- まえがき
- 第T章 エピソード(授業のネタ)から歴史の本質へ
- 1 はじめに
- 2 「昆布ロードの授業」から歴史学習を考える
- 3 エピソードから学習課題の設定
- 4 モノ,「歌」教材から歴史の本質へ
- 5 多様な授業形態を導入する
- 第U章 楽しく学び,「活用・探究力」を培う歴史の授業
- 1 時代を大感する
- 2 すべての生徒に「活用」「探究」型授業を
- @事実や人物を様々な角度から吟味,評価する「活用」力
- A「習得知識」を使い「言語化」していく「活用」力
- B歴史的論争課題での紙上討論で培う「言語力」
- C「歴史川柳」「タイムトラベラー新聞」づくりで「活用」力を
- 3 「活用」「探究」型授業に関わって
- 第V章 「原始・古代」ウソ・ホント?授業
- (1) 【ミニネタ】ファーストキスは2時間 〜歴史を知るということ〜
- (2) 【習得】石切場の落書き 〜エジプト文明〜
- (3) 【習得】弥生時代は平和な時代? 〜縄文時代と平安時代〜
- (4) 【習得】心合寺山古墳の主はだれか? 〜古墳と古代国家の形成〜
- (5) 【習得】東大寺になくて家の近くの寺にあるもの 〜天平文化〜
- (6) 【習得】エピソードで学ぶ平安文化 〜平安文化〜
- (7) 【活用】平安時代って,どんな時代だったか? 〜平安時代を大観する〜
- 第W章 「中世・近世」ウソ・ホント?授業
- (8) 【習得】義経は,なぜ兄に殺されたのか? 〜武家政権の誕生〜
- (9) 【習得】将軍が殺される! 〜鎌倉幕府と室町幕府の特色〜
- (10) 【習得】信長は悪いやつか? 〜織田信長の政策〜
- (11) 【習得】秀吉は農民の味方か? 〜豊臣秀吉の政策〜
- (12) 【ミニネタ】自毛? それともカツラ? 〜絶対王政〜
- (13) 【習得】船橋の由来 〜朝鮮通信使〜
- (14) 【習得】松尾芭蕉は忍者だったのか? 〜元禄文化〜
- (15) 【活用・ゲーム】幕改改革ゲーム 〜三大改革〜
- (16) 【習得】アメリカの祝際日と大統領誕生日 〜南北戦争〜
- 第X章 「近代・現代」ウソ・ホント?授業
- (17) 【活用】明治維新の諸政策を検証する 〜政策への投票活動と意見発表を通じて時代を大観〜
- (18) 【習得】エピソードで学ぶ第一次世界大戦 〜第一次世界大戦〜
- (19) 【活用・討論】日清・日露戦争の是非を問う 〜紙上討論〜
- (20) 【習得・活用】植民地って何か? 〜「韓国併合」の授業〜
- (21) 【習得】満州国は傀儡政権だったか? 〜満州事変〜
- (22) 【習得・活用】なぜ,壕で晴れ着を着ているの? 〜沖縄戦を自分の問題として考える工夫を〜
- (23) 【活用】“事項索引”を使って「現代を大観」 〜資料の活用〜
- (24) 【活用】歴史川柳づくり 〜時代を大観〜
- あとがき
まえがき
○子どもの現実から出発しよう!
2010年10月『塀の中の中学校』というドラマが放映された。刑務所に収監されている中学校を卒業していない服役者が,学び直す物語である。その場面で,千原せいじ演じる服役者が,「わからない」授業に耐えられず「俺をやめさせてくれ。もう耐えられない。俺はいじめなどしたことなかったが,今,俺はいじめをしている。このまま,ここにいたら,どんどんイヤな人間になってしまう(要旨)」という叫びをあげ,自殺しようとする場面があった。この“叫び”の場面を見ながら,教室の何人かの生徒の顔が目に浮かんできた。本来,「学ぶ」とは,“新たな発見”をし,“知的興奮”を喚起し,“生き方”を揺さぶるものでなくてはならない。しかし,「学力低位層」や「学習意欲のない」生徒にとっては『抑圧装置としての授業』になっているのではないだろうか。
心ある教師は,いわゆる「学力低位層」や「学習意欲のない」生徒を授業に位置付けようと興味ある教材開発や,グループでの学習形態,または,放課後補習をする等の対応をしつつ苦悩している。定期テスト前に,10点以下は「かんべんして!」と思い,放課後に補習をする。ほとんどテスト問題と同様の「穴あき問題」を手渡し,いくつかを暗記させる。それでも,10点以下の点数しか取れない。授業中,発問にはときには答えるが,漢字は書けないので板書を写そうとしない。「おい! 書けよ!」と一応は注意する。授業を受けるのがイヤで,6時限の終わりかけに登校する生徒。この生徒たちは,そのまま放置すれば,テストは0点。ますます意欲をなくすので,テスト前は自宅で学習する。いわゆる家庭教師である。学校では,勉強している姿を見られるのは恥ずかしいそうだし,家庭ではお菓子を食べながら和やかに学習できる。また授業中,元気よく発言して,なかなか絶好調だと思っていたら,発問の答えに間違ったとたんに,配布したプリントを丸めて,ふて寝。「おい! 何すねてるねん!」と渇を入れるとますますすねてる。その後は放置!
文部科学省学力調査45位の大阪府の平均よりさらに低い,東大阪市のある授業風景である。このような生徒たちが生き生きと学習できる手立てを考えなければ,授業は不成立になる。
また,一方で,「受験圧力」も存在する。いわゆる「できる生徒」は,テスト問題に出題されないような雑ネタには興味を示さない。ノートに落書きをしている生徒もいれば,教科書の他のページを読んでいる。放置すれば他教科の問題集でもやりかねない。公立中学校の授業は,この「学力差」のある生徒たちを対象に授業を展開しなければならない。
○今,付けさせたい学力とは 〜新学習指導要領の趣旨〜
平成24年度版「中学校社会科改訂の趣旨」において「基礎的・基本的な知識,概念や技能の習得に努めるとともに,思考力・判断力・表現力等を確実にはぐくむため言語活動の充実を図り,社会参画に関する学習を重視することが必要である」と書かれている。また,「改善の基本方針」には,次のような記述があり,この内容が今改定の主たるねらいと考えられる。
社会的事象に関する基礎的・基本的な知識,概念や技能を確実に習得させ,それらを活用する力や課題を探究する力を育成する観点から,各学校段階の特質に応じて,習得すべき知識,概念の明確化を図るとともに,コンピュータなども活用しながら,地図や統計など各種の資料から必要な情報を集めて読み取ること,社会的事象の意味,意義を解釈すること,事象の特色や事象間の関連を説明すること,自分の考えを論述することを一層重視する方向で改善を図る。
ここで述べられている「習得」「活用」「探究」そして「参画」が,キーワードである。前述した地理的分野においては,大幅な改定が行われた。世界地理学習においては,6州の地域を,日本地理学習においては7地方区分による学習が行われる。しかし,このことを暗記社会科への回帰と考えてはならない。特に,日本地理学習においては,「自然環境を中核とした考察」「歴史的背景を中核とした考察」など7つの基軸による,中核方式による「動態的地誌」学習が提唱されている。主に,地理的分野を中心に述べてきたが,歴史的分野においても「学習した内容を活用して大観し表現する活動を通して,その時代がどのような特色をもつ時代だったかを捉える学習」を,そして公民的分野においても「対立」「合意」と「効率」「公正」という概念から社会的事象を分析することを重視している。この改定趣旨が現場に根ざす手立てを考えることが必要である。
新学習指導要領で「習得」「活用」「探究」という学力や学習方法が強調されているが,この3つは,決して新しいものではない。しかし,社会科教育の変革にとって,このことは重要である。なぜなら,これまでの学習において,授業者は,この3つの学力や学習方法をあまり意識せずに実践してきたからである。このことを意識することで,「暗記社会科」から脱皮し,「思考力」「判断力」「表現力」を身に付ける授業へと変革できるチャンスである。
筆者が最も重視している点は,「学習意欲」と「活用」「探究」との関係である。“できる子”=「活用・探究」力,“できない子”=「習得」ということではなく,すべての生徒が“楽しくわかり”そして,「思考力」「判断力」「表現力」を付ける授業を展開する必要がある。
本書に収録された実践は,上記紹介した,いわゆる“やっかい”な生徒たちが,それなりに“くいつき”“考え”“発言”した授業である。「荒れ」や「学習意欲」のない中で,「習得」さえままならない中学校現場にあって,子どもが意欲的に取り組み,「活用・探究」力を培う授業の問題提起である。
2012年5月 /河原 和之
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- 明治図書
- 「教師は良き脚本家であり、良き演技者でなければならない」という言葉があります。著者の河原先生は、まさにそのような先生だと実感させてくれる本です。それに加えて、河原先生は生徒たちをその授業の「観客」ではなく、共に授業をつくる「キャスト」として引き込んでいるということが伝わってきます。イキイキ学ぶ子どもの姿を見ることができる授業書です。生徒を飽きさせない授業づくりのヒントを、一部の時代や一部の人物に限らず、すべての単元を通して得ることができるおすすめの一冊です。2012/8/25khunyuri