- はじめに
- 第1章 高等学校の授業改革への道標
- 第2章 開かれる学びの世界
- 探究
- 1 これから求められる授業とは
- 2 1人残らず質が高く学ぶ課題のつくり方〜叩き台として〜
- 市民性
- 3 自ら知識を獲得してこそ〜与えられるのではなく仲間と協同して獲得する知識〜
- 言葉とアート
- 4 感性を育てる協同的な学び
- 教師の学び
- 5 学び合う高校教師たち〜ぐんま学びの会とともに〜
- 6 教師の学びとカリキュラム
- 第3章 「学びの共同体」の実践
- 言葉を学ぶ 社会を生きる
- 1 国語 小説『夢十夜』を学ぶ〜学びの協同で信頼関係をつむぎ伸びる学力〜 /小池 由美子
- コメント /茶谷 不二雄
- 2 日本史 地方支配と受領(10世紀ごろ)〜『尾張国郡司百姓等解』から考える政策の転換〜 /田濃 良和
- コメント /草川 剛人
- 3 公民 ケインズ経済学は、日本経済に効果的か?〜フリードマンの経済学〜 /橋本 渉
- コメント /金子 奨
- 4 英語 文法力と英語での表現力を付ける授業をめざして /沖浜 真治
- コメント /江利川 春雄
- 探究する学び 数学・科学
- 5 数学T 二次関数の最大値・最小値 /今野 雅典
- コメント /福本 茂男
- 6 数学U 微分法 /莅戸 貴利
- コメント /永島 孝嗣
- 7 化学 無機化学 アルカリ金属〜進学校での協同的な学びの挑戦〜 /小松 寛
- コメント /長野 修
- 世界と私の出会い
- 8 家庭科 心に響く授業づくりをめざして /寺田 雅子
- コメント /楢府 暢子
- 9 美術 工芸の授業実践 /小澤 功
- コメント /佐藤 学
- 10 音楽 ボディーパーカッション〜楽譜から飛び出た、形にとらわれない自由な音づくり〜 /志賀 義俊
- コメント /和井田 節子
- 11 体育 「かかわり合う授業」を通して /大槻 正
- コメント /岡野 昇
- コラム
- 進学校における授業改革―協同的な学びを受験学力にどうつなげるか―
- 「学びの共同体」に取り組んで―生物教師として―
- 生徒の声―生徒がつながる教室―
- 卒業生の声―学びの主人公となった生徒たち―
- 保護者の声―深い学びを求めて―
- おわりに
はじめに
高校の授業改革が急がれている。平成26年11月、中央教育審議会は、学習指導要領改定に向けて、「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる『アクティブ・ラーニング』)」の導入と、それに対応した教材や評価手法の検討を開始した。新しい時代に必要であることと、「知識・技能を定着させる上でも、また、子供たちの学習意欲を高める上でも効果的であること」をその理由として挙げている。
文科省は、「アクティブ・ラーニング」について、別な場で次のように説明している。
教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。
一方、「協同的な学び」について、本書の編著者である佐藤学は、2012年に次のように解説している。
個人の学びを小集団において協力し、相互に模倣し、比較し、吟味し、修正しあって、より高次な学びへと拡大し深化させる活動
「学びの共同体」をめざす「協同的な学び」は、文科省の言う「アクティブ・ラーニング」に含まれていることがわかる。ただし、「アクティブ・ラーニング」が汎用的能力の育成を目的とする、教師による指導方法を指しているのに対して、「協同的な学び」は、学習者の学びを広げ深めることをめざす、学習者の学びの姿を示しているという違いがある。とは言え、私たちにとって、文科省の方向性は理解できるものである。
さらに、12月には「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)」が出され、高等学校教育、大学教育及びそれらを接続する大学入学者選抜の抜本的な改革が提言された。この中では、我が国が成熟社会を迎え、知識量のみを問う「従来型の学力」や主体的な思考力をともなわない協調性はますます通用性に乏しくなる中、現在の高等学校教育、大学教育や大学入試は、知識の暗記・再生に偏りがちであり、思考力・判断力・表現力や、多様な人々と協同する態度など、真の学力が評価されていないと指摘されている。
今まで、高校の授業改革の必要性に対して、「大学入試が変わらないから難しい」と抵抗感を示す教師は多かった。しかし、大学入試が、知識の暗記・再生を測る試験から、思考力・判断力・表現力を中心に評価する試験へ変わろうとしているのである。
以上の背景もあり、「協同的な学び」に挑戦する高校教師は全国的に増え続けている。しかし、グループで学ぶと雰囲気は柔らかくなるが、それだけで汎用的な能力が付くというわけではない。今は「より高次な学びへと拡大し深化させる」ための質が問われる段階に入ったと言える。それは、実践の中で培われるものである。
そこで、本書は、さまざまな教科科目の実践を紹介し、それに対するコメントを付ける形を取った。コメントするのは、「学びの共同体」の授業に以前から取り組んできた教師やスーパーバイザーたちである。また、「学びの共同体」をめざす授業を受けた生徒や、我が子を通して「協同的な学び」を知った保護者の声も紹介した。
なお、ここで紹介されている実践は、読者がイメージしやすいように多少の改変を加えてある。また、プライバシー保護の観点から、生徒名は仮名になっていることもお断りしておきたい。
/和井田・浜崎
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- 明治図書