『アクティブ・ラーニングが絶対成功する！小・中学校の家庭学習アイデアブック』の詳細情報

　しかし，不登校やいじめ，学力や情緒に課題のある子など，今，学校は多くの難問を抱えて多忙化の中で四苦八苦している。アクティブ・ラーニングが必要とする深くて周到な教材研究や学習評価の工夫にまで，とうてい精神的にも時間的にも配慮が行き届かない状況にあるといえる。

　そのような中であるからこそ，アクティブ・ラーニングが実施困難であるからあきらめるのではなく，発想を転換して，アクティブ・ラーニングを実施可能にする新しい授業のアイデアを生み出して，先手必勝の原理で積極的に取り組んでいけばよいと考えてはどうだろうか。

　そこで筆者らの研究グループでは，「その鍵は家庭学習にあり！」ととらえて，学校でのアクティブ・ラーニングを活性化するための家庭学習のあり方を開発し，実践を通してそのエッセンスを提案することにした。キーワードは，家庭学習力という新しい学力の考え方と，家庭学習力アンケートを用いた子どものセルフ・アセスメントという自己評価・自己改善の方法である。

　筆者は，今から８年ほど前に，ベネッセ教育研究開発センター（現ベネッセ教育総合研究所）との共同研究により，『学力向上のための基本調査2008』（2009年発行）という研究成果報告書をまとめ，その中でこのような新しい家庭学習と学校での改善のあり方を提案した。

　本書は，そこで構成した概念や評価研究ツールを，子どものためのセルフ・アセスメントツールとして作り直すとともに，それを用いた「家庭学習力アップ大作戦」という新しい授業方法の研究成果をまとめたものである。それは，子どもたちが自分の家庭学習を仲間とともにエビデンス（アンケート結果）に基づいて，主体的・協働的に改善していく，家庭学習改善のためのアクティブ・ラーニングなのである。

　この「家庭学習力アップ大作戦」は，R-PDCAサイクルモデルに基づいた家庭学習改善のための自己マネジメント学習になっている。やや難しそうな用語が並んでいるが，実際には，本書の豊かな実践事例を見ていただければ，子どもたちが生き生きと，仲間と知恵と元気を共有しながら，意欲的に宿題や自学ノートに取り組んでいる様子に感動していただけるだろう。

　それ以外にも，本書には，自学ノートの優れた実践事例や，定期考査前のペア学習のあり方，年間を通した家庭学習力向上のためのカリキュラム・モデルの作り方，そして，家庭学習に取り組む決意と方法を生き生きと綴ったはがき新聞の活用法など，全く類書にない新しい授業アイデアが豊富に掲載されている。ぜひ，明日からの学力向上と小中連携教育のメイン・メニューとして取り入れていただければ幸いである。

　本書は，明治図書出版の編集部長である木山麻衣子さんのご厚意により出版できることになった。筆者の長年の夢を実現し，多くの先生方にこの取り組みの素晴らしさを共有する方法を提供してくださったことを記して感謝したい。また，家庭学習力アンケートによる研究を最初から支援してくださった，ベネッセ教育開発センター（当時）の田中勇作さんと小林洋さん，そして家庭学習力アンケートのイラストを描いてくださった加藤麻子先生にも心より感謝申し上げたい。

　子どもの家庭学習力は，一度身につければ一生の宝となる。そのための学校の先生方の取り組みが広がっていくことを心から期待している。

　　2016年11月吉日　　　早稲田大学教職大学院・教授　／田中　博之