- まえがき
- さあ,描こう!!
- ・ファシリテーション・グラフィック(FG)って?
- ・どんな効果があるの?
- ・どんなものなの?
- 理論編
- T章 議論を変えるFG・10の機能
- 1 「ワークショップによる学び」が広がっている
- 2 ファシリテーション・グラフィックが学びを促す
- 3 FGの10の機能
- (1) 議論を活性化する〈触発機能〉
- @思考促進機能
- A分類整理機能
- B構造把握機能
- (2) 議論への参画を促す〈対話機能〉
- C対立緩衝機能
- D論点明示機能
- E視点転換機能
- F比較検討機能
- (3) 議論を残しておいて活用する〈記録機能〉
- G保持記録機能
- H再現分析機能
- I系時俯瞰機能
- U章 誰でも使えるFGスキル
- 1 FGスキルの基本
- 〜構造化は「何を拾うか」と「どこに描くか」で決まる〜
- (1) どうやって拾うの?
- 〜議論には「深める」と「広げる」の二通りしかない〜
- (2) どこに描くの?
- 〜議論の質と展開を捉えたら,後は「余白との対話」〜
- 2 誰でも使えるFGスキル10
- スキル1 罫線・枠囲みスキル
- スキル2 文字強調スキル
- スキル3 レイアウトスキル
- スキル4 イラスト・カットスキル
- スキル5 図解スキル
- スキル6 色分けスキル
- スキル7 要約スキル
- スキル8 短期記憶スキル
- スキル9 ツール活用スキル
- スキル10 環境構成スキル
- 実践編
- V章 授業で使えるFG
- 1 FGは板書の一形態?
- (1) 「FG=板書」ではない
- (2) 〈構造板書〉は授業内容を美しく整理する
- (3) 〈参加型板書〉は子どもの主体性を生かそうとした
- 2 授業に使えるFGの実際
- (1) 〈触発板書〉としてFGを機能させたい
- (2) FGが授業に位置付くための条件とは?
- (3) FGを位置付けた授業の実際
- ・「導入期」の実践
- ・「試行期」の実践
- ・「定型化期」の実践
- 3 子どもが使いこなせるFGツール
- (1) 〈構造思考〉の最初の一歩「ノート」
- (2) 〈立場表明〉の強力ツール「コピー用紙」
- (3) 〈試行錯誤〉が可能な「ミニホワイトボード」
- (4) 〈学び合い〉の最初のステップ「スケッチブック」
- (5) 〈全員参加〉の最終兵器「模造紙」
- W章 FGで進める校内研修12か月!
- 1 FGは「全員参加の校内研修」の鍵
- (1) FGで子どもの実態を整理しよう
- (2) ワークショップによる校内研修が機能する体制をつくろう
- (3) FGで「研究の視点」を具体化しよう
- (4) FGで授業づくりの方針を定めよう
- (5) FGで授業づくりのヒントを得よう
- 2 FGは「授業力アップ」の鍵
- (1) FGで指導事項を明確化しよう
- (2) FGで事後検討会を活性化しよう
- (3) FGで成果と課題をすっきりまとめよう
- 3 取り組みを終えて
- あとがき
- 参考文献
まえがき
ただ「描く」だけで話し合いが変わる
議論を「見える化」するだけで,会議の能率が上がる,メンバーが元気になる,成果が上がる……。そんな夢のような話があるのだろうかと思いながら半信半疑で始めたのが私の「ファシリテーション・グラフィック」でした。
この1年間ほどの間に,いくつかの研究サークル,校内研修,そして授業で取り組んでみて,その言葉がただの宣伝コピーや思い込みなのではなく,「本当のこと」なのだと実感しています。
いったい,議論を描くことで,何が起こったのでしょうか。取り組んでみて感じたことを思いつくままに書き出してみます。
・話し合いが時間どおりに終わるようになった。
・話し合いに楽しく参加できるようになった。
・話し合いに参加したメンバーの笑顔が多くなった。
・何をやればいいのかがはっきりわかるようになった。
・話し合われたことを記憶できるようになった。
・忙しいと感じることが少なくなった。
・話し合いの最中に飽きたり眠くなったりしなくなった。
ずいぶん大げさに聞こえるかもしれませんが,これは本当のことです。会議の能率が上がり,メンバーが笑顔になり,成果が次々に出るようになったにも関わらず,時間的な余裕が生まれるという「逆転現象」が起きたのです。
ただ「描く」だけで能率が上がる
グラフィックの上手・下手はほとんど関係ありません。ただ,「描く」だけです。誰でもできます。いつでもできます。15分の話し合いでさえも効果がありますし,2時間を超える会議でも効果は持続します。むしろ時間が長くなれば長くなるほど,その効果は大きい,とさえ言えるでしょう。
私は最長で6時間連続で描き続けたことがあります。そしてその6時間の議論の中からたくさんの「気付き」が生まれ,「学び」が広がり,「明日へのエネルギー」が生まれてきました。その間,疲れはほとんど感じませんでした。そして,参加したメンバーは,異口同音に「わかりやすかった」「楽しかった」「何をやればいいのかよくわかった」「話したいことがどんどん浮かんできた」と言います。時,場所,人に関わらず,ファシリテーション・グラフィックを導入した話し合いに参加した人なら誰でも,です。
やはり大げさに感じられるでしょうか?
無理もありません。そんな簡単に変わるなら苦労はしないよ,と会議のたびに苦しい思いをしてきたあなたなら骨身にしみているはずです。みんなそれぞれ勝手なことを言うかと思えば,丁寧に説明したつもりの話を聞いていなかったり,感情的に反発するだけだったり,逆に貝のように押し黙ってしまったり……。これまでに何度か経験した「苦しい会議」の思い出が,ファシリテーション・グラフィックの効果を信じることを躊躇させているのだと思います。
ただ「描く」だけで多忙感が減る
それでは,私の経験を例にしてみます。
平成22年度は,私にとって,それまでに経験したことのないほどの忙しさが押し寄せてきた年でした。例えば,私は北海道・函館市の研究サークルの幾つかに所属しています。そのうち,国語,生活科,国際理解教育の三つのサークルでは,全道大会が開催されました。国語の研究会では,「物語文の指導の実践提言」,生活科では「生活科研究推進委員長としての研究提言」「情報部長として会のHP・blogの更新」,国際理解教育では「広報担当としての開催要項の作成・当日の取材」を担当し,それに向けた会議がありました。また,学校図書館研究会のサークルでは,静岡県で開催された全国大会に北海道地区からの提言者として参加させていただきました。
その他,教職11年目を迎えていた私は「10年経験者研修」に該当する年でしたし,学校の研究は3年計画の3年目,まとめの年でした。私は研究主任として研究推進委員会を開催し,研究ブロックを運営していました。
初任の頃から面倒を見ていただいている「研究集団ことのは」の主催する札幌市でのセミナーに登壇の機会を与えられたり,「授業づくりネットワーク北海道ファイナル2011 in千歳」に実行委員として参加させてもらうこともできました。地元の仲間と立ち上げたサークルでは夏休みと冬休みに学習会を開催しました。そのほかにも研究会の仕事(主に会議のための連絡・調整です)は山のようにありました。
これらの会議の9割にファシリテーション・グラフィックを導入してみました。すると,先ほどのような「逆転現象」がどのような場所でも起きたのです。それほど「時間を効率的に使う」「話し合いの内容を濃くし,成果を上げる」ことが,たった一つの単純なことで成し遂げられたのです。
それはつまり,「議論を描く」という,それだけのことです。
いつでも・どこでも・誰でもできる
言葉は悪いのですが,一度,だまされたと思ってペンを手にとってみてください。そして議論を描いてみてください。5分もすると,あなたは「あれ,なんかいつもと違うな」という雰囲気を感じるはずです。10分経ったら,メンバーがその紙を指さしながら口々に自分の意見を言い出すはずです。30分後には1時間の予定だった会議が終わっています。それもメンバーの笑顔とともに。そして,それには経験の多少はほとんど関係がありません。難しい知識やスキルも必要がありません。できる人は最初からできますし,仮に苦手意識を持っている人でも,2〜3回行うと抵抗なく取り組めます。何より効果はすぐに発揮されますから,描くのが楽しくなってくるのです。
もう一度言います。誰でもできる,簡単なことなのです。
私の周りでは,初めて取り組んだときにはなかなかペンが動き出さなかったのに,2回目で私よりも上手になってしまった後輩(20代・女性)がいますし,とある研究大会で,それまで経験がないのにも関わらず90名近い全体協議のグラフィックに私と同時に取り組んでフロアの方々から「全く遜色ない」というコメントを寄せられていた先輩(40代・男性)もいます。
全く難しいものではないのです。ただ「やってみよう」と思うかどうか,そして実際に描いてみるかどうかだけの差です。そしてやってみれば効果はすぐに実感できます。
そして,この「誰でも」は大人だけのことではありません。
授業に導入することで,子どもたちの間にも同じことが起こります。自分の意見を伸び伸びと表明し,互いの考えの「違い」に学び合い,わからないことは尋ね合い,教え合っていく,という姿が自然と見られるようになってきます。
まずはやってみよう!
本書では,こうした「信じられない効果」を生み出すファシリテーション・グラフィックの「コツ」を,私の実践を通して取り出し,まとめ,解説しています。ただ描くだけでも十分に効果はありますが,ちょっとした「コツ」を知っていると効果は倍増します。私が実際に描いたものを例にしていますので,本当に起こったことだとご理解いただけるのではないかと思います。
なるべく実際の様子をお伝えしようと思い,画像を多く配置しましたが,「描く」という行為を描き出すには静止画像では不十分だったところがあると思います(もしも私が実際に描いている様子が知りたければ,「明日の教室DVDOファシリテーション・グラフィック入門」〔有限会社カヤ〕をご覧ください)。また,考察が不十分な点があるかもしれません。今後,機会を与えられることがあれば,さらに整理していきたいと考えていますが,現時点での精一杯の内容を提案させていただきたいと考えています。
最近,「視覚化」や「見える化」という言葉をよく聞くようになりました。互いの考えていることは見えなくても,発した言葉を描いていくことを通してお互いのことをよりよくわかり合うことができます。この「視覚化」や「見える化」は,人と人とが互いに認め合い,尊重し合いながらゆるやかにつながっていく社会のために,今後ますます重要な概念になっていくのではないかと思います。
本書が,様々な場面における「話し合い」を通して,日々を豊かにしようとされている先生方にとって,少しでもお役に立てるものであれば幸いです。
2011年10月 /藤原 友和
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