- はじめに
- 1章 授業づくりの大原則をおさえよう
- 1 一斉授業が成り立っているか?
- 2 「授業が成功する」とはどういうことか?
- 3 授業における教師の役割はなにか?
- 4 授業に臨む子どもはなにを考えているのか?
- 5 単元,題材,教材とはなにか?
- 2章 授業準備のポイントをおさえよう
- 1 授業の基本構成を知ろう
- 2 学習用具・教室環境をととのえよう
- 3 教材研究をしよう
- 4 授業のポイントをみきわめよう
- 5 子どもの言動を予想しよう
- 3章 すべての子どもをのばす授業をしよう
- 1 聞くことの指導からはじめよう
- 2 1週間で学習ルールを確立させよう
- 3 授業は平板にならないようにしよう
- 4 導入にひと工夫しよう
- 5 机間指導はポイントを絞って回ろう
- 6 一斉授業の中で個に対応しよう
- 7 授業と子どものノートを結び付けよう
- 8 発表の仕方を身につけさせよう
- 9 個と集団を生かすグループ学習にしよう
- 10 よりよい学習につながる振り返りをしよう
- 11 授業とテストをつなげよう
- 12 授業は科学的・論理的に考えよう
- 13 言葉がけを工夫しよう
- 14 授業の交通整理をしよう
- 4章 日常的な活動で授業づくりを支えよう
- 1 学級づくりと授業づくりを一体化させよう
- 2 学級だよりを有効活用しよう
- 3 保護者との関係を戦略的に考えよう
- 4 通信で学習の様子を知らせよう
- 5 授業参観を成功させよう
- 6 掲示物で教室環境をととのえよう
- 5章 Q&Aで分かる!成功する授業づくり
- Q1 子どもが話を聞いてくれないんです…
- Q2 失敗をしたときに,どうすればよいのでしょうか…
- Q3 学習指導案の書き方が分かりません…
- Q4 授業時間が余ったり,足りなかったりします…
- Q5 子どもたちの書くスピードに差がありすぎて困っています…
- Q6 教材研究の仕方が分かりません…
- Q7 グループ学習が成立せず,悩んでいます…
- Q8 子どもたちの音読がうまくなりません…
- Q9 授業での切り替えがうまくいきません…
- Q10 子どもたちが静かに座ってくれません…
- 参考文献
- おわりに
- コラム
- 1 的・化・性を使わない
- 2 席替えの教育
- 3 「なんの予告もなしに」…えっ?
- 4 ばかげたことから夢が育つ
はじめに
授業といえば,僕の場合,まずは一斉授業のことを指します。
一斉授業は,学校教育の基本です。数年前まで海外から見ても日本の子どもたちが優秀であったというのは,この一斉授業のシステムが有効に働いていたからに他ならないと思うのです。
30年以上前,僕が初めて教壇に立った頃は,教師の多くは,その立場であるというだけで保護者から尊重され,子どもたちがついてきてくれました。「先生」という存在が権威あるものとして機能していたのです。その状況では,特に努力をしなくても,一斉授業は成立していました。
それが,15年ほど前からしだいに薄れてきて,授業の成立しない教室が増えてきました。子どもが立ち歩いたり暴言を吐いたりといった目立った問題行動のみならず,子どもたちが生き生きと育つ学習の場として成り立ちにくくなってきているのです。
その原因として,DV,特別支援の必要な子どもたちが教室に入ってきたこと,いじめの深刻化・潜行化,核家族化やコミュニティとしての社会の教育力の低下などの,さまざまな教育環境の変化があげられるでしょう。
もはや,指導書に書いてあることをその通りに実施するような授業を続けているだけでは,子どもたちは離れ,親からは文句を言われて,授業が成立しなくなりました。甘っちょろい授業観では通用しなくなったのです。
今どきの子どもたちの現状に対応できるだけの授業の技術と哲学を,教師は身に付けていかなければなりません。
近年,「学び合い」「協同学習」といった新しい学びの形が現れてきて,一部では成果もあげているように見えます。僕自身も取り入れたこともあり,それなりの意義は否定しません。
しかし,一斉授業を成り立たせるための教師の技術をもたずに,そういう学習に若い先生が入り込んでいくことは,少し危険なように僕には思えるのです。
まだまだ全国の多くの学校では一斉授業の形で授業が行われていて,保護者もそういうイメージで授業をとらえています。一人の教師が取り組む新しい学習形態に対して,多くの教師と保護者の理解が得られにくいのです。一斉授業がある程度できる技術がついてから,教師主導だけではない学習の在り方へ目を向けていく方が,無理がないと,僕には思えるのです。
なぜなら,一斉授業の技術というものは,普遍的な教育技術だからです。したがって,どんな学習形態にも応用できる技術なのです。
一斉授業というと,ともすれば教師が強いリーダーシップを発揮して統率していくイメージが強いですね。
もちろん,教師主導であることはまちがいありませんが,一斉授業はそんな狭いとらえ方をしてはいけません。ここ数年の僕の授業を参観されたみなさんは,
「子どもが楽しそうで生き生きとし,しかも自分で考えていますね」
と,おっしゃってくださいました。子どもが楽しく考えているという場をつくり出すのが,これからの一斉授業なのだと,僕は考えています。
この本には,一斉授業を成功させるために必要なさまざまなポイントを書きました。子どものとらえ方と接し方から,教材研究,発問,授業のコツ,さらには参観日や通信での保護者への開示の仕方まで,教室の内と外の両方で考えていかなければならないことの道筋を示しています。
若い先生方は,まずは知識として一斉授業の在り方を一つ一つ学んでほしいと思います。そして,中堅の先生方には,自分の日々の実践と照らし合わせながら読んで,ご自分の授業観を確立していってほしいと思います。
2013年7月 /多賀 一郎
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- 明治図書