- まえがき
- CHAPTER1 得意分野で勝負する
- 01 得意分野をもつ
- 02 得意分野で貢献する
- 03 自らをメタ認知する
- CHAPTER2 二芸を身につける
- 01 大胆さと緻密さをあわせもつ
- 02 毛色の違う二芸をもつ
- 03 二芸の世界観を自らに溶かす
- CHAPTER3 費用対効果に敏感になる
- 01 周りに配慮しながら提案する
- 02 やめることも提案である
- 03 効率性を重んじる
- CHAPTER4 学びの対象をいくつかにしぼる
- 01 外の仕事には覚悟を要する
- 02 校内研究を大切にする
- 03 自分自身で選ぶことから始まる
- CHAPTER5 遊びを選ぶ
- 01 呑み会を楽しめる頂点はいまである
- 02 人生の問題として選び、捨てる
- 03 ちょっとした逸脱を愉しむ
- CHAPTER6 組織の機微を理解する
- 01 鍋ぶた組織の負の面を意識する
- 02 配慮のない管理職には敢然とものを言う
- 03 〈情〉を制すのが近道である
- CHAPTER7 コミュニケーション能力を高める
- 01 規範を破ることができる
- 02 歴史性がコミュニケーションを成立させる
- 03 コンテンツを広げ深める
- CHAPTER8 社会の変化に敏感になる
- 01 子どもたちの未来を想像し続ける
- 02 協働を旨とする
- 03 同僚の先生方をこそ成長の糧とする
まえがき
こんにちは。堀裕嗣と申します。四十九歳です。
教師という職業があくまで子どもたちを育てる、子どもたちを高めるものであると限定的に考えるならば(もちろん、ご存知のとおり、教師の仕事にはその他の要素がかなり大きくあります)、最もその仕事がおもしろく感じられ、充実させられるのはおそらく三十代であろうと思います。僕の実感から間違いなくそう言えます。
三十代は子どもたちとの精神的距離が、二十代のようではないにしても、まだそれほど遠くはありません。まだまだ体力もあり、既に十年の経験をもち、学級経営上、授業運営上のさまざまなことも見え始めていますから、次々に自分のアイディアを実現していけるのがこの年代です。更に言えば、まだ四十代のように学校運営に参画する年代でもありませんから、勤務時間内に比較的自分の自由になる時間があります。晩婚化の進む昨今ですから、まだ独身であればお金も自由になるでしょう。失敗すればまだまだ先輩教師にフォローしてもらえる年代でもあります。
でも、その充実は、実はあと数年から長くても十年なのです。これから少しずつ体力が落ちていきます。無理が利かなくなります。結婚・出産・介護と家族への責任が重くなっていきます。管理職試験を受けたり、校内で重要な役職に就いたりと、自分のことだけでなく学校全体、職員室全体のことに配慮しながら仕事をしていかなければならない年代もすぐそこまで来ています。学級の子どもたち、部活の子どもたちに自分の時間と労力のすべてをかけられる、そんな時期は決して長くはありません。
しかし、僕は「だから来るべき四十代、五十代への準備をしろ」と言いたいわけではありません。もちろんそれも少しは必要かも知れませんが、むしろこれからそういう時期が来るのだから、いまのうちに楽しむべきは楽しみ、充実させるべきは手を抜かずに充実させるべきだと申し上げたいのです。好むと好まざるとにかかわらず、教師生活は先の二十年が往路、後の二十年が復路です。三十代は往路の完成期。三十代までにどれだけものの見方と、スキルと、人間的魅力とを貯蓄し得たか。その貯蓄の在り方で教師生活の復路が決まります。貯蓄があれば復路はバランス感覚を発揮しながら充実したものになりますし、貯蓄がなければ復路は毎日の辻褄合わせに陥ります。
本書があなたの教師生活の往路と復路の連関を充実させることに少しでも役立つなら、それは望外の幸甚です。
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