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- その他の前置詞の教養
- ―「何かの間」「前後左右」を表すもの
- おわりに
はじめに
前置詞は,間違いなく,英語の指導における重点領域です。どんな英文を見ても,ほとんどといってよいぐらい前置詞が登場します。英語の前置詞には,in, on, at, over, under, acrossなどが含まれます。「移動の途中です」だと I’m on my way,「困っちゃった」だと I’m in trouble,「精が出ますね」だと At it again,「夕食はぼくのおごりだよ」だと Dinner is on me. のように,前置詞が活躍します。そこで英語力を身につけるには,前置詞の攻略が絶対に必要になるのです。
しかし,生徒の側からすれば,この前置詞は最難関な学習項目のひとつに数えられています。例えば,以下のような問題があるとします。
私が見たときその少年は逆立ちをしていた。
The boy was standing [ ] his hands when I saw him.
(1)by (2)on (3)at (4)with (5)against
自信がない 自信がある
1---------2---------3---------4---------5
130名の大学生を対象に調べたところ,正答(on)を選んだのは,約18%でした。その正答者の中で,自信がある(4,5)に〇をしたのは,約30%です。たとえ,正答を選んだとしても7割は自分の解答に自信がないということです。
英和辞典をみれば,ひとつの前置詞にたくさんの意味・用法があるため,なかなかとらえどころがないという印象を抱くようです。しかし,英語力の基盤を確かなものにするためには,前置詞の攻略は不可欠です。ここでいう「前置詞の攻略」とは,前置詞を使い分けると同時に,ひとつの前置詞を使い切ることができる力を身につけることです。これがまさに前置詞力です。
教師にとって,前置詞は教えやすい項目かといえば,生徒と同様に,どう指導してよいかわからないというのが多くの教師の率直な気持ちのようです。筆者は,前置詞指導において何が必要かと聞かれれば,それぞれの前置詞についてよく理解することだ,と回答します。前置詞の数は,限られています。これから50年経っても,前置詞の数は増えることはないでしょう。だとすれば,それぞれの前置詞の「意味世界」をしっかりと理解すること,これが指導の前提になるというのが筆者の考え方です。そういう筆者も,前置詞の意味世界を自信をもって語れるようになったのは,比較的最近のことです。前置詞の理解がしっかりしていれば,教師の経験を生かした指導上の創意工夫が生まれると思います。
筆者がコア理論を提唱したのは,もう35年以上前になります。それ以来,イメージで前置詞をとらえる工夫が目立つようになってきました。しかし,そのイメージに正当性があるか,また,提案されたイメージで説明できる用法が極めて限定的ではないか,という疑問を抱いてきました。
筆者は,博士論文で英語の前置詞を扱って以来,前置詞研究を続けてきました。その間,英和辞典の監修を行ったり,NHKの語学番組に出演したり,前置詞についての書籍を執筆したりしながら,前置詞のとらえ方について紹介してまいりました。一貫した主張は,前置詞にたくさんの意味があるのではなく,それぞれの前置詞には固有の意味がひとつあり,それをさまざまな状況に応用させて使用しているのだ,というものです。この「固有の意味」のことを「コア(用例に共通している本質的な意味)」と呼び,コアを感覚的にとらえ,その応用可能性を拡げることこそ,前置詞を理解する方法だということです。
本書は,英語を指導する先生方に向けて執筆したものです。気をつけたことは,2つあります。そのひとつは,コア・イメージが妥当で正当なものであること。そして,もうひとつは,都合のよい用法だけを挙げて「説明」を装うのではなく,個々の前置詞の用法の全貌を射程に含めて,コア・イメージが有効であることを示すこと。この2つです。
本書では,重要な英語の前置詞を取り扱います。あえて読み物として前置詞の意味世界を語るという文体にしました。上記の通り,これまで,いくつかの前置詞を取り上げた書籍を出版してきましたが,本書が最も網羅的で,最も本格的に個々の前置詞の意味世界をコアを導きの糸として紡いだものです。また,指導案として,「気づき」「理解」「関連化」「産出・自動化」を意識した具体例を示しております。英語の前置詞の指導を考える上で,「有用だったよ」とおっしゃっていただけると,この上ない幸せです。
2024年1月 慶應義塾大学名誉教授 /田中 茂範
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- 明治図書
- よい2024/1/3130代・中学校教員