- まえがき
- 第1章 “気になる子”は学級が荒れる原因ではない 気になる子の指導 理論編
- 1 ある教室の風景
- 2 気になる子と学級の荒れ
- 3 気になる子とは
- 4 気になる子が特徴的な行動を繰り返すわけ
- 「気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ」の使い方
- ※第2章の実践編は,下記の項目を中心にして,各執筆者が,それぞれの主張を展開しています。
- 1「気になる子」をこう考える
- ▲気になる子の指導における失敗事例からここを気を付けるようになった,指導において大切にしていることなど,気になる子の指導についての基本的な考え方についてまとめました。
- 2気になるあの子とこうかかわった
- ▲@気になる子の現状・どんな子だったのかAどんなかかわりをしたか,具体的指導・支援場面Bその後のその子がどうなったかについて,子どもとのやりとりが具体的にありありとわかる形でまとめました。
- 3「気になる子」指導の極意
- ▲これまでの取り組みから導き出された,取り組みの要点をまとめました。失敗事例なども踏まえて,陥りがちなミスなども入れてまとめています。
- 第2章 気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ 気になる子の指導 実践編
- 1 チームの力で「気になる子」を支える
- 1 「気になる子」をこう考える
- (1) 「気になる子」とは
- (2) 失敗から得た教訓
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) その子ならではの特徴をもつA男
- (2) 不登校傾向のB子
- (3) 問題行動をとるC男
- 3 「気になる子」指導の極意
- (1) 周囲の生徒への指導
- (2) 「気になる子」本人への指導
- (3) 教育におけるアウトソーシング
- 2 見逃すな,「気になる子」のブレーキ要素!
- 1 「気になる子」をこう考える
- (1) ブレーキ要素を捉える
- (2) ブレーキ要素の軽減・除去
- (3) 試走から自分で
- (4) 複数の目ならさらに見えやすいブレーキ要素
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) リーダーとして貢献してきたしっかり者のA男(1年)
- (2) 授業妨害,エスケープを繰り返すB子(1年)
- 3 「あなたらしさ」で「気になる子」を勇気づける
- 1 「気になる子」をこう考える
- (1) 私にとっての「気になる子」
- (2) 「気になる子」の変化を促すアプローチ
- (3) 「周囲の環境」の変化を促すアプローチ
- (4) 本人と周囲を変化させる手立て=勇気づけの拡散
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) 特性が非常に強いAさん
- (2) 注目を引こうと必死な子(@問題行動 Aいわゆる「いい子」)
- (3) 感情を表さないD君
- 3 「気になる子」指導の極意
- (1) 「気になる子」本人へのアプローチ
- (2) 「周囲の環境」へのアプローチ
- 4 徹底的にかかわることで信頼関係を築く
- 〜一緒に課題を解決していくという視点をもって〜
- 1 「気になる子」をこう考える
- (1) 若い頃の「大きな勘違い」と「失敗」から学んだこと
- (2) 私が考える「気になる子」
- (3) 反発するタイプの「気になる子」
- (4) 孤立するタイプの「気になる子」
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) 出会いが最悪,金髪と違反学生服だった男子H(3年)
- (2) 自分の気持ちをはっきりと言えない女子R(2年)
- 3 「気になる子」指導の極意
- 5 気になる生徒? そのままでいい・丸ごと受け止める
- 1 暴力をふるう生徒
- (1) 火星人になる
- (2) 気持ちをみんなで共有する・共感する
- 2 不登校傾向の生徒
- (1) 腫れ物に直接触る
- (2) 予想される結末を考えさせる
- (3) 逃げ道をつくる
- (4) クラスの生徒の気持ちもすっきりさせる
- 3 いじめを受けやすい生徒
- (1) その場で介入
- (2) 学級指導
- 4 丸ごと受け止めるって言ったってねえ…
- (1) 自分の感情に正直になる
- (2) うまく指導しようとしない
- (3) 聞く話す
- (4) 大人として抱きしめる
- 6 できないことより,できることに目を向ける
- 1 「気になる子」をこう考える
- (1) 生徒の理解に努める
- (2) 生徒の何を見るか
- (3) まずは周りからという視点を
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) 不思議な行動のオンパレード。何でもやってしまうC君(3年)
- (2) 友だちづくりが苦手。すぐに固まってしまうA子さん(2年)
- 7 一人なら微力,大勢なら強力〜大勢とつながること〜
- 1 「気になる子」をこう考える
- (1) ゼロからのスタート
- (2) 気になる子を見つける
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) 落ちつきのない生徒
- (2) 学校に来ない生徒
- (3) 他の生徒が気を遣っている生徒
- 3 かかわり続け,つながりをつくる
- 8 相手の目で見,相手の耳で聞き,相手の心で感じる教師になる
- 1 「気になる子」をこう考える
- 2 気になるあの子とこうかかわった
- (1) 行事には燃えるが生活態度がだらしなくわがままな女の子Aさん(3年)
- (2) やんちゃな男の子Bさん(1年)
- 3 「気になる子」指導の極意
- あとがき
まえがき
みなさんの学級にも,気になる子がいることでしょう。気になる子が多いと「学級経営が難しい」と言われます。気になる子どもたちの気になる行動によって時には「学級がめちゃめちゃになった」という話も聞きます。
学級や学校訪問の際,みんなと違っている行動をしている子がいると「あの子は,○○で…」と,アルファベットや片仮名の「診断名」を聞くことがあります。また,ちょっと特徴的な行動をする子がいると「あの子は『グレー』で」と,「色が付く」ようなこともあります。
子どもたち一人一人には,誕生の喜びと,輝く未来を象徴した素敵な名前が付けられているはずです。しかし,いつ頃からか,本来の名前に「違う名前」が被されるようになりました。
専門的知識が不要だと言っているのではありません。気になる子を理解するためには専門的知識は必要です。しかし,それを学ぶ目的は,分類や区分けをすることではないはずです。より有効な支援を導き出すためのものであるはずです。もし,指導の難しい子に何らかのレッテルを貼ることによって,教師が安心し,責任をいくらか軽くしている段階でとどまっているのだとしたら,そうした知識は却ってない方がいいのかもしれません。
少なくとも現場教師の専門的知識は,子どもたちを分析するためだけに活用されるべきではありません。分析によって,その子を理解し,そして,よりよい支援というアクションを起こすための原動力となされるべきです。また,支援を必要としているのは,そうした診断名が付いたり,理由が明らかになっている子ばかりではないはずです。理由は特定できないけれど,気になる行動をしている場合も少なくないはずです。
そもそも気になる子を生み出している要因は何なのでしょうか。
それは,多くの場合,教師の「考え方」だと言っていいと考えています。「気になる」とは,言うまでもなく主観的な言葉です。気になる基準は,教師によって違います。
教室で奇声を上げる子がいたら,それを「うるさく迷惑な行為」と捉えるか,「不安であることのアラーム」と捉えるかでは,教師の指導行動は変わります。前者の教師は,その子が奇声を上げないように約束事をつくるかもしれません。また,教室の外に出すかもしれません。しかし,後者の教師は,不安を軽減するための手立てを講じることでしょう。
また,その支援の一環として,教室の外に出すことがあるかもしれません。しかし,前者の教師の指導行動の目的は,奇声を上げさせないことであり,後者の教師の場合は,不安を軽減することです。どちらが効果的かは,容易に想像がつくことでしょう。気になる子を伸ばす教師は,優れた手立てを取っていることは間違いありませんが,もっと優れているのは,それを支えている「考え方」です。適切な「考え方」で,妥当な手立てを講じるからこそうまくいくのです。
気になる子によって,学級が落ちつかなくなったという話を聞く一方で,昨年まで大暴れしていた子が,担任が代わったことによって落ちついた,支援のチームの方針が変わったことによって,落ちつきを見せ始めたなどの話が聞かれることも事実です。
本書に,実践を寄せている教師たちは,気になる子の気になる行動を「困ったこと」と捉える以上に,その子を「伸ばすチャンス」だと考えて様々な手を打っています。試行錯誤をしながら,それでも寄り添うことをあきらめずに生み出した手立ては,一つ一つが力強く感じます。
気になる子は,決して学級崩壊の原因などではありません。気になる子が学級にいられないならば,学級の在り方を変えればいいのです。そうした柔軟な教師の発想の転換が,気になる子の置かれる環境の変化を生み出し,結果的に気になる子の適切な行動が増加するのです。気になる子とつながり,気になる子の居場所をあの手この手でつくり出した教師たちのメッセージを受け取ってみてください。きっと,明日から気になる子の見え方が変わるはずです。
/赤坂 真二
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- 明治図書