- はじめに
- CHAPTER1 伝統的PPPを改善した文法指導
- 1.改訂型PPPとは
- (1)提示(Presentation)
- (2)練習(Practice)
- @活動例1―Practiceでの伝統的な活動
- A活動例2―Practiceでの活動,若干の工夫を加えた活動
- (3)使用・産出(Production)
- (4)まとめ
- 2.Q&A 理想的な改訂型PPPを目指して
- 3.インプットの量と質に関する考察
- (1)英語を基本とする授業を
- 4.改訂型PPPに基づいた指導例
- (1)提示(Presentation)
- @導入
- A説明
- (2)練習(Practice)
- @リード・ルックアップ・アンド・ライト
- ARole play 1
- BRole play 2
- CRole play 3
- (3)使用・産出(Production)
- @Interview
- ARole play
- (4)生徒の知的好奇心に訴える活動例
- @Strategic Interaction
- AWhat will you say?
- BDiscussion 1
- CDiscussion 2
- DScenario
- CHAPTER2 日本のEFL環境下での語彙指導
- 1.教室でできることは何か
- (1)どういう単語を教えるべきか
- (2)どこまで深く教えるべきか
- @コロケーション
- A文法的機能
- B使用時の制約
- (3)どのように教えるべきか
- @一度に多くのことを詰め込まない―中心的語義から
- A日本語を効果的に使う―語彙リスト・単語帳の再評価
- B視覚的補助の活用―Dual Coding
- C繰り返しが大切―最初は間隔を短くする
- D似たような新出単語を一度に教えない
- E自律的な語彙学習者を育てる―語彙方略の提示
- 2.Q&A 効果的な語彙指導のために
- 3.実際の指導例
- (1)導入のための活動
- @フラッシュカードでの導入
- A語彙リストを使ったペアでの語彙学習
- Bオーラル・インタラクションによる導入
- (2)定着のための活動
- @同じ単語の小テストを繰り返し行う
- A英語の定義による単語小テスト
- Bセマンティック・マッピング・バトル
- (3)発展活動
- @Paraphrasing
- AKey-word Retelling
- B英英辞典を使ったT or F quiz
- CHAPTER3 動機づけ理論に基づく学習指導
- 1.学習者の動機要因を保護・促進する環境づくり
- (1)伝統的教師主導型教授方法と自律性促進の生徒主導型学習方法
- (2)学習者の協働意識を向上させ,英語不安要因を低下させる学習方法
- @熟達度
- A英語を使用する頻度
- B学習者の関係性
- (3)学習者の学習意欲・目標をより内在化させる学習環境の形成
- (4)まとめ
- 2.Q&A 動機づけに対する提案のために
- 3.実際の指導例
- (1)教師と学習者のコミュニケーション活動
- (2)時間制限を設けたペアでの活動
- (3)友達・教師に実際にメールを送る活動
- (4)プレゼンテーションのようなプロジェクト活動
- (5)TPRを使用した活動
- (6)カードを利用した語彙指導
- (7)答えから質問を考えさせる活動
- (8)間違い探しを利用したスピーキング活動
- (9)個人作業をする活動
はじめに
“Foreign languages are too hard for most people to learn well in classroom in the time available.”(Swan, 2005, p.387). 英語を,限られた授業時間の中で習得することは難しい―現実に,中学,高校と学んでも大多数の人が最終的には英語を身につけられていないのが現状ではないでしょうか。そのような中,特に“英語運用能力”の育成の重要性が強調され,英語学習熱は高まる一方です。小学校での英語(厳密には外国語活動)の必修化や,高校の授業が基本的には英語で行われることになるなど,日本の英語教育は今,変革のときにあると言えます。言語習得,第2言語習得(Second language acquisition[SLA])理論に基づくアプローチや具体的な指導法などが紹介されるようになり,例えば,コミュニカティブな教授法(Communicative Language Teaching[CLT])や,タスクに基づく指導法(Task-Based Language Teaching[TBLT]),また最近ではフォーカス・オン・フォーム(Focus on Form[FonF])という概念も注目を集めています。しかしながら,そのような,コミュニケーション能力育成を目指した授業,例えば,文法や語彙の説明や練習を最小限にとどめ,意味の伝達に重きを置いたCLTや,英語を使って何かをやり遂げる,課題を解決するというTBLT,また,形式よりも内容に焦点を当て学習者の「気づき」を促すFonFの理念に基づいた授業は,本当に成果を上げることができるのでしょうか。いわゆる「説明して,理解させ,練習させて使わせる」という伝統的な指導とは一線を画すこれらのアプローチは,必ずしも(あるいは,多くの場合において)うまく機能していないようです。後ほど詳しく述べますが,日本のように英語を外国語として学ぶEFL(English as a foreign language)環境では,CLTやTBLTでは「目標とする文法や語彙を習得できない」「正確な知識を習得できない」「流暢さの伸長も期待できない」「アウトプットの量を保障できない」「生徒の活動への意欲・動機づけを維持できない」。「〜できない」が多すぎるのです。現実的な問題としても,受験のこと,クラスサイズのこと,評価のこと,教師間の意思統一のことなど,こと問題が山積みです。ではこれらの問題を1つ1つ解決し,コミュニカティブな授業を目指し実現して,成果を上げることができるのでしょうか。残念ながら,CLTやTBLT,また,最近特に注目されているFonFがメインでは,日本の中学・高校において,現実的には,効果を上げることは非常に難しいと考えます。これらのアプローチは,確かにSLA理論に基づいている部分は多いのですが,日本における英語は,実際に日常生活では特殊な状況を除いてはあまり接することのない外国語であること,学校においてもその授業数が非常に限られていること,また,多くの生徒にとって英語は日常生活で使用する言語ではなく,受験のための最も重要な教科の1つであるという現実があります。これを考慮すると,主に海外でのSLA研究がベースとなるような知見を教室に持ち込み,そのまま実践していくことでは,効果は期待できないのではないでしょうか。SLA理論と日本での英語学習状況に大きなギャップはないでしょうか。充分なインプットと使用の機会がない日本でのEFL環境における英語学習を考えると,やはり,日本人学習者に適した学習方法を考えていくべきではないでしょうか。本書ではこの課題に真正面から切り込んでいきます。
本章に入る前にまずは代表的教授法について,いくつか簡単に概観します。伝統的教授法の代表としては第一に文法訳読法が挙げられます。英語を日本語に訳していくことがメインの日本でもお馴染みの授業です。文法に関しては演繹的に丁寧な説明がなされ,そこで得た知識を活用して学習者が訳を行い,教師が訂正あるいは,模範訳を示していくという流れになります。正確に読むこと,書くことが重要視され,話すこと聞くことはあまり対象となっていません。次にオーディオリンガル・メソッドですが,これは,口頭での訓練を重視し,対話を暗記し,文型練習を繰り返すなどの,機械的な活動を繰り返すことで言語が習得されるという考えに基づいています。 反復練習や,語形変化練習,置き換え練習など様々なドリルとパターンプラクティスによって,正確な言語行動を確立していこうとするものです。このどちらの教授法も教師主導型で,教師が目標とする文法や語彙のモデルを示し,学習の方向や進度をコントロールしていくことになります。文法の解説や練習はコンテクストのある言語活動とは独立して行われ,フォーカス・オン・フォームズ(Focus on Forms[FonFs])と言われます。この教授法は,教師の意図するように学習者が積み上げ式に個別に言語項目を習得していくことは期待できないというSLAの知見から,最近は批判的に見られる傾向にあります。
形式重視の伝統的教授法に対して,内容重視,コミュニケーション重視の教授法としてCLTが挙げられますが,どの程度形式よりも内容を重視するかによって様々なタイプが存在します。一般にすべてのタイプに共通するのは,伝える意味内容が最も重視され,特定の言語形式の理解や習得を目的とせず,コミュニケーションの道具として英語を使えるようにする目的があるということです。つまり,コミュニケーション活動を通じて「実践的コミュニケーション能力」を育成するということです。
このように主に意味だけに焦点を当てた教授法はフォーカス・オン・ミーニング(Focus on Meaning[FonM])と言われ,流暢さを伸ばすことはできるが,文法の正確さを向上させることは難しく,また誤った言語知識を定着させてしまう可能性が高いなど,特に日本の中学・高校では適していないと考えられることも多いようです。
先に述べた最近特に注目されている教授法が,TBLTです。タスクの定義は研究者によって様々で,またTBLTのバリエーションも多様ですが,松村(2009)はタスクの定義を(1)意味のやり取りに焦点を当てた活動であること,(2)課題としてのゴールを持つ活動であること,(3)自然な言語使用の際と同等の認知プロセスを要求する活動であること,と簡潔明快にまとめています。様々な定義が存在する中,その多くに共通するのは,FonFsのように言語形式に焦点を当てプラクティスするのではなく,与えられた課題に対して言語活動を行い,目的を達成することにより,英語を習得していく,あるいは,ある言語形式を習得していくという点です。TBLTは意味中心,内容理解中心の活動という意味において,意味に焦点を当て,必要に応じて学習者の注意を言語形式に向けさせるというFonFの理念を具現化している教授法であると言えます。
次に,英語学習環境について触れていきます。日常的に英語に触れる機会があり第2言語として英語を学ぶ環境はESL(English as a second language)環境と言われます。インドや米国内の非ネイティブの英語学習環境,日本人が英語圏の国に留学して英語を学ぶ場合,あるいは日本にいながら主に英語を媒介として仕事をしている状況がこれに当たります。それに対して,日常生活において英語に触れる機会,使用する必要がなく,主に学校教科の1つとして外国語として学ぶ環境をEFL環境と言い,日本のほとんどすべての学習者がこの環境で英語を学んでいます。近年,SLA研究の成果にはめざましいものがあり,その知見を中学・高校の現場でも取り入れようとする動きがありますが,その研究のほとんどがESLベースで行われており,先に述べたように,そのまま日本の状況に当てはまるかは,大いに疑問で,実際にSLAの理論を根拠とするTBLTやFonFがうまくいかないケースが多いようです(Sato, 2010; 2011)。ESL/EFLは学習環境の優劣ではなくあくまで違いであり,ESLでのSLAに基づく指導法をそのまま応用しようとするのではなく,EFLという,さらには日本での特殊な学習環境を充分に考慮して,教授法を考えていかなければいけないのではないでしょうか。本書ではEFL環境にある日本の中学・高校での効果的な指導法について議論し,また具体的に提示していきます。
2014年12月 著者代表 /佐藤 臨太郎
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- 明治図書
- 日本人にあったという視点でかかれたもので、実践的な内容を含むもので、勉強になりました。2016/8/2050代・中学校教員
- 大変具体的な事例が豊富で、従来型との違いがわかりやすく、すぐ現場で使えるものが多いと思いました。2016/8/450代・中学校教員