- §1 子育てを楽しむことができる社会に
- 1 少子社会
- 1.57ショックから1.34へ/ 少子社会の子どもへの影響/ ポスト核家族
- 2 自己責任のとれる個人
- 大人と子どもの逆転/ 子どもは預かりもの―子ども観の変革/ 自己責任のとれる強い個人に
- 3 子育ては大切で大変,だけど楽しい
- 静止人口の回復/ 女性の社会進出と子育ての両立/ 大人から子どもへ伝えていくこと/ 子育ては感動の日々をもらえる営み
- §2 価値観の曲がり角
- 1 これでよいのか? 日本社会
- 現代社会の問題―混迷するゆくえ/ 社会的認知的能力と社会的行動の間のギャップ/ 何が社会的行動のレベルを下げさせるのか―成熟した社会的行動を妨げる要因
- 2 他律的メンバー社会から,自律的メンバー社会へ
- 潜在的ソーシャル・ハラスメント社会が,個性尊重を妨げる/ 競争することに代えて,自律することと共感することを/ 効率優先よりも,専門家的職人的心構えを
- §3 学校選択にみるマギー先生のクラス
- 1 より良い学校選択のために
- 選択者と選択の対象/ 選択のための社会的土壌
- 2 マギー先生の教育
- 担任教師としての責任感/ 一人ひとりに合わせた教育/ 興味・関心に合わせた指導
- 3 フレッチャースクールのコア・ヴァリュー
- 毎日の活動で何が最も大切にされるか/ 個性尊重という土台の上に
- §4 大人に相談しなくなった子どもたち
- 1 教育危機の原因は大人の側にあるのではないか
- 子どもたちはどうして相談しないのか?/ 世界各国の青年の《悩み・心配事の相談相手》/ 日本青年に特徴的な傾向
- 2 少年少女のコミュニケーション能力
- 中学生のコミュニケーションに関する自信のなさ/ 積極的に発言しない理由/ 友だちと意見が違った時どうするのか
- 3 コミュニケーション能力とは
- 「異なる意見や考え方」を抑圧する土壌/ コミュニケーション能力を育成し,高めるには/ 《受信力》《共感力》を育てる
- 4 コミュニケーションのモデルは大人
- 自尊心・自己肯定感・生きる力/ 他者の話や意見を尊重すること・耳を傾けて聞くこと
- 5 友だちに相談することと親や先生に相談すること
- 侵入的な大人の愛/ 条件つきの愛は「優しい暴力」/ コミュニケーションとキャッチボール/ 人間関係に疲れている子どもたち/ いじめられても相談できない「三竦み状況」/ 子どもたちの息苦しさを解消するために
- §5 余暇をどう生き,人と人の関わりをどうつくるのか
- 1 余暇をどう生きるのか
- 余暇志向になっている日本/ 従来の余暇とこれからの余暇/ 選択の喜びと楽しみが得られる人生/ 次世代へ引き継がれる余暇意識
- 2 「人と人の関わり」をどうつくるのか
- 60歳以上の成人のつきあい/ 「困った時の手助け」は誰に頼めるのか/ 相互支援的な関係が苦手/ 「共生」社会の実現を
- V部 生涯学習社会に生きる
- 第1章 生涯学習の基礎づくりをめざして
- §1 生涯学習社会をめざす
- 1 教育基本法と生涯学習の理念
- 国民の教育を受ける権利と教育の目的/ 教育はあらゆる機会にあらゆる場所で
- 2 生涯教育の提唱と教育の見直し
- 社会変化と教育/ 生涯にわたる教育保障
- 3 生涯学習の時代
- 「学習権」宣言と生涯学習体系への移行/ 学び合う喜び
- §2 学ぶことは生きること・生きることは学ぶこと
- 1 人類ヒューマニズムに学ぶ
- 人類ヒューマニズムの考え方/ 学習の目的は人生の目的・生活の課題は学習課題
- 2 共に学び,共に生きる
- 教育はお互い/ 教えることは学ぶこと
- 第2章 価値観の変革とコミュニケーション能力の育成
- §1 コミュニケーションとは何か
- 1 コミュニケーションの意味を問う
- カタカナ英語のコミュニケーションについて/ コミュニケーションの語源的な意味は"to make common"
- 2 コミュニケーション能力の獲得の原点
- コミュニケーションとは単なる言葉のやりとりではない/ 人と人の関わりの喜びや楽しさを知らせるコミュニケーション
- §2 コミュニケーション能力の発達過程
- 1 胎児期〜新生児期
- コミュニケーション・チャンネルの形成/ 対人的コミュニケーションに敏感な能力
- 2 生後2〜6カ月
- 対人的交流がすべてをさしおいて高まりを見せる時期/ モノよりもまず人への関心
- 3 生後6〜12カ月
- 共に喜び,共に驚き,共に楽しむことを求める/ 《意図の共有》《注意の共有》を求める/ 《行為の共有》《情動(気持ち)の共有》を求める/ 《交換・共有》はコミュニケーションの基礎・基本
- 4 1歳過ぎ〜1歳半頃
- 代表化機能の発達/ コミュニケーション能力の基礎が形成される乳児期
- §3 本来の意味でのコミュニケーション能力を育成するために
- 1 コミュニケーションはいつの間にかできるようになるのか
- 2 コミュニケーションが言葉のキャッチボールであるならば
- 自分の想像力を働かせ推論すること/ ボールを見つめること/ ボールを受ける側(キャッチャー)の重要性/ よりよい受け手になること/ 大人がモデルとなって子どものコミュニケーション能力を育てる/ 価値観の変革とコミュニケーション
- §4 コミュニケーションと日本の文化
- 1 ジャンケンを通して見た日本の文化
- 話し合いの減少とジャンケン/ ジャンケンと日本人のものの考え方
- 2 ジャンケンの起源を考える
- 数挙と三竦み挙/ 「三竦み挙」はなぜ日本にだけ定着したのであろうか/ 日本人のものの考え方と「状況主義の論理」/ 二者択一の即決型ではない納得の論理/ 協力と納得の論理/ 中空均衡構造日本の深層
- 3 ジャンケンはどのような影響を与えているか 239
- ジャンケンで物事を決めることのメリット・デメリット/ 「和と共生」の文化に生まれる
- §5 価値観の変革とコミュニケーション能力の育成
- 1 ジャンケンの功罪
- 2 価値観の変革と今後の課題
- 「聴く力」「対話する力」を育成すること/ 他者への想像力が「乏しい」ということ/ 生涯学習の課題
- あとがき
まえがき
今,さまざまな局面で20世紀を支配してきた価値やシステムが問い直されています。生命,環境,教育,労働,幸福,自由,平等,等について20世紀型モデルでは通用しないことが明らかになった今,を結集し21世紀にふさわしい価値とそれに基づくシステムを構築することが急がれています。例えば,世界各地で地球環境に優しい自然エネルギー(太陽や風力)へのシフトが推進されていますが,この地球規模のエネルギー革命の成否は一人ひとりの市民が何をどう選択するかにかかっています。この例でも明らかなように21世紀社会にふさわしい価値の創造とシステムの構築には,一人ひとりの認識と選択が重要な意味をもつことを知り,行動することが必要なのです。
教育についても,同じく根本的な見直しが迫られています。20世紀を支配してきた価値を,一人ひとりがどう問い直し,どう選択しどちらに進もうとするのかによって,私たちが真に求めている改革が実現するか否かが決まってくるのです。幼い子どもたちは,その人生の開始段階では,誰もが未来に希望を抱き,未来を信じています。しかしながら残念なことに,数年が経過するうちに,自らの存在の意味や生きることを肯定できない子ども,こころの中に哀しみや痛みを抱える子どもが増えていきます。子どもたちのこころにこうした負担をかけているものは,一体何なのでしょうか?
近年,金子みすゞの詩は教科書にも取り上げられ,その宇宙観・世界観に多くの人がひきつけられています。彼女は,その詩の中で,この世の中には無用なものは一つもなく,すべてが存在するだけで意味があること,すべてのものがかかわり合って存在していること,見えなくても(昼間の星のように)存在するものがあること,違うことのすばらしさなどを詠い,私たちに気づかせてくれています。そこには,それぞれの相違や,取るに足りないもの,無用・無名のように見えるものを見過ごすことなく,ひとしくこころの耳を傾け,優しく染みとおるようなまなざしを向け,深い愛情を注ぐ姿勢がみられます。ここに,大人も子どもも,誰もが惹きつけられる理由があるのでしょう。言いかえれば,誰もが,みすゞのようなまなざしで包まれたいと希み,他者に対してもそうありたいと,こころの深いところで求めていることを示していると思います。
一人ひとりが尊重されるべき独自な存在として,自律性をもつ存在として生きられること,しかも同時に,他者とともに豊かに生き合うことが可能になるような社会は,どのようにしたら実現できるのでしょうか? 一人ひとりの子どもが十分尊重され,健康な成熟した人間に発達していくためには,現状からどのような方向にシフトしていけばよいのでしょうか?「生涯にわたって発達し学習し続ける人間」は,何をめざして学習していけばよいのでしょうか? 家庭と家庭外の集団(学校・保育園・幼稚園・地域など)における教育や保育の課題をどのようなものとしてとらえていけばよいのでしょうか?
本書は,こうした私たちにとっての根本問題を,人間発達の原点に戻って問い直し,人間が生きることの本来的意味から生涯学習の課題を探ったものです。本書は三部構成をなし,T部では,人間の営みを,学ぶこと,働くこと,愛すること,生きることの4点から見直し,U部では,人間の一生を4つの枠でとらえて各段階ではどういうことが重要なのかを考え,そしてV部では生涯学習社会で生き生きと生きるために必要なことをまとめました。
本書は,子どもたちと深くかかわる皆さまに読んでいただきたい本です。また,「子どもにかかわる大人の役割とは何か」に迷っている方,考え続けようとしておられる皆さまからの反響が得られることを願っています。
終わりに,本書執筆の動機づけを与え,辛抱強くあたたかく励ましてくださった明治図書編集部石塚嘉典氏に感謝申し上げます。氏の支えなくして,本書の実現はなかったと思います。厚くお礼申し上げます。
2001年4月 著者一同
-
- 明治図書