- まえがき
- 第1章 新学習指導要領で知的障害者への教育はどう変わるか
- 1 特殊学級の教育課程編成
- 2 小学校の学習指導要領のおもな改訂点
- 3 学習指導要領から授業まで
- 4 教育課程の構造
- 5 教育課程の多様化
- 6 教科等の対比
- 7 学習指導案
- 8 期待と課題
- 第2章 改訂学習指導要領を踏まえての指導事例
- 1 領域・教科を合わせた指導
- 【日常生活の指導】
- 子供自身が生活をつかんで動く(小学校)
- 【遊びの指導】
- どきどきゲームで遊ぼう(小学校)
- 【生活単元学習】
- (1) 自分のよさや短所を見つめる学習「豆まき会をしよう」(小学校)
- (2) みんなであそぼう(中学校)
- (3) 地域とのかかわりを求めた生活単元学習(中学校)
- 【総合的な学習の時間】
- (1) 「わたしたちの町」の実践を通して(小学校)
- (2) 老人保健センターの人たちに,うたやげきをみせよう(小学校)
- (3) 養護(学級)交流から福祉の心を!(中学校)
- (4) 人にやさしい町(通常の学級・小学校)
- 【作業学習】
- 生徒一人ひとりがやりがいをもって取り組める実践(中学校)
- 2 教科別の指導
- 【必修教科】
- (1) 生活科 いっしょに季節を味わおう!「フィールドビンゴゲーム」(小学校)
- (2) 国語 調べたり,まとめたり,身近な情報を活用しよう!(小学校)
- (3) 国語 主体的に学習し自己表現する姿を求めて―「パソコン紙芝居」の台本づくり,作品発表を通して主体性を育てる―(中学校)
- (4) 算数 遊びを通して楽しく数の学習「あきカン積みゲーム」(小学校)
- (5) 数学 学んだことを日常生活の中で使う数学の授業(中学校)
- (6) 音楽 みんなが力を発揮できるニコニコ学級の全員合奏(小学校)
- (7) 図画工作 みんなで取り組む図画工作「だんご3兄弟をみんなでつくろう」(小学校)
- (8) 体育 いろいろな運動にチャレンジし,楽しく体を動かす学習(小学校)
- 【選択教科】
- (1) 外国語 英語に親しみ,学ぶ楽しさを味わう(中学校)
- (2) 情報 デジタルカメラを活用して―総合的な学習に向けて―(中学校)
- 3 領域別の指導等
- 【自立活動】
- (1) コミュニケーション能力の開発を図る自立活動(小学校)
- (2) 一人ひとりの自立をめざした学習「社会生活学習」(中学校)
- 【交流学習】
- (1) 「自分らしさ」が生きる交流(小学校)
- (2) 民話劇を通して自己表現力を伸ばす―健常生徒との触れ合いを大切にして―(中学校)
- 資料:盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領新旧対比
まえがき
学習指導要領の制定・改訂は,通常の教育が行うと特殊教育も行います。特殊教育の基本は,通常の教育に準ずる教育ですから当然です。しかし,小学校・中学校の教科中心の教育と知的障害教育における生活中心の教育とでは,基本的に違うところがあります。
小学校・中学校は,教科等の指導内容(学習指導要領)が初めに用意されています。これらを指導し定着をさせなければ,次の学習に支障をきたします。しかし,知的障害教育は,初めに子供ありきです。したがって,教科等の指導内容(学習指導要領)は,これだけはどうしても定着させなければならないということでなく,学習活動の目安程度の役割です。
さて,知的障害教育における小学部・中学部に関連する学習指導要領の改訂は4回目です。高等部は3回目です。
小学部・中学部の制定は昭和37年度で,目玉は,@軽度障害者対象A一般目標と具体目標の設定B教科の内容は具体的C学習困難な児童生徒への特例D指導方法として合科・統合を可能としたことです。第1回目(昭和45年度)の改訂は,@生活科の新設A養護・訓練の新設B重複障害者への特例を設けたことです。第2回目(昭和54年度)の改訂は,@訪問教育を位置づけたことです。第3回目(平成元年度)の改訂は,@小学部の各教科の内容の示し方を生活中心の教育に改めたことです。今回の改訂は,@総合的な学習の時間の新設A自立活動と名称の変更をしたことです。
高等部の制定は昭和47年度で,基本的姿勢は,@教育の枠組みは中学部に準ずるA専門教育は設けないB単位制をとらないということです。第1回目(昭和54年度)の改訂は,特筆するようなことはありません。第2回目(平成元年度)の改訂は,@専門教育を主とする学科を新設したことです。今回の改訂の目玉は,@選択教科の復活A専門教育を主とする学科の充実B訪問教育実施可能としたことです。
一般的には,学習指導要領が改訂されますと,@文部省は,都道府県の関係者に改訂の趣旨の徹底を図るために説明会を行います。Aこの趣旨を受け,都道府県は,所管する学校に説明をし,B校長は,その趣旨を生かして教育課程の見直しをします。C教師は,教育課程に基づいてそれぞれの年間指導計画を作成します。D教師は,年間指導計画に基づいて授業を行います。しかし,実際には,以上述べた順序でなく,教科書会社の作成する教科書や指導書に左右されることが少なくありません。
しかし,知的障害教育の場合は,有用な教科書はありませんので,自作の教材・教具を工夫・開発しなければなりません。したがって,@学習指導要領が改訂されますと校長は,改訂の内容を吟味し,A教師は,試行錯誤しながら1時間1時間の授業の展開を試みます。Bこの積み重ねが結果的に1カ月の計画,1学期の計画,1年の計画の改善につながり,Cさらに,学校の計画の改善となり,Dこれらが全国的な広がりになりますと,学習指導要領の改訂へとつながるわけです。知的障害教育の改善は,いわゆるトップダウン方式でなくトップダウンを考慮しつつもボトムアップ方式で行われます。
この意味で,本書は,学習指導要領改訂の趣旨を踏まえ,これまでの実践を確認し少し手を加えて生かしたものと,改訂の趣旨を生かし先取りし手探りで実践したものとがあります。
「これからの新しい知的障害教育に一石を投じることができればよいが」と思いを込めて作成しました。
作成に当たっては,お忙しいにもかかわらずご協力いただいた執筆者の皆さん,本書の企画・作成に特別のご高配をいただいた明治図書出版株式会社並びに編集部の三橋由美子氏に心からお礼を申し上げる次第です。
平成12年9月 編著者 /宮崎 直男
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- 明治図書