- はじめに
- 序章 まずは確認!絶対厳禁の指導キャラ5選
- 00 学校崩壊寸前!青果学園のヤバイ先生たち
- 01 「毒教師」ゴーヤ先生
- 02 「ネグレクト教師」ナス先生
- 03 「熱心な無理解教師」パイン先生
- 04 「カリスマ教師」ウリ先生
- 05 「激おこ教師」オクラ先生
- CONSULTING REPORT 私立青果学園の学校課題とその改善策
- 第1章 フィードバックとは?【解説編】
- 00 フィードバックってそもそも何だろう?
- 01 フィードバックの語源
- 02 フィードバックの概念
- 03 人はいかなる場合に育つのか
- 04 子供が育つ3つの支援
- 05 フィードバックの種類
- 06 フィードバックの誤謬
- 第2章 スクールフィードバックとは?【理論編】
- 00 スクールフィードバックとは何か
- 01 学校におけるフィードバック
- 02 スクールフィードバックの目的
- 03 スクールフィードバックの3つの時間軸
- 04 スクールフィードバックの4つのレベル
- 05 「双方向・3時間軸・4レベル」がスクールフィードバックのカギ
- 06 「教室マルトリートメント」
- 第3章 スクールフィードバックを機能させる【補強編】
- 00 スクールフィードバックを機能させるには
- 01 適切な「観」をもつことの重要性
- 02 「見取り」とは
- 03 「教師2.0」時代
- 04 見取りの「手掛かり」と「指標」
- 05 授業のセルフフィードバック
- 06 子供の人生をも左右する見取り
- 07 見取りの注意点
- 08 信頼される教師
- 09 間違いや失敗を歓迎する教室
- Column 1 名も無きフィードバック
- 第4章 スクールフィードバックを支えるスキル【技術編】
- 00 子供の思考や思いを可視化する
- 01 心理的不安や困難をあぶり出す「SCT」(文章完成法テスト)
- 02 人間関係が一発で可視化される「指示観察法」
- 03 自分の授業力が可視化される「授業改善アンケート」「教師通知表」
- 04 消えてなくなる子供の思いを可視化する「写真観察法」
- 05 次の一歩を後押しする「問いかけ」
- Column 2 手間暇をかけず,AIにはできない教育を
- 第5章 スクールフィードバックを生かす【実践編】
- 00 スクールフィードバックを実践してみよう
- 01 「毒教師」の対応を検証
- 02 「ネグレクト教師」の対応を検証
- 03 「熱心な無理解教師」の対応を検証
- 04 「カリスマ教師」の対応を検証
- 05 「激おこ教師」の対応を検証
- FINAL REPORT 私立青果学園の研修成果と今後の展望
- おわりに
- 参考文献一覧
はじめに
ズバリ,お聞きします。フィードバックって何でしょうか?
今や,当たり前のように使われるフィードバックという言葉ですが,実は,多くの方がこの質問に答えられないことがわかっています。
そんなフィードバックについて,本書を読むことによって,以下の5つの成長が見込まれます。
@「フィードバック」に関する知識の習得
A「スクールフィードバック」の実践方法の習得
B「観」(教師としての見方・考え方)が教育に与える影響の理解
C「見取り」の理解と感度の向上
D「可視化の技術」(見えないものを見る技術)の習得
現在,フィードバック研究の進展は目覚ましく,次々と新たな成果が発表されています。
そんな中で,本書は,これまでの研究成果で明らかになっているフィードバックの概念を,現在の教育政策や学校の実態,自らの経験に基づいて捉え直し,「スクールフィードバック」という学校教育に特化したフィードバックを提唱しています。
ただし,今は,「今日の正解が明日の不正解」となるほど急速に変化している時代ですので,本書を含め,「これがフィードバックだ!」と言い切れるものは1つもないことはご理解ください。
ところで,私がフィードバックに興味をもつに至った経緯は,今,日本中の学校で熱心に取り組まれている「学習評価」に由来します。
学習指導要領が育成を目指す「資質・能力の三つの柱」を確実に育成するためには,学習評価の充実とその実質化が欠かせません。
学習評価に関しては,国立教育政策研究所が『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』(以下,“参考資料”)を発行し,評価規準の作成方法や評価の例などを驚くほど丁寧に示しています。
私は,この参考資料の理念を充実・実質化するための1つのカギとなるのが,フィードバックだと思っています。
学校におけるフィードバックとは,教師と子供の間で繰り広げられる「やり取りの循環プロセス」のことです。
どんなに立派な目標と指導と評価を計画しても,それを真に一体化させるためには,教師と子供のやり取りであるフィードバックが介在しなくては実現しないのです。
学習評価においては,1つ疑念を抱いていることがあります。
それは,そもそも評価を行う「教師の目」が正しくなければ,「指導と評価の一体化」の前提が崩れてしまうということです。
この問題は深刻です。
教師の見方・考え方は多様であるべきですが,意地悪な見方や狭量な考え方に基づいていては,教育は成り立ちません。
いまだに,体罰をしたり,理不尽に厳しいルールを押し付けたり,いじめと言われても仕方がないような不適切な指導をする教師が後を絶たないのは,望ましい「教師の目」をもっていないことも原因の1つでしょう。
歌人の俵万智さんは,ご子息のことを次のように歌っています。
「短所」見て長所と思う「長所」見て長所と思う母というもの
『未来のサイズ』(KADOKAWA,2020)
なんて素敵な目をおもちなんでしょう。
教師も,こんな目をもって子供に接せられたら,その子はどんなに幸せなことでしょうか。
実は,スクールフィードバックを行うにあたって,絶対に必要なのが,こうした温かく優しい目をもつことなのです。
温かく優しい目をもつから,子供を好意的に見取ることができます。好意的に見取るから,適切で前向きな目標と指導と評価の計画が立てられます。
そして,こうした中でフィードバックを行うからこそ,学習評価が充実し,実質化されるのです。
フィードバックは,よくロケットに例えられます。
ロケットは,空に向かって真っ直ぐ飛んでいるように見えますが,実際には,空気抵抗やその他の条件によって,少しずつ軌道が曲がっています。
しかし,ロケットのセンサーが機体・軌道のズレや揺れを鋭敏に感知し,絶妙に推進力を調整しながら軌道修正することで,真っ直ぐ飛んでいるように見えるのです。
ロケットとセンサーの間で行われる情報のやり取りが,学校ではフィードバックであり,送られてくる信号を正しく読み取るのに必要なのが,学校では温かく優しい教師の目なのです。
教育とは,最大公約数的に考えると,子供が目標に向かってよくなっていくことを期待して行う営みです。
これを是とするならば,授業や活動の前後で子供がどう変化したのかを教師が把握し,それを子供に伝えて,子供の学びを推進したり修正したりしなくてはいけません。
これがスクールフィードバックの本質です。
学習評価を充実・実質化させるために,本書のテーマであるスクールフィードバックが皆様の参考になりましたら同慶の至りです。
2023年7月 /佐々木 紀人
-
- 明治図書