- はじめに
- 1章 関数指導のねらいと指導
- 1 関数指導のねらいと指導
- 2 関数指導の流れ
- 3 関数指導と入試問題
- 2章 「関数の導入」の指導
- 1 「関数の導入」の指導の考え方
- 2 1年指導例 封筒と紙を使った課題
- 3 2年指導例 正方形を積み上げていく課題―片側の階段―
- 4 3年指導例 動点を扱った課題
- 3章 「グラフをかく」の指導
- 1 「グラフをかく」の指導の考え方
- 2 1年指導例 点をプロットして「グラフをかく」
- 3 2年指導例 工夫して「グラフをかく」
- 4 3年指導例 関数y=ax2の「グラフをかく」
- 4章 「グラフをよむ」の指導
- 1 「グラフをよむ」の指導の考え方
- 2 1年指導例 時間と道のりに関する「グラフをよむ」
- 3 2年指導例 時間と道のりに関するグラフから問題解決をする
- 4 3年指導例 電話会社を選ぶ
- 5章 「変化の割合」の指導
- 1 「変化の割合」の生徒の理解の実態
- 2 「変化の割合」の指導の考え方
- 3 小・中・高の「変化の割合」の指導の流れ
- 4 2年指導例 「変化の割合」の素地的な学習
- 5 2年指導例 1次関数のグラフと「変化の割合」
- 6 3年指導例 関数y=ax2と「変化の割合」
- 6章 「式の決定」の指導
- 1 1次関数の「式の決定」の生徒の理解の実態
- 2 「式の決定」の指導の考え方
- 3 1年指導例 円柱状の容器に水を入れて
- 4 2年指導例 長方形を並べて
- 7章 「関数の利用」の指導
- 1 「関数の利用」の指導の考え方
- 2 1年指導例 動点を扱った課題
- 3 1年指導例 グラフから点の動きを考える課題
- 4 2年指導例 正方形を積み上げていく課題―両側の階段―
- 5 2年指導例 エアロバイクの課題
- 6 2年指導例 2点の往復運動の課題―連立方程式とグラフ―
- 7 3年指導例 封筒の中にある台形の課題
- 8章 指導計画の立て方
- 1 指導計画の立案の考え方
- 2 1年の指導計画(例)
- 3 2年の指導計画(例)
- 4 3年の指導計画(例)
- 参考文献
はじめに
「理解困難な内容の第一に関数をあげる生徒が多い」とは,多くの数学科の教師から聞こえてくる嘆きである。中学校の数学指導において,関数指導が問題点を多く含んでいるのが現状のように思われる。
「数学教育の核心は関数観念の養成にある。私はただ関数の観念が数学教育に必要であるというような,微温的なことを言うのではない。関数の観念こそが数学教育の核心である。関数の関係を徹底せしめてこそ,数学教育は初めて有意義であることを主張するのである」と小倉金之助が数学教育の根本問題として熱く唱えてから,もう1世紀近くになろうとしている。それにもかかわらず,この主張が実際の現場に十分に浸透しているとは言えないのではないだろうか。
関数指導が数学教育の核心であるということは,関数は数学の指導内容の一部分というのではなく,数学のすべての領域にかかわるということである。関数指導は関数領域での指導のみならず,数学教育全般の中で重視されるべきものであるが,とりわけ関数領域での指導の在り方が重要であることは論をまたない。しかし,その関数領域の指導さえ,多くの問題を抱えているというのが現状であると思われてならないのである。
学習指導要領では,数学科の目標の中に「事象を数理的に考察し表現する能力を高める」と謳っている。中学校数学の指導内容のすべてがこの目標に関連するものではあるが,もっとも密接にかかわるのが関数指導の内容であろう。もちろん,関数指導の内容は,目標のこの部分だけではなく,すべての目標の内容にかかわるものであることは当然である。しかし,関数指導の重要性の中核をなすものは,事象との関連である。学習指導要領の各学年の関数指導の目標では,事象を調べることを通して理解させることと強調している。数学指導において数学的な見方や考え方の育成が重要であることは,いまさら強調するまでもない。この数学的な見方や考え方の核をなす力は,事象を数理的に処理する能力であると言ってよいであろう。このように考えると,関数指導の重要性は,いくら強調してもしきれないほど重要であると言える。
関数指導の重要性がいくら叫ばれても,実際に指導する現場,教室での教師が変わらなければ,それは絵空ごとにしかすぎない。関数指導の現場の実状,とりわけ関数領域の指導をなんとか少しでも改善したい。この願いに少しでも寄与できないかという思いが本書を著そうとした動機である。
本書は東京都中学校数学教育研究会研究部関数委員会の長年の研究の成果をまとめ,中学校の関数領域の指導を中心に,具体的な指導の在り方を提案したものである。本委員会が長年一貫してとってきた研究の手法は,授業研究を通して究めるということであった。研究会で議論を深めながら学習指導案を練る。それをもとに研究授業を行い,評価して改訂指導案を作成する。問題点を発見したり,修正の必要性を感じたら,また研究授業を行い改善するというように,徹底して授業研究を通すという研究姿勢であった。私は,本関数委員会の正会員ではなく,ときおり研究会に参加し,勉強させてもらうという立場であったが,本委員会で行った授業研究では,常に得るところが多かった。このような徹底した授業研究を通しての成果は,関数指導の授業を変えること,関数指導の教室の様子を変えることに,多くの示唆を提供するであろうと信じている。
本書の執筆は,現委員によるものであるが,長年の研究の積み重ねの成果を受け継いでいるという意味で,これまで本委員会に携わった多くの方々の共著であるとも言える。本書がこうして日の目を見るに至るには,執筆に直接携わった方々の努力はもちろんのことであるが,発足当時からご指導くださった岩木敬二郎先生をはじめ,これまで本委員会を支えてくださった多くの先輩諸氏の力も大きかった。ここに,皆々様に敬意を表すとともに,本書の刊行を心からお祝いしたいと思う。
本書は多くの討議を経たものではあるが,思わぬ勘違いや誤りがあることと思う。諸事情により長い研究の成果を短期間にまとめなければならなかった。意が伝わりにくい箇所も多くあるかと思われる。ぜひ忌憚ないご指導をいただき,本委員会をも育てていただきたい。数学教育の核心が関数であるからこそ,その指導の充実は数学教育の充実につながるはずである。そして,どうかともに関数指導の充実,数学教育の発展,未来の宝である生徒たちの教育に邁進していただきたい。
本書の刊行に当たって,多くの困難を排して受諾してくださった明治図書の方々に感謝する次第である。
平成24年8月 /半田 進
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