- まえがき
- 第1章 学力向上のツボ
- 〜何で今までのやり方では効果がなかったか?〜
- 1.学力向上フロンティア事業
- 2.個に応じた指導
- 3.エキスパート・ノービス研究
- 4.子どもの分からないところ
- 5.学力向上策が徒労だった理由
- 6.学力を向上させるには
- 7.何故
- 第2章 学び合う学習デザイン
- 1.「学び合い」と「教え合い」
- 2.「20世紀型教育」から「21世紀型教育」へ
- 3.理論との再会
- 4.人間の能力はどこにあるか?〜「間(あいだ)」に着目して〜
- 5.「We」になろう!〜「みんな」がわかる・できるをめざして〜
- 6.目標の設定〜「先出しじゃんけん」で「みんな」を勝たせる〜
- 7.「形態情報」〜「言語情報」以外で「みんな」の大切さを伝える〜
- 8.評価〜「見ること」「見ていると伝えること」〜
- 9.可視化〜良さを見える化する〜
- 10.「教えられる子」はかわいそうか?
- 第3章 本気で考える子どもが育つ言語活動へ
- 〜国語科探究・思考・コミュニケーション〜
- 1.心の声「また?」「もういいよ。」〜国語教室の問題点〜
- 2.子どもたちの「本気で考える」姿が学力向上の鍵
- 3.探究的な課題のある学習をデザインしよう
- 4.子どもの思考を促す発問やツールを工夫しよう
- 5.コミュニケイティブな他者とのかかわり
- 6.おわりに
- 第4章 教師は算数・数学をもっと楽しもう
- 〜算数・数学の教材アレンジ〜
- 1.学力の要素と課題
- 2.教師が算数・数学をもっと楽しむ
- 3.教材アレンジの具体例
- 第5章 算数・数学科の優れた授業実践のひみつ
- 〜これまで見えなかった授業改善への手がかり〜
- 1.ある授業エピソードから
- 2.優れた授業実践の背後に隠れている授業改善の鍵
- 3.冒頭の実践的問題への1つの回答
- 4.「分数のわり算」の指導:その自律的な改善のために
- 5.われわれの実践研究の心は「デザイン科学」だ!
- 第6章 問題解決的な学習のすすめ
- 〜まず教師から体験してみよう〜
- 1.はじめに
- 2.ものづくりを取り入れた気象観測における問題解決的な学習体験
- 3.凸レンズの不思議
- 第7章 確かな学力に結び付く総合的な学習の時間
- 〜探究的な学習のつくり方〜
- 1.ある映画の主人公の姿から
- 2.探究的な学習って?
- 3.なぜ探究的な学習なのか
- 4.探究的な学習の実現を目指して
- 5.総合的な学習の時間で確かな学力を
- 第8章 生活科における教師の役割
- 〜「全人的学力」観と子ども理解の大切さを学びましょう〜
- 1.本稿の課題
- 2.生活科がめざす究極のねらい
- 3.生活科の教科特性
- 4.生活科教師の課題〜子ども理解の在り方〜
- 第9章 子ども一人一人の授業へのアクセシビリティと情報保障
- 1.一般的な授業の様子
- 2.脳と言語の関係
- 3.授業へのアクセシビリティとは
- 4.視覚情報のアクセシビリティ
- 5.聴覚情報のアクセシビリティ
- 6.授業での情報保障
- あとがき
まえがき
山積する教育課題を解決できる力を持つ教師を育てるため,そして,ますます複雑さを増す教育現場において即戦力として働くことができる新人教師を育成するために,新時代の教員養成の起爆剤として誕生したのが教職大学院です。
これまで教育研究は幾多の優れた知見を産出してきたといっていいでしょう。しかし,一方でそれらが現場に活用され,現場の役に立ったかと言われると疑問を感じる方が多いのではないでしょうか。
教職についた多くの新人教師が,こう言います。
「大学で学んだことはほとんど役に立たなかった。」
と。教員免許更新講習では,受講者である現職教師に,
「話としてはおもしろいが,役に立つかどうかは疑問である。」
「忙しい中で高いお金を出して学びにきてもこの内容では,わざわざ学びに来た意味がない。」
など,大学の教員の話は必ずしも評判がよいわけではありません。むしろ,「つまらない」「重箱の隅を突くようだ」「あまりにも研究的で実践には向かない」などの厳しい評価をいただくこともあるようです。
こうした認識の積み重ねが,いつしか研究と実践の乖離を生んでしまったのではないでしょうか。
これは研究者つまり大学にとっても,実践者,つまり学校現場にとっても大変残念な事態です。双方の目的は一致しているはずなのに,共に力を合わせることができない。日本だけを見つめるよりも,一度外国に出た方が日本のことがよく理解できるように,実践現場を研究的知見から見つめることによって,今まで見えなかったことが見えてくることもあります。
教育というのは複雑で高度な営みです。そこで起こっていることをきちんと理解するためには,対象に接近したり対象を俯瞰したりを繰り返すことが必要になってきます。
山積し,複雑化する教育課題の解決の糸口を見つけるためには,研究と実践ががっちりタッグを組むことが必要なのです。互いに尊敬し合い,よりよい教育のために協働することが求められているのです。
教職大学院は,研究と実践の橋渡しをする役目を担った教員養成機関です。私は19年間小学校教師を務めました。現場教師の一人として,正直に申し上げると,大学から発信されることはやはり難解で実践に移すのは難しいと思っていました。
しかし,上越教育大学の教職大学院で仕事をするようになり,同僚たちが発信する情報を見聞きするにつれて何度もビックリさせられました。「現場にとってこれほど有用な発信をしている人たちが,こんなにも集まっていたのか」と。教職大学院のスタッフは,研究的背景を持つ者と実践的背景を持つ者がいます。それぞれの歩んで来た道は違います。それもかなり個性的な道のりです。発信している内容もとても個性的です。
ただ,共通していることがあります。それは,
「現場に貢献したい。」
という思いです。
私は,同僚たちの講義に触れたとき,心からこう思いました。
「この話を現場にいるときに聞きたかった。そうしたら自分の実践はもっと違ったものになっただろう。」
執筆者の面々は,共通の原則である理論と個別の事象である目の前の子どもたちの事実を結びつけることができる希有な力量の持ち主たちです。子どもたちの姿をアップでもルーズでもとらえることができる人たちです。きっと皆様の実践をより豊かで広がりのあるものにしてくれることでしょう。
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- 明治図書
- 授業改善の方向性など、ニーズに応じた内容だった。2015/4/11ふみひこ